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任侠喫茶  作者: 笑
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12月某日の裏

政道会総本部事務所にて――


「ふざけんな!コノヤロー!金元会長の遺言で跡目は本部長の田中だぁ?出鱈目抜かすのも大概にせえや!」


「常識的に考えて、No.2の理事長、そしてNo.3の理事長筆頭補佐を差し置いて高々名誉職に過ぎん本部長の田中が跡目だなんてあり得ねぇだろうがよ」


「そうだ!」「そうだそうだ!」


政道会緊急幹部会ではこれ以上無いまでに荒れていた。

幹部会とは組織の最高幹部達によって開かれる組織の方向性を大きく左右する一種の意思決定機関である。(最終的な判断は会長が下す為、最高意思決定機関とは言いづらい)

政道会の場合理事長、理事長補佐、そしてその他選出された直参幹部(2次団体以上の組長)が参加できる。


今回は金元会長の急死によって新たなトップを決める為開かれた緊急幹部会である。


金元会長の顧問弁護士による遺言は多くの幹部が納得出来ない衝撃的なものであった。


それは自分になにかあり、亡くなった後は政道会会長の座を政道会本部長の田中一(二代目中村組組長)に譲るという内容の物であった。


政道会本部長とは総本部事務所の責任者という設定の役職であるが、半分名誉職と化している役職である。

田中一自身、千葉に本部を置く二代目中村組の組長であり総本部事務所に毎日居るわけではない。毎日本部事務所に居る事実上の責任者は故金元会長である。

基本的なシステムとして幹部と呼ばれる多くの役員は自分自身傘下組織の組長であり、その組織の総本部に身を寄せている。参勤交代の如く交代で総本部事務所に出向するという形である。


本部長とはその参勤交代の順番、名簿を作成・管理する責任者でもあり、それが事実上唯一の仕事でもある。


しかし組織の序列にどれほどの影響を与えているのかと言うとそれほど大きな物ではない。基本的な構図としては他組織で若頭等と呼称される理事長がNo.2に君臨し、その下に理事長筆頭補佐、その下に十数人の理事長補佐、その下に無数の名誉職があり、本部長とはその無数の名誉職の内の一つでもある。


ではなぜそのような役職が作られたのかと言えば一言に組織の巨大化が原因である。古参組員の不満解消、出世ポストの明瞭化等の意味がある。

そしてその有象無象の名誉職のうちの一つである本部長が跡目に指名されるなど本来はあり得ない事なのである。


「あり得ねぇだろうが!顧問弁護士!本当の事言え!」


「そうだ!そうだ!私文書偽造は犯罪だろうが!」


「まぁ待てや」


荒れた幹部会を黙らせたのは渦中の理事長であった。理事長は本来幹部会の進行役でありまとめ役でもある。


理事長の名は最上真一。東京に本拠を置く義功会の会長である。関西出身ながら関東ヤクザのNo.2となった異色の経歴の持ち主だ。


「親父がそういうんならしゃあない。跡目は田中にするべきや」


「し、しかし!」


「まぁ最後まで聞けや。確かにその遺言に従うなら跡目は田中だが、関西人のワシが指名回避されるのはともかく、10人の理事長補佐までも指名回避され、幹部会末席である本部長、田中が指名されるとは考えづらい」


「そこでやな、田中。お前、会長から何ぞ言われんかったんか?」


「えぇ、生前、会長からお前に跡目しょわしてやると一言だけ言われた事が、まぁ本来名誉職である本部長が、末席とは言え幹部会入りさせて貰えたのはそういう事だと理解してますがね」


「おう、田中ぁ、テメェ勘違いすんのもいい加減にしろよコラァ大体テメェに付いてくる若い者なんてインのか?少なくとも幹部の中じゃあ誰もテメェの下いなんざ付く奴はいないようだが」


強気な発言にいきり立ったのは理事長補佐の吉田だった。



「言わせてもらいますが吉田補佐、直参だけで120人いるこの政道会、たかだか20人やそこらの幹部会で味方は居なくても、外じゃあそれなりに慕ってくれる奴がいるつもりなんですがねぇ」


「おう、それやったらその若いの連れて独立でもすればいいだろうが!えぇ!?」


「まあ、お前ら落ち着けや。とりあえずやな、親父の葬式が先やろ?跡目の話はそれが終わってからでええ」



その後葬儀委員長の選出等が粛々と進められ、跡目の話は一旦保留となった。


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