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騎士の懐柔

おれとアリスの婚約はおれの両親の顔を立てるためにも、正式にはタリス、マーナと顔合わせ後に問題がなければ発表することにした。それにしても、タリス、マーナはこの話をしたらどんな反応をするのだろうか。それに、王はおれの母親が姉だとわかったらどうだろう?ただ、今は騎士団が戦争にでているため、タリス、マーナへの報告は騎士団が戻ってきてから進めることにすることで合意した。


その騎士団の戦争についても今回は騎士の犠牲は多いもののなんとか辛勝できたらしい。今回は初めての戦争のときのようにルイ騎士団長を殺した相手の騎士はいなかったらしく、グレイブも指揮を取るだけで本人が戦うことはなかったそうだ。それでも被害は甚大で、この戦争に行った騎士の3分の1ほどが帰らぬ人になったそうだ。結局この一月程度で騎士の数が3分の2程度まで激減しており、その中には負傷者も多数いたため、実質の戦力は3分の1程度まで減ってしまっていた。


そんな中、グレイブがアーガンスに戻り少しすると騎士の招集がかけられ、おれたちはいつもの詰所にきてグレイブの講話を聞いていた。


「今回はオスタとの戦争、そして全く予期していなかった魔物の襲撃の両方に尽力頂いた騎士の皆様、ありがとうございます。皆様のおかげでなんとか戦争は勝て、魔物の襲撃からもこの国を守ることができました。ただ、今回で犠牲となった人も相当数おり、魔物からの襲撃は予期せぬ出来事とはいえ、この責任は私にあると思っています。大変申し訳ありませんでした。」


グレイブの話し方は至って好意的。自分の非を認め、相手に受け入れられた上で今後どうしていくのかを話していく姿は万人から受け入れられやすいだろう。だが、疑いながら聞いていると逆にその遜った感じが怪しく見えてくる。


「本当は、今回の責任を取って騎士団長の任を辞そうかということも考えました。ただ、この場で責任をとって騎士団長を降りたところで犠牲者が戻ってくるわけではないし、今回犠牲になった誇り高き騎士団の皆様がそれを望んでいるのか、ということや、今のこのよくない現状、これらを踏まえ、もう少しだけ、そう、例えば、最長でもオスタとの決着がつくまでは責任を持ってやらせてもらえないでしょうか?それが、騎士団長としての最後の責任の取り方だと思っています。」


静かに、だけど力強く決意のこもった言葉に、詰所の一部からパラパラと拍手が聞こえ始めるとその拍手の音は次第に大きくなっていき、そのうち自分も拍手をしてしまう。そう、これなのだ。これがあるから疑念を持っているのは自分だけかと思い、そして流される。この講演も含め、グレイブの演出なのだ。そしてこの受け入れられた下地を作った状態で本当に自分が言いたいことを通すのがグレイブのやり方なのだろう。グレイブは拍手が収まってきたところで話を続ける。


「ありがとうございます。それでは、もうしばらくは責任を持ってこの任を務めさせていただきたいと思います。では、この場を借りてもう1つお願いがあります。」


グレイブはひと呼吸を起きながらその場にいる一人ひとりの顔を見ているかのように詰所内を見渡す。


「この大きな犠牲の上に拓かれた道を、オスタへの勝利への道へと繋げるために今一度オスタに戦争を仕掛け、オスタとの戦争にケリをつけたいと思います。もちろん、これは強制ではありません。ただ、今回の戦争に騎士の皆様の賛同が得られなかったとしても、ぼくは一人で戦地に向かいます。それくらい、重要な局面だとぼくは思っています。」


こんなことを言われたらさっきグレイブの騎士団長継続を認めた手前、なかなかこの戦争自体を否定しにくい。何より、次が最終というのであれば、この長く続く戦争を早く終わらせたいという気持ちから賛成しやすい状況にもあるだろう。先程と同様、いや、それ以上の拍手がこの場を埋め尽くし、グレイブは頭を深々と下げる。


「皆様ありがとうございます。このアーガンスのために、死力を尽くしましょう!また詳細は別途連絡します。」


こうして、全てはグレイブの意のままに騎士団を操られながらオスタとの最終戦に向けて準備を進めることになった。


招集の帰り道、おれとゼラス、アリスのいつもの3人組は食事をしながら話をしていた。


「相変わらず上手くやりますね、グレイブ騎士団長は。」


「あぁ、あんな言い方されたらなかなか断れないだろうね。結構騎士団のみんなも疲弊してきてる感じがするから、そろそろ騎士団長についてこない人が出始めてもおかしくないのに。」


「私たちは色々疑ってるからそう感じるかもしれないけど、ステンさんやマリさんとかはやっぱり信じてる感じだもんね。そう考えると本当に私たちの思ってることがどこまで正しいのか、不安になるわ。」


おれたちは顔を見合わせながら思い思いのことを呟く。騎士全体の雰囲気が重いため、おれたちだけで集まってもどうしても暗い話になってしまう。こんなことばかり考えていたら暗くなりすぎて気が滅入ってしまいそうだから、おれは無理矢理話を変える。


「そいえば、明日の朝にでもテペ村に向けてでようと思ってる。」


「あ、ショウくんのご両親のところに行かれるんですね。騎士団に入ったばかりの頃にぼくがアリスさんと結婚して王子になったらどうですか?って話をしたの覚えてますか?まさにそれが現実になりましたね。」


おれとゼラスの会話にアリスは驚いていた。


「あんたたち、そんなこと話してたの?」


そういえばそんなことを言われたな。それがまさか現実になるとは思いもしなかったな。しかし、それと同時に当時おれが言ったことも思い出した。これ、よくない流れだ。


「えぇ、でも、その時ショウくんは『セシル様とだったら受け入れるけどね』って言ってたんですよ。」


ゼラスは冗談半分で言っているがアリスの目はマジだ。おれはゼラスが言葉を言い終わると同時に全身に力を込め、隣に座ったアリスの裏拳を甘んじて受けることにする。


「あんた、やっぱりお姉ちゃんが好きだったんじゃない!」


全くゼラスはめんどくさいことを言ってくれたものである。おれはこのあとしばらくアリスのご機嫌取りをすることになる。もちろん、この騒動の発端を巻き起こしたゼラスも当然巻き込んでやった。相変わらず夜は長い。


◇◇


グレイブが招集をかけた翌日、日が昇る前におれはアリスとテペ村を目指していた。おれはラキカにも騎士団の動きも含め話をしておきたかったが、ラキカはちょうどいなかったので伝言だけ残し、おれたちはアーガンスの街を出た。


旅慣れたおれたちは最低限の馬の休み時間を確保しながら移動することでこの日の夜にはテペ村につくことができた。


おれとアリスは納屋に馬を預け、家への道を歩く。


「やばい、やっぱり緊張するわね。」


不安そうに顔を曇らせているアリスの手を握る。


「大丈夫だよ、これまでも何度かあってるときに楽しそうに話をしてたよね?」


「それとこれとは話が別でしょ?」


口ではそう言うが、アリスが握り返してきたその手からは震えが止まっていた。おれたちは家の前まで着くと深呼吸をする。


「じゃあ、いこうか。」


おれは家の扉をノックすると中から少し警戒を感じる低めの声でタリスの返事が聞こえる。


「どちら様でしょうか?」


まぁそりゃこうなるよな。こんなに早く来ることになるとは思っていなかったため、手紙も出せずじまいだったから突撃帰宅である。


「あ、突然ごめん、ショウだけど。」


おれの言葉にバタバタと走りこちらに向かう足音が聞こえ、そして扉が勢いよく開く。


「ショウ!無事だったの!?」


そういって出てきたのは返事をしたタリスではなくマーナだった。そしてマーナはおれの後ろに隠れている人影に気がつく。


「後ろにいるのは、、アリスちゃん?」


アリスは少し恥ずかしそうにおれの後ろから出てくる。


「ご無沙汰しております、お母様。」


マーナは一瞬驚くがすぐにその顔が笑顔に変わる。


「久しぶりね、アリスちゃん。さぁ、立ち話もなんだわ、中にどうぞ?」


中に入ると、外套を脱ぎ、懐かしいダイニングテーブルに通される。


おれとアリスは横並びに座ると、タリスも同じく席につく。マーナはどうやらお茶でも入れてくれるらしい。


「突然こんな時間に来るから誰かと思ったが、安心したよ。王都が魔物に襲われた噂は聞いていたからお前たちのことを心配していたんだ。」


「うん、たまたまぼくらは王都に残ってたんだけど、かなりの数が犠牲になってるよ。」


「噂でしか聞いてないが数が多いのに加えて大型の魔物なんかもいたんだろう?」


おれはアリスと顔を見合わせるとアリスも首を傾げていた。


「たしかに、数が多かったのは間違いないし、確かに中には強い魔物もいたけど、大型の魔物なんていたかな?それにね、実は、ラキカさんとも協力しながら色々調べてるんだけど、今回の襲撃はグレイブ騎士団長が黒幕なんじゃないかって思ってるんだよね。」


遠くで起きたことには尾びれ背びれがつくものである。おれはこないだの襲撃の状況やこれまで調べたことと合わせて、今の状況などを掻い摘んで説明する。


「そうか、その仮説が全て正しければ、かなり大規模で本格的に魔物たちはアーガンスを取りに来てるんだな、きっと。まぁなにはともあれ、2人がとりあえずこれまで無事でよかった。」


話が一区切りするタイミングを見計らったようにマーナが簡単な軽食とお茶を出してくれる。きっと、おれたちがお腹を空かせているのに気を使ってくれたのであろう。そして、おれたちはもちろん安否を報告しにきたわけではない。大きく息を吸い込み、おれはここに来た目的を伝える。


「あのね、お父さん、お母さん、今日はその話とは別に大切な話があってきたんだ。」


おれが改めて話を切り出すと、それを待っていたかのように2人は背筋を正す。おれはアリスと顔を見合わせ、頷きあう。


「おれ、アリスと結婚しようと思ってるんだ。」


おれの言葉にタリスとマーナもお互い顔を見合うと2人で笑っていた。


「えぇ、2人ともお似合いだと思うわ。私たちに負けないくらい良い夫婦になると思うわ。」


「あぁ、アリスちゃん、ショウを色々助けてやってくれ。」


おそらく、おれたちが2人できた時点である程度予想はついていたのだろう。特に大きな驚きもなく受け入れてくれた。そしてアリスはタリスの呼びかけに頷く。


「それでね、こないだ実はアリスのお父さんのアーガンス王にも挨拶にいったんだけど、お父さんとお母さんにも顔合わせさせてほしいって言われてるんだよね。だから、都合つけて王都にこれないかな?」


マーナは少し遠い目をして呟く。


「そうね、久しぶりにイグニスの顔でも見に行ってあげようかな。」


「いいのか?」


タリスが心配そうにマーナの顔をみる。


「えぇ、イグニスは小さい頃からよく面倒を見てたし。彼にはちゃんと真実を伝えてるはずだし大丈夫よ、きっと。ちなみに、アリスちゃんは全てを知っているのよね?」


おれは頷く。


「そう、じゃあ決まりね。あなた、私はいつでも良いから、適当に日を決めてくれるかしら?久しぶりの王都、なんだかわくわくしてきたわ。」


「だそうだ、よかったな、ショウ。んじゃおれたちは5日後に着くくらいにいくから、それ以降でアーガンス王の予定を確認しておいてもらえるか?」


「ありがとうございます。父もきっとお二人に会うのを楽しみにしてると思いますわ!日程は私で調整させていただきます。」


アリスの言葉にマーナは頷く。


「私もよ、アリスちゃん。2人にもよろしく伝えといて?」


「はい、お伝えさせていただきます!」


「さぁ、今日は2人とも1日移動で疲れただろう?今日はゆっくりしていくといい。」


おれとアリスは無事両家の両親に結婚を認められ、ホッと胸をなでおろすのであった。

言葉というのは特にはどんなに強い武器よりも強いものですよね。周りの雰囲気や上席者の意見というのはそれだけ人を動かす力があるのです。グレイブももう少しちがった形で人の上にたってたらもっと活躍できたんでしょうけどね。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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