それぞれで始まる戦い
戦場についた次の日の朝、開戦を待つ両国騎士団が揃い踏みしていた。
定刻になり、お互いを確認すると、遂に戦いの火蓋を落とす、火魔法による合図が両国から空高く舞い上がる。
「「うぉぉぉぉぉー!」」
両国騎士団が雄叫びを挙げながらぶつかろうとする最前線におれはいた。
おれは、開戦の合図と同時に溜め始めた魔素を雷魔法と斬れ味付与に代えるとその魔法を剣に乗せる。斬れ味付与は貫通力を持たせるためだけに使うので魔法の成分のほとんどが雷魔法で、剣が黄色く光る。そしてその状態からさらに最大限ディーナの剣を軽くした状態から放つ横一閃により雷魔法を剣から解き放つ。
バチバチと雷が大気を震わせながらおれの放った剣戟は弧を描き敵陣へ侵入すると、敵陣が準備した魔法障壁をいとも容易く貫通し、そのまま敵陣後方まで突き進む。この雷撃を受けた相手騎士はその場で剣を落とし、倒れ込む。そう、おれはこの魔法を殺すために使ったわけではなく、一時的な戦闘不能状態にするために使ったのだ。おれはこの間に勝負を決めるつもりでいた。
「よし、敵軍前衛はこれでほとんど機能停止したはずです。一気に行きましょう!」
「おぉぉぉぉぉー!」
味方からの歓声と興奮が入り混じった声がおれの背中側から聞こえる。
そのとき、後方に同じ団で編成されていたゼラスとアリスは半分呆れていた。
「あいつ、一人でなんとかできるんじゃないの?」
「えぇ、ぼくらの出番はないかもしれませんね。」
2人にそんなことを言われているとは露知らず、おれは気合を入れ直す。
「よし、もう一踏ん張り。」
おれは自分にそう言い聞かせ、自らに雷魔法と身体強化魔法を併用して、敵陣の本丸を目指して突っ込んだ。
一方、その頃の敵陣営。
「貫通性の雷魔法により自陣兵団の半数が戦闘不能!」
「その魔法を放った対象が本陣に向かっているようです!」
慌てふためく敵陣本部に敵国騎士団長と以前ルイ騎士団長を倒した額に傷のある少年がいた。
「どうする、コウ?」
騎士団長の言葉にコウと呼ばれた傷のある少年は答える。
「ぼくが行きます。」
そして、このコウもまた自らに雷魔法を纏って、おれの進行方向に向かって走り始めるのであった。
◇◇
その少し後、アーガンスでも動きがあった。
グレイブがいつもの森で待ち構えていたところに戦場から飛んできたいつものカラスがやってきて、グレイブの腕に止まる。
「そうですか、いよいよ始まりましたか。それじゃあこっちもそろそろ動きますか。」
グレイブは懐からボグイッドから受け取った紫色の水晶を取り出すとその水晶に魔素を込める。すると、その水晶は割れ、そこから紫色の煙が立ち上ったと思うと、その中に扉が現れる。
「これでよし、と。それじゃあぼくは城に戻りますか。」
グレイブは影の中に姿をくらまし、そして、アーガンスの街にある自室へ戻ると、魔物が押し寄せてくるまで少しの時間を待つ。
程なくすると門番から敵襲来を示す鐘の音が聞こえる。あちこちで信号弾も上がっているようだ。
「よし、きましたね。」
そう言ってグレイブは何事も知らないように、緊急時の自らの責務として、城にある騎士の詰所へ向かうのであった。
グレイブが詰所に向かう途中、詰所に報告をするために急いでいた伝令の兵士がグレイブを見つけ声をかける。
「グレイブ騎士団長!」
グレイブはさも何も知らないように振る舞う。
「敵襲ですか?」
「えぇ、西の森から魔物が大量にこの城を目指してきています!」
「では、まずは城門を閉鎖し、本部の伝令役以外は残っている騎士を全て城門の外で防衛させて下さい。ぼくもすぐに詰所に向かいます。」
言われた兵士は頷き、詰所にいる伝令のところへ走っていった。
グレイブが詰所につく頃には、緊急時の本部陣営にあたる騎士は数人程度だがすでに集まっていた。グレイブはそこにいる騎士を見渡し、声をかける。
「まず、空から状況の整理ができる者は現状の把握をして下さい。それ以外の者は騎士の在籍数の把握と分隊の編成をお願いします。まだ大丈夫だと思いますが、万が一の場合はぼくが王の護衛に向かいます。」
聞いていた騎士は頷くと即座に行動に移し、グレイブはしばらく各人からの報告を待った。
その頃、ラキカが秘密裏に集めた陣営は城門の護衛に助太刀したい気持ちを抑え、城門内の侵入を確認するための一部の人間を除き、それぞれが別々に身を潜めていた。ラキカは今回でこの件にケリをつけたいと考えており、その為にはラキカ達の護衛の存在がグレイブが行動を起こす前にバレるわけにはいかないのだ。
一方で、ラキカは精神を研ぎ澄ましグレイブの魔力を追いかける。するとラキカはグレイブの居場所を掴むが、どうやら今は詰所にいるようだった。しかし、きっとどこかのタイミングで王を暗殺しに行くのだろう。ラキカはそれを見越して事前に有事の際は城にいさせて欲しいと王に頼んでいたため、魔物の襲撃がわかった時点で急いで城へ駆けつけ、今はタリスと一緒に城の中で待機させてもらっていた。
「今のところ動きはなさそうだな。きっともう少し城壁の外の守りが疲弊したところで何かしらの行動を起こすのだろう。」
そして、しばらくそのまま2人はその場で待機しているとまさにその通りになる。騎士団の主力メンバーを抜かれた騎士は魔物の大群に押され気味で、尚かつ前回よりも魔物の1個体が全体的に強かったため、遂には城門を抜かれてしまう。
「やばい!抜かれた!」
その城門を守っていた騎士が、魔物の風魔法で吹き飛ばされると同時に守っていた城門が吹き飛ばされ粉々になる。そして、次の瞬間には魔物の群生がその空いた穴目掛けて集中し、もはやどうしようもない状況に陥っていた。
そして、その状況を察知したラキカ陣営の見張りの1人が空高く火魔法を打ち上げると、それに合わせて他の城門を守っていた3人も同じく火魔法を打ち上げる。そう、これが城の中にいるため外の様子がわからないラキカに対して城門が抜かれたことの合図だった。
ラキカはグレイブの動きを追いながらも、その4回の火魔法を察知する。
「やはり抜かれたらしい。こっちも動くぞ。」
ラキカの言葉にタリスは頷き身を隠していた部屋から外に出て急ぎ王の元へと向かうのであった。
その頃、詰所にいたグレイブは城門を抜かれた知らせを聞いたグレイブは残念そうに肩を落とすフリをする。
「そうですか。それでは、守るべき王の命のためにぼくは王の所へ向かいます。なんとか足止めをして、可能であれば騎士以外の兵士にも協力してもらって、魔物を挟み撃ちにして下さい。」
伝令は頷くとすぐさま城門付近に戻りながら大声で救援を要請する。しかしながら、昼間ということもあり最初に魔物が確認された時点で戦える人間はほとんど城門の外にでていたため、救援は得られず、口ではああいったものの、実はこの事もグレイブは想定済みだった。
そして詰所に誰もいなくなったのを見計らっていよいよグレイブは動き出す。
「さぁ、王様の護衛にでもいきますか。」
こうして、ラキカとタリス、そしてグレイブそれぞれがそれぞれの思いを胸に王のところへ向かうのであった。
いよいよオスタとの最終戦と、アーガンスへの2回目の襲撃が始まってしまいました。圧倒的不利な状況の中で、アーガンスは生き残ることができるのでしょうか?