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王の思い

おれたちがグレンに扮した魔物と戦い終わり、しばらくすると街の外の魔物も大方片付いていた。やはりグレンの判断で大本を叩きに行ったのが正解だったようだ。最終的には大本を叩きに行った騎士と城門を守っていた騎士で挟み込む形になり、なんとかアーガンスの城と街を守ることができた。しかし、騎士の犠牲もある程度あり、こちらに残っていたおよそ3分の1ほどが命を落としていた。


おれたちは王と王妃の従者が呼びに来たことで、ようやく事態が収束したことを理解する。


「おそらく犠牲も多かろうが、なんとかこの城を守り切ることができてよかった。ありがとう。」


従者が安全を伝えに来たときに素直におれたちに頭を下げる王に驚く。


「勿体無きお言葉、ありがとうございます。」


おれは胸の前に手を当て、膝をついて騎士の礼をする。


「うむ。ただ、ちょっとこれからのことを考えないといけないかもしれないな。」


おれは意図していることの意味がわからず首を傾げると、王は自分の考えを教えてくれた。これまでは戦争は騎士がやるだけで、騎士が犠牲になるだけなら多少の国民の生活が貧困になる程度はやむなしと思っていたらしい。しかし、その考えを改めないといけないと思っている、ということだ。


「つまり、戦争はやめるべき、と?」


おれの問に王は頷く。だが、その場合王自身がオスタからどういう扱いを受けるか、それももちろん知っているだろう。だからこそ、この場では話をそらした。


「まぁ難しい話はまた機会があったらしようか。それより、ショウくん、君とは王としてではなく、娘の父親として、あわせてもらいたいものだな。」


おれは突然の話の切り替えに驚くが、ここは堂々としなければなるまい。


「はい、是非。ぼくからもご相談させて頂きたいと思っておりました。」


「ちょ、ちょっと?ショウ?」


アリスは突然の話の展開に驚いているが、王妃はおれたちを含めたやり取りを微笑ましく眺めている。王に対し、父親としてあってもらう、というのはつまりは娘と結婚させてくれと言うようなものだ。アリスもこの意味を理解しているが、お互いの気持ちを確認してから日はほとんど経っていないから、アリスはきっと心配しているのだろう。

この世界でも、転移前と同じように結婚する前に付き合ったり、別れたりというのは日常茶飯事だったが、やはり王族ともなるとそういうわけにはいかない。もちろん、非公式的に2人の中だけで話が収まっているのであればよいが、王に挨拶をしに行った挙げ句、別れました、というのは打首とまでは行かないまでも、島流しにあってもよい刑罰の対象だった。


ただ、元よりアリスの事か好きだとわかった時点で、もし付き合ったらいつかはこうなることは予想できていた。そして、アリスと一緒に王の護衛につくということは、多かれ少なかれこういった状況になることも。


「大丈夫だよ、アリス。わかってる。」


おれはアリスにそう言うと、アリスは少し恥ずかしそうに下を向く。このやり取りを見ていて照れくさくなったらしい。


「ご、ごほん!それでは、とりあえずその話はおいておくとして、まずは現状把握を頼む。グレン騎士団長代理に話を通しておいてくれ。」


王は近くにいた従者に声をかけると、従者は駆け足でその場を後にした。おれたちにも続ける。


「それでは2人とも、今宵はご苦労であった。しばしゆっくりと休まれよ。」


おれとアリスはその場で騎士の礼をし、こうして、騎士団不在による魔物襲撃はなんとか事なきを得たのであった。


◇◇


おれとアリスは騎士の詰所に戻り、ゼラスやステンたちの戻りを待っていた。2人は最初から最前線で戦っていたこともあり、少し気になったが、それも、杞憂だったようだ。おれたちは無事生き残ったことを喜び合うため、再び飲みに来ていた。


「いやぁ、危うく死ぬとこだったぜ!」


ステンはゼラスに時折話を振りつつ、身振り手振りで当時の様子を伝えてくれる。どうやら、ゼラスたちのところもおれたちが倒したのと同じくらい強い魔物が最後の方に現れたらしい。そして、そんな風に騒ぎながら説明をするステンを止めるでもなく、周りの客が迷惑そうにこちらをみると、マリが頭を下げている。こういったところをみると、この2人の付き合いの長さが伺える。


「それにしても、このタイミングの魔物の襲撃、本当にタイミングが悪いわね。」


「あぁ、ほんとそれな。全く、ついてないにも程があるぜ。」


おれがこの2人におれたちが調べている話をしようかどうか悩んでいると、もう1人、おれたちの見知った顔がやってくる。


「今回の一件、偶然にしては出来過ぎだとは思わないか?2人とも。」


そういって店の扉を開けたのは、そう、ラキカだった。


「ラキカさん!」


おれたちがその名を呼ぶとステンとマリは驚いている。


「え?ラキカ騎士団長?」


ステンが持っていたエールをその場に起き、マリと同じく膝をつく。


「おいおい、やめてくれよ2人とも。今はただのジジイだぞ。」


「で、ですが!」


マリは食い下がる。


「ほら、ここの3人を見てみろよ。もう何でもないって顔してるぞ?ほら、おれは威張りに来るためにここに来たわけではないんだ、おれも疲れた。早く一緒に酒を飲ませてくれ。」


ラキカのその言葉に、2人は恐れ多そうに椅子に座ると、ラキカは満足そうに近くでこのやり取りに戸惑っていた店員にエールを頼むと、6人で並んで席に座る。


「それにしてもラキカさん、この場所がよくわかりましたね。」


「あぁ、お前の魔素はわかりやすいからな。ここに来ればお前たち3人がいると思っていたが、まさかここにステンとマリまでいるとは思いもしなかった。」


ラキカがなんだか今さらりととんでもなくすごいことを言っていた気がするが、その話は後だ。


「ラキカ騎士団長とショウたちは知り合いってことですか?」


マリの問にラキカは頷く。


「あぁ、2人も知ってると思うがこいつはタリスの息子だ。でな、タリスにはちょっとした借りがあるからそのためにおれがしばらく修行をつけてやってた流れで、こいつらと色々情報共有してたんだ。」


「それで最初の言葉につながるってわけですね!」


ステンが得意げに言う。


「あぁそうだ。2人ともおかしいと思っただろ?魔物が突然発生すること自体おかしいし、その魔物がなぜこの城を狙う?そしてこのタイミング。」


「オスタの誰かがスパイでも国に放っているとかですか?」


マリの推測にラキカは首を横に振る。


「その可能性はたしかに否定できない。だがな、こちらから仕掛けることを宣言していきなりこれだけの準備ができるならとうの昔にやってきてもおかしくないと思うんだ。その点から考えるとその可能性は低いと思う。」


「と言うことは。」


マリが言いかけて黙ったその言葉におれは繋げる。


「そう、国内の人間の仕業だとぼくたちは思っています。」


「それでな、いろいろ調べた挙げ句、一番怪しいのはグレイブって話になったわけだ。だからこそ、今回のグレイブの戦争参戦を聞いた時点からおれたちは何かあってもおかしくないと思ってたんだ。」


これまで黙っていたゼラスがおれも感じていた疑問を口にする。


「でも、そう考えると今回の魔物による攻撃、ちょっと中途半端じゃないですか?流石に自分の軍の総力くらいある程度は読めると思うんですが。」


「たしかにそうね、こちらを殲滅するには数も質も足りないと感じました。」


ゼラスの言葉にアリスも同意する。


「ちょ、ちょっと待ってください、なんでいきなりグレイブが主犯扱いなんですか?」


ステンは突然のグレイブの指名に驚いていた。これにはマリも同意するように頷く。


「お言葉ですが、グレイブは人望も厚く、国のために戦っているような気がするのですが。」


どうやら話を聞いていくとグレイブとこの2人は年齢が近いこともあってかそこそこ仲が良かったようだ。ラキカは2人の思わぬ反発に驚くが、簡単に状況証拠だけ並べ、ステンとマリに説明すると最後に付け加える。


「最悪なケースはおれたちが言っていることが本当で、この国が魔物に攻められ、滅ぶことだ。まぁグレイブの件も含めて、信じるかどうかは2人にまかせる。おれからしても、全てがたまたまの偶然で、おれたちの思い込みだったらそれでも良い。だが、万が一これから不測の事態が起きて、判断を迫られたときはおれがそんなことを言ってたな、というのを思い出して、判断材料の1つにしてほしい。」


ラキカの言葉に2人は頷く。


「ラキカ様のことを疑ってるわけではないのですが、どうもまだ信じられなくて。」


ラキカは頭を下げる2人に首を横に振る。


「いや、突然こんな話をされたら信じられないのも仕方がない。まぁ今日は久しぶりの再会だ!ぱぁーっと飲むぞ!」


こうしておれたちは父親の旧友を交え、昔話に花を咲かせると、あっという間に夜は更けていった。

なんとショウは王と今度はアリスの婚約者としてあうことになりそうですね。魔物の襲撃を退けたショウ、今度はプライベートが忙しくなりそうです。


そしてこのお話も合計100話まできました。ここまで続けることができるのはお読み頂いている皆様のお陰です。引き続きご愛読いただけると嬉しいです。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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