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新たな力

皆様2018年は良い年になりましたでしょうか?今年は約半年間、お世話になりました。


来年もよろしくお願い致します。

おれたちはタリスとマーナに結婚を伝えたその翌朝にはテペ村をでていた。流石にこの日のうちにアーガンスまで帰ることはしんどいからしなかったが、その次の日の昼過ぎには王都へ戻る。


アリスが城に戻り、王の日程を調整している間におれはラキカと会う約束を取り付けた。日が沈み始め、城下町に明かりが灯り始める頃、おれはカイルの店でラキカを待っていると扉を開けラキカが現れる。


「おう、突然話だなんて、なんかあったか?」


いつものようにエールを頼むラキカにおれは要件を伝える。


「実は2つほどお話があります。」


「ん?なんだ、言ってみろ。」


運ばれてきたエールのグラスをラキカと合わせ、一口飲むとおれは騎士団の最終戦とアリスとの結婚について話をする。やはり誰に話すときでも、自分の結婚を伝えるのは緊張するものである。


騎士団の最終戦については、今度こそこの国を落とすつもりでグレイブは動いている可能性が高いだろう、ということで、おれとラキカの意見は一致していた。どれくらい集められるかわからないが、ラキカの古いツテで少し戦力を集めてみるそうだ。もちろん、ここにいるカイルもその一人だろう。


一通り話が終わると料理がでそろう。ラキカは次のエールを頼みおれもそれに乗っかる。


「これまでお前は自分のためだけに戦ってこればよかったが、これからは家族のため、そして、国のために戦わなくてはいけなくなる。」


「そうですね、でも、国のためっていう意味では今の騎士団で働いて戦うこと自体国のためなんじゃないですか?」


ラキカは持ってきたエールに手にしながら頷く。


「まぁそれはそうなんだがな、ただ、責任が変わってくるってことだ。これまでは、一個人として騎士団にいればよかった。もちろん、それ自体が国のために戦うことにはなる。ただ、これから先、お前のその実力から考えるともっと重要で、責任が重い立場になる可能性が高いんじゃないかっておれは思ってる。


おれはラキカのその言葉に首を横に振る。


「そんな、やめてくださいよ!ぼくはまだまだ新米騎士に毛が生えたくらいですし。実力についてはなんとも言えませんが、騎士団内の位置付けとしてそこまで急に変わるなんて、全然イメージがつきません。」


「だからこそ言ってるんだ。お前の耳には入ってないのかもしれないが、今回の魔物襲来時にお前の活躍は街中でも一部で噂になってるぞ?物凄い勢いで魔物をバッタバッタと倒していったとか、空を舞いこの国を守ったとか。騎士団としては、街中で人気や信頼のある人間を重い責に付かせることは珍しいことではない。だからな、そんなときが来るかもしれないってことを知っておいてほしいんだ。」


たしかに、このような状況だ。騎士団としては少しでも街中で人気のある人間を重要人物にして街の人に見える形にしておくことで騎士団への尊敬や信頼を保ちたいのだろう。


「わかりました。もしそんなことになったら、重い責任ほどやりがいがあると思ってなんとかするしかないですね。」


「まぁそうかもしれないな。なんにしても、死に急ぐなよ?」


おれは頷くと新しく冷えたエールを胃に流し込んだ。


◇◇


そして数日後、今度のオスタとの戦争のメンバーが発表され、ラキカの懸念が現実のものとなる。おれは詰所でゼラスと貼り出された一覧を見ながら思わず絶句する。


「おい、嘘だろ?」


一覧の中におれの名前はめい簿の一番上の少し下、そう、今回の戦争の副団長のメンバーの一人にあがっていたのだ。本来であればこの位置はおれなんかの名前が書いてあって良い場所ではない。ちなみに、そのすぐ上の団長の名前にはグレンの名前が書いてある。


おれの存在に気がついた周囲の騎士は複雑な顔をしていた。平常時だったらこんな大抜擢に嫉妬しないわけないのだろうが、騎士全体が疲弊している中で重責で戦争をすることはある意味殺されに行くのと似ているようなものだからだ。ただ、不幸中の幸いか、リストの中にはアリスとゼラス、そしてステンやマリと言った見知った人物で、且つ実力が担保されている人間の名前も確認することができた。戦争をしにいく戦力としては、今揃えられる十二分の戦力がリストには記載されていた。しかし、リストの中を何度か探しても、あるべきはずのグレイブの名前がそこにはない。


「やられましたね。」


横にいるゼラスはおれに囁く。


「あぁ、こりゃまずいね。実力者がほぼ戦争に集められてる。こんなタイミングでグレイブも一緒に暴れられたら誰も止められない。」


おそらく、これまでの戦争や前回の魔物の襲撃を元に実力者の選定を行っていたのだろう。前回の襲撃はこちらの数を減らすことも目的だろうが、戦力把握ももう一つの大きな目的だったのだ。


おれたちが部屋の隅で話をしているとアリスの姿が見えるので手で合図する。アリスもこちらに気がついたようで、手で合図だけするとしばらくリストを眺めていた。そして、一通りリストを見終わると何かを考えながらこちらに歩いてきてポツリと呟く。


「お父様、大丈夫かしら。」


どうやら、アリスも状況を理解したようだ。そう、今回何より心配なのはアーガンス王の命だ。残念ながらおれたちは全員戦争に出てしまっている。頼みの綱は戦争には参加しないラキカがどれだけ強い人を集められるか、といったところか。


「何にしても、ラキカさんと一度相談ですね。」


おれたちはその足でそのまま城の外にある森の中でいつものようにラキカと待ち合わせをしていた。招集されたメンバーの内容とおれたちの心配事を伝えるとラキカは口を開く。


「なるほどな。まず初めに、どちらにしても王の命は絶対守らないとだめだ。守るべきものがなくなってしまっては一気にやられる。そこはおれ自身が護衛をできるように、王と交渉してもらえないか?おれの命に変えても王は守る。」


「もちろんですわ、ラキカさんに護衛できなかったら、他の誰にも無理だと思いますわ。話をしてみます。」


ラキカは頷き続ける。


「後は、城の外の護衛と街中の警備だな。グレイブがどんな手立てを使ってくるかわからんが、そこまで簡単にこの城壁内に大量の魔物を発生させることはできないだろうから、基本は前回のように城壁の外で侵入を阻止することになるだろう。ここは残りの騎士にまかせるしかない。あとは街中に万が一魔物が発生した時に対応できるようにしておけばなんとかなるだろう。」


グレイブがどれくらいの魔物でこの国を落とすつもりかわからないが、こんな回りくどい手を使うくらいだからそこまで圧倒的な武力を準備することはできないはずだ。全く以てなんともならない、なんてことはないだろう。ただ、やはり心配は残る。


「残された騎士団と、ラキカさんが集めてくれた方だけでこの国を守りきれるでしょうか?」


「相手の戦力次第だからなんとも言えない。だが、やはり厳しい戦いになる可能性は高いと思う。まぁそうは言ってもこればっかりは蓋を開けてみないとわからないな。出来るのは、個々の戦力増強くらいだ。表向きは魔物から攻められるなんてことはいえないしな。」


おれたちはラキカの言葉に頷き、少しでも戦地から早く戻ってこれるよう、自らの実力向上に励むことにした。


◇◇


その頃、グレイブはおれたちのいる森とは違う森でいつものようにボグイッドと呼ばれる影と話をしていた。


「いよいよだな、抜かりはないか?」


影からの問にグレイブは答える。


「えぇ、予定通り前回の攻防で兵力を掴むことができましたし、その攻防で今回は前回より戦力が減らすことができました。それに、邪魔になりそうな人物はある程度戦争にでてもらうことにしたので大丈夫です。」


「全ては計画通り、ということだな。」


グレイブは頷く。


「それに加え、前回の戦力の1.5倍を準備し、さらにぼくがいるんですから。ほぼ間違いないでしょう。」


「そうか、今回のアーガンスへの進行で随分余の魔力も使ってしまったが、これがうまく行けば代償としては安いものだ。抜かりなく頼むぞ。」


そういうと、前回と同じように紫色の水晶をその影からグレイブは受け取る。


「えぇ、大切に使わせていただきます。」


「うむ、では祝報を期待するとしよう。」


そう言うと影はすっと消え、その場から禍々しい気配もなくなる。


「さぁて、それじゃあ仕上げといきますかね!」


グレイブは自分の魔力をその水晶に込め、その懐へしまうと、グレイブもまた影の中に姿を消した。


◇◇


おれはアリスとゼラスに話をして、ラキカに昔連れてきてもらった森に一人で来て、タリスたちが王都に来るまでの間、修行に入ることにしていた。今回のオスタとの戦争に出るまで少し日があったため、その期間にもう少し強くなりたいと思ったのだ。もちろん、実践で強くなる手もあったが、おれは前から少し落ち着いてやりたかった、魔法の同時使用をなんとかこの機会で習得を目指した。しかしながら、これまで出来なかったことが当然いきなりうまく行くはずがない。


おれは両手同時に右手に炎を出しながら左手に氷を生み出そうとする。しかし、そんな器用なことができる訳がなくどちらも発現しないか、どちらも同じになるかのどちらかだった。


「うーん、やっぱり難しいな。んじゃこれなら?」


今度は、左手にまずは炎の魔法を出した後、その状態を維持しながら右手に氷魔法を発現しようとする。すると今度は、右手の氷魔法が発現しないか、気がつくと両手とも氷魔法になってしまっていた。


「あー、難しい!どうしたらいいんだ、これ?まぁいっか、いきなりできるわけがないし、とりあえず久しぶりにここの風呂でも入るかな。」


持ち主がいない状態で全く使われていなかった岩場のお風呂はとてもじゃないがそのまま使えるような状態にはない。おれは水魔法を勢いよく岩に叩きつけ、長年をかけてこびりついた苔などの汚れを岩肌の表面を削りながらきれいにしていく。しかし、そんなに簡単にきれいになるわけがなく、汚れを落とすためにはある程度幅を狭め、水圧を高く出す必要があったため、綺麗になるところは局所的であった。


「まぁ地道にいくしかないね。」


おれは自分にそう言い聞かせながらただひたすら水魔法を行使しつづける。そう、ただひたすら、ひたすら。こんなことを続けていたらそれこそ夜になってしまうのではないか、というくらい。


しかしそんな中、あるときおれの中で何かが閃いた。


「ちょっとまてよ?これ、おれほとんど何も意識しないで使えてるよな?」


そう、長時間にわたる同一魔法の連続行使をしていたため、特に意識をしなくても水魔法を使うことができていたのだ。


おれはこの風呂掃除の傍ら、空いているもう片方の手で火魔法を行使してみる。


「お、おぉー!」


おれは歓喜の声を上げる。火魔法を使うと水魔法が不安定になるものの、確かにおれの片手からは水が、もう片手からは火がでていた。


おれはその感覚を忘れまいと、しばらくその状態で両属性の魔法の行使を続ける。すると、次第にどちらも安定した出力が出せるようになってきた。


そして、その属性自体を行使できるようになると、左右で大きく出力差を変えない限りは、形や大きさを変えるのはそこまで難しくなかった。おれは調子に乗って少し魔素の使用量を増やし過ぎてしまい、危うく水魔法でお風呂に穴を開けてしまうところだった。


「ふぅー、やっぱりこのお風呂、気持ちいいなぁ。」


おれは一通り綺麗にしたお風呂に水をため、温めると久しぶりの風呂を堪能していた。お風呂の気持ちよさはもとより、やはり自分が長年慣れ親しんだこのお風呂に浸かりゆっくりする、というところに意味があるのかもしれない。


おれは初日の成果に満足し、次の日からさらに他の属性も使えるように練習することを決意するのであった。

なんと以前少し出てきた魔法の同時行使ができるようになってしまいました。イメージはミッション車の運転でクラッチペダルの操作と右足の操作を慣れれば無意識にできるようになる、といった感じでしょうか。

そして同時行使ができるようになれば、いよいよ次回にはあれができるようになります。どれだけショウは強くなったら気が済むのでしょうか?

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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