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ふつつかものですが

2時間内で1話をつくる、というくくりをつけてうちこみます。(初回は違います)粗製乱造をしたいわけではありません。頭でなくハートでものを書くような感覚を掴みたいのです。あほなこと言ってるのは自覚してますし、アラも多くなるとは思いますが、ご了承ください。

「なんと !! では、ほんとうに報酬はいらないとおおせか!! 」


必要以上に大きな声と手振りで町長が驚いてみせた。周りで聞き耳をたてている人々全員を証人にする気だ。

それほどに姉崎正義(あねさきせいぎ)の提示した条件は破格だった。食事一回、たったそれだけ。


国を挙げての掃討戦でも手こずるグリーン・ショゴス退治の報酬としては、むちゃくちゃといっていい無欲な返答だ。国軍が動いた場合でも、街が立ち行かなくなるほどの物資を徴収されるのだ。


あとで無理難題をふっかけられるのではないか、そう町長が危惧するのも無理なからぬことだった。べつに町長がずるがしこいのではない。荒野に生きる民としては当然のことだ。


姉崎正義(あねさきせいぎ)に助けられた姉妹は戻ってきた街の人々の群れから、ぽつんと離れ、その様子を眺めていた。彼女たち姉妹は親に先立たれた。街のはずれにお情けで住まわしてもらっている存在だ。父は腕のいい職人だったが、親戚はこの町にいなかった。父の残したわずかな蓄えと、そして生前の知り合いからまわしてくれる手伝い仕事で、かろうじて日々の暮らしを維持している。


「なんと! ジャスティス・アネスキー様はまことの勇者だ!」とおべんちゃらを言う町長の声が聞こえてくる。さっきよりトーンが一段低い。どうやら姉崎正義(あねさきせいぎ)が本気で金銭の類を要求しないとわかり、安心したらしい。


〝・・・・・もう行ってしまうんだ〟

膝をかかえるように地べたに体育座りしている姉、リーリウムを、妹のトゥリパが心配そうに見上げている。こんな寂しそうな顔をしている姉を見るのははじめてだった。


「・・・・・おねえちゃん、どっか具合悪いの ? 」


たまらず問いかけた妹に、はっと姉のリーリウムは伏せていた顔をあげた。


「ごめんね。トゥリパ。お家に帰ろっか」


苦笑して立ち上がり、妹の手をひいて歩き出そうとするリーリウム。


「おねえちゃん!あのおにいちゃんにお礼いわないの!?」


妹があわてて引きとめようとするが、リーリウムは弱々しげに笑っただけで立ち止まりはしなかった。


「お礼ならさっきもう言ったわ。私みたいなのがあの方のそばに行ったらダメだもの。あのときは、たまたま近くにいた私達を助けてくれただけで、だから・・・・・・」


彼女は泣きそうな自分に驚いていた。そして悟った。平凡、いや平凡以下の、たぶんこのままいけば農奴のような立場で暮らしていく自分、今まではそんな生き方に疑問ひとつ持たなかったのだ。ただ妹とともに日々を生きるのが精一杯で、それ以外に目をむける余裕などなかった。


だが、彼女は閉じた世界の向こうに見えるものを知ってしまった。

絶対死のはずのグリーン・ショゴスを軽々と蹴散らし、なにごともなかったかのように笑う姉崎正義(あねさきせいぎ)に助けられたとき、リーリウムは心臓が踊るようなときめきを味わったのだ。まして、その相手が自分を褒めてくれるなど、まるでおとぎ話のヒロインに自分がなれたようなー


「ジャスティス・アネスキーさまは、きっと英雄さまなのよ。だから、街のえらい人達とたくさんお話することがあるの。私達が行ったらかえって邪魔になるわ。遠くからあの方の無事をお祈りしましょう」


思いを振り切るようにリーリウムは妹に語りかけた。そのじつ、自分自身への言い聞かせであった。


「やだ !!」

「トゥリパ!?」


リーリウムの手を払いのけるようにして、トゥリパが人垣に向けて走り出した。


「あたし、おにいちゃんにあいさつするの!!」

「やめて!トゥリパ!」


リーリウムの制止の叫びは悲鳴に近かった。あわてて追いかけるが、足がもつれてぶざまに転倒してしまう。その隙に小さなトゥリパの姿が、姉崎正義(あねさきせいぎ)を遠巻きにしている人々の足の間に消えてしまった。


「もどって、お願い、トゥリパ・・・・・」


彼女は震えていた。人垣を掻き分ける勇気がなかった。身の程知らず、と群集からあざけり笑われた気がした。今まで気にもならなかった、みすぼらしい服、汚れた髪。自覚したみじめな身なりが彼女の足を凍りつかせていた。


「おっ、こんなところにいたか。さがしたぞ。人混みん中じゃ、少し探知にとまどるな」


さきほどと同じく、黒い服が、視界にうつった。いつの間にか人垣が割れていた。呆然と見上げるへたりこんだままのリーリウムに姉崎正義(あねさきせいぎ)が笑いかけた。その片腕には妹のトゥリパがにこにこして抱きかかえられている。


「おまえ、俺と一緒にしばらく旅をする気はないか」

「へ ?」


あまりに思いかけぬ言葉に、あほみたいな声をあげ、リーリウムがぽかんと口を開けたままになる。


「おまえが必要なんだ。あの味わいは最高だった。おまえと俺は相性ばっちりとみた」


聞き耳をたてていた周囲のざわめきが大きくなる。

「あんな小さな子に、まさかお手つきを・・・・・」

「あ、味わいですって。なんておそろしい・・・・・」

「だからまっさきに助けたのか・・・・・」


リーリウムの顔がゆでダコみたいにまっかになってくる。九歳の彼女でも、群集のひそひそ話の内容は理解できた。


周囲の反応など意に介さず、しびれをきらした姉崎正義(あねさきせいぎ)は、トゥリパを地面におろし、片ひざをつくようにして、リーリウムの手を両手で握り締めた。


「どうだろうか。悪いようにはしないぞ」


どうみても求婚行動だった。


「わた、わた、わたわたし、あの、こんなんだし、トゥリパもいるし」


パニックに陥ってわたわたしているリーリウムに、姉崎正義(あねさきせいぎ)が畳み掛ける。


「トゥリパ・・・・妹のことだな。もちろん俺が面倒を見る。むしろそのほうが都合がいいかもしれん」


群集のざわめきがさらに大きくなる。

「ロリ姉妹丼をねらっているだと・・・・」

「なんておぞましい・・・・゜」

「ロリスキーさまだ・・・・・」


姉崎正義(あねさきせいぎ)がぐうっと顔を近づけてきて、耳たぶまでまっかに染めたリーリウムが、ひゃああっと素っ頓狂な悲鳴をあげた。


「・・・・・どうだろうか」

「どうだろうか、じゃなあーいっ!!! 」


妖精リンのドロップキックが左頬に炸裂し、姉崎正義(あねさきせいぎ)がごろごろと地面に転がった。街の人々は突然ふっとんだ姉崎正義(あねさきせいぎ)に驚きの目を向けている。この場で妖精リンの姿を見聞きできるのは、姉崎正義(あねさきせいぎ)とリーリウム姉妹だけなのだ。


「・・・・・あんたバカなの!?〝あねちから〟のことを先に説明しないと、ただのロリコンプロポーズ大作戦よ! 早く誤解をときなさいって」


姉崎正義(あねさきせいぎ)の耳をつまみあげるようにして、妖精リンが耳打ちする。


「そ、そうか。あまりに上質な〝あねちから〟だったんで、つい興奮しちまって。あのな」


さすがに己のしでかした事に気付き、釈明しようとする姉崎正義(あねさきせいぎ)だが、それより早くリーリウムが立ち上がっていた。テンパった彼女の耳に妖精リンの言葉は届いていなかった。大きく息を吸い込むと、首筋まで紅潮させ、目をうるませ、しかしはっきりした声で、


「ふつつかものですが、よろしくお願いいたします!! 」


そして深々と頭を下げたのだった。

呆然とする姉崎正義(あねさきせいぎ)。「あちゃあっ」と顔を片手で覆う妖精リン。「おねえちゃん、おにいちゃんのおよめさんになるの!?」と大興奮してはねまわるトゥリパ。


「な、なにはともあれ、めでたいことのようだ。みな拍手で、ジャスティス・ロリスキーさまとリーリウムの婚姻に祝福を」


「ろ、ロリスキー?」


ひきつった顔の町長の音頭で、あたりは拍手の音で包まれるのだった。


お読みいただきありがとうございます。

勢い的なものがほしいのです。どこまで続くかわかりませんが、しばらく挑戦してみます。

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