嘘をつく息子と決意する父親
どれくらい時間が経っていたのだろうか?ふと気がつくと、おれは焚き木から少し離れた位置で寝転がっていて、タリスは串刺しにしたウサギの肉を焼べていた。
「んー、よく寝た。ん?あっ!あれ、何がどうなったんだ?うっ。」
おれが体を起こそうとすると、全身に激痛がはしる。体の表面が痛いというより、神経が痛い、そんな感じだった。それでも、全く動かせないというわけではなくて、そぉーっと、ゆっくり動かせばなんとか動かせるくらいの痛みだった。イメージとしては、全身筋肉痛のような感じだろうか。
タリスは目が覚めたおれに気がついたみたいで、こちらに駆け寄ってくる。
「ショウ、大丈夫か?何がどうなってるんだ?あ、とりあえず水でも飲むか?」
そういって渡された水筒をおれは受け取ろうとするが、おれがあまりにもそろりと腕を動かすのを見て、手渡すのを諦めて、おれの口元に水筒を持って飲ませてくれた。全身にスゥーっと水分が行き届いていくのがわかる。
「お父さんありがとう。全身がズキズキ痛いけど、でも大きな怪我もないから大丈夫だよ。」
「そうか、ならよかった。それにしても、本当に何が起きたんだ?おれが突き飛ばされた後、何がどうなった?」
おれはその問いにどこまで応えるか悩んだ。タリスはおれのことを可愛がってくれてるし、全てのことを正直に話した方が良いのだろうか。でも、実はあの銀髪少女が有名な悪魔とか、悪の手先で、それに体を操られたおれが悪魔の子だ、とかなんとか言われて殺されたりする、なんて事もないとは思うがあるかもしれない。
そこで、おれは結局銀髪少女のことは話さずに、タリスがやられた怒りであまり覚えてないが、傷口が光って、スライムの魔石で光の剣を作ってぶった切った、と説明しておいた。まぁこんな話をいきなり間に受けるわけもない、と思っていたが、タリスにはどうやら思い当たることがあったようで
「そうか、そうなのか。」
と、神妙そうな顔で明後日の方向を見て何やら考えているようだった。おれはその様子を見て心配になり、
「ぼくにもよくわかんないんだけど、ぼくに何が起こったの?」
今話した内容がどれくらい異常なのか確かめようと、聞いてみるとタリスは
「んー、実際に現場を見てないからよくわからないけど、まぁ簡単に言えば魔力を使って光の剣でグリズリーを倒したってことだと思うな。」
「ふーん、そうなんだ、魔力で光の剣なんてかっこいいね!みんなできるものなの?」
「いや、初めて聞いた。王国騎士団長でも無理だ。剣に魔力を乗せるのは騎士団長はやっていたが、あくまでも斬れ味の補助や属性付与で、魔力そのもので魔物を切り裂くなんて聞いたことがない。」
「ふ、ふーん、そうなんだ、なんだかよくわかないけど、ぼく王国騎士団長になれるかもねー、あははー。」
どうやら、おれはとんでもないことをしでかしたらしい。こんなことなら光の剣の話もしなければよかった。そんなことを思っていると
「ショウ、このことはおれと、お母さん以外には話をするな。情けない話だが、村のみんなにも、グリズリーはおれが倒したことにしておいてくれ。このことが漏れると、色々面倒なことになる可能性がある。」
そんなことをタリスが言ってくる。よかった、どうやらタリスはやっぱりちゃんとおれのことを考えてくれてる。話をきいてる限り、おれはかなりありえないことをやってしまったらしい。そして、こんなイレギュラーなことができる子供なんて、あるかどうか知らないが王国の研究所なんかが聞いたらモルモットにされておれの人生終わりなんて可能性もあり得る。
「うん、わかったよ!こんな大きな魔物1人で倒したお父さんすごい!ってみんなに自慢する!」
「そうだな、そうしておいてくれ。こいつはグリズリーって言ってな、本当は大人が3人くらいで倒す魔物なんだぞ。みんなに教えられないのが残念だが、本当にショウは良くやったな。」
そう言ってタリスはおれの頭をワシワシ撫でる。その衝撃で体が痛いが、まぁ良しとしよう。
◇◇
しばらくそこでゆっくりしていると、グリズリーの咆哮が聞こえたのだろう、武装した村人が3人ほど駆けつけたが、事前の口合わせ通り、タリスが1人で倒したことにすると非常に驚いていた。
「さすがタリスさんだな、タリスさんの実力ならもしかしたら、と思っていたが本当にやっちまうとは。」
「あぁ、ほんとにそうだな。それにしても初めて狩りにきてグリズリーと遭遇するなんて、ショウは運が良いんだから悪いんだか。お父ちゃん、カッコよかっただろ?」
そうおれに話を振るので、おれは適当に話を合わせて返事をすると、タリスはバツが悪そうに頭の後ろをカリカリかいていた。おそらく他の人から見ると、褒められているのを照れているようにみえるだろう。
そんな話をしながら、タリスが片付けをし始めると、駆けつけた村人もそれを手伝ってくれていた。おれも手伝わなければ、と思い体を持ち上げようとするが、やはり体が痛すぎてまともに動けない。おれが痛みで動けないでいるのを見た村人は
「ショウ、バテてるのか?ショウも父ちゃんを見習ってもっと強くならないとな!」
なんていうから、タリスは慌てておれをフォローしていた。
「いやいや、ショウもなかなか頑張っていたんだぞ?集めた魔石の3分の1はショウが倒した魔物のだ。」
それを聞いた村人はへぇー、と言いながら感心していたので、そこそこの活躍だったようだ。
そんなやりとりをしながら片付けが終わるとさぁ、帰るか、とタリスがおれに声をかけ、立たせてくれるとおれの前に背中を向けてしゃがみ、言った。
「ほら、村まであと少しだからおぶってやるよ。」
そう言うが、この話の流れ的になかなかそういうわけにはいかないだろう、と思い
「いや、大丈夫だよ、ぼく、ちゃんと歩くよ。」
と応える。しかしながら、タリスはおれの体の状態をよく理解しているようで、まともに歩けないのはわかっていたようだった。
「まぁそんなに遠慮するな、その代わり、今回だけだからな。」
と言いながら無理やりおれを背負いこむ。それを見た村人たちは
「ショウはまだまだ子供だな!早く大きくなれよ!」
なんて言いながら、タリスの荷物を代わりに持ち上げ、そして一同は帰路に着いた。
◇◇
その日の夜、おれはその日の疲れから、家に帰るなり泥のように眠ってしまい、気がつくと次の日で、それも太陽がかなりの高さに登っているのでおそらく昼前くらいだろう。
既にタリスは仕事に出ていたようで、家にはいなかった。おれの体も、まだ多少の痛みは残っていたが、ある程度痛みは引いていて、日常生活に支障はないレベルまで回復してきた。そして、昨日のうちにマーナにはタリスから昨日あった出来事を全て話していたようで、お父さんを助けてくれてありがとね、とおれを抱きしめて涙ながらに言った。
「うん!またお父さんと一緒に狩りにいってこれからも助けてあげるんだ!」
なんておれが調子に乗って言うもんだから、うんうん、と頷きながらも
「でも、あんまり無茶しちゃだめだからね。2人がいなくなったらお母さん寂しすぎるよ。」
なんてことを言っている。
たしかに、あの場はなんとかなったが本来どちらか、あるいは2人ともが死んでいてもおかしくない事態だった。やはり、おれ自身の力がもっと強くならないと。
「ありがと!ぼく、もっともっと強くなるからね!」
そう言うとマーナはおれの頭を優しく撫でて台所に戻って行った。
◇◇
タリスが狩りから帰ってくると、おれが普通にしてるのをみて
「お、もう動けるのか。昨日はほんとに助かった。子供のショウに言うのも変だが、ショウのおかげで命拾いであたよ。ありがとう。」
「ぼくの方こそ、一緒に連れてってくれてありがとね!そもそも、ぼくがいなければ最初の一撃を食らう必要もなかったし、お父さん1人だったら逃げることもできたでしょ?」
冷静なおれの言葉に、タリスはギョッとしている。
「まぁたしかにそれはそうなんだがな。」
タリスは頭をかいて困っていると、マーナが助け船を出した。
「さぁさぁ、その話はもうおしまい!2人とも無事ってことでよかったじゃない!それに、グリズリーの魔石も手に入れたんでしょ?結果オーライじゃない!昨日は昨日、今日は今日よ!私、お腹減ったわ!ご飯にしましょう。」
「そうだよ、お父さん!ぼくもお腹減ったー!ご飯食べよ!」
「そうだな、ご飯にしよう。じゃあ、これで最後だ。明日から、一緒に朝の稽古を始めよう。そして、週に一回は狩りに一緒にいこう。おれがこれまで学んできたことを全て教えてやる。」
そう言うタリスは、どこか決意を秘めた面持ちをしていた。
とりあえずグリズリー退治はタリスがやったことにしました。そしてタリスにも真実は告げず。いつ真実を告げるのか、それは乞うご期待ということで。