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星空 終のダイアリー  作者: 野口詠多
9/11

死月 二一日 (月)


いつも汚い部屋がたまに綺麗だったりする時と、


いつもは綺麗な部屋がたまたま汚くなっているところを目にした時の、


受け取り手の印象のギャップ。







 「休日の部活動の内容は日誌にはしたためないことにした。期待されていた読者がいらっしゃったかどうかは、神ならざる俺にはとんと与り及ばぬところだが、いずれ別の機会に場を設けて明かすこととしよう。まぁ、約束はしかねるけどな。それこそ『夢見勝のイデオローグ』に乞うご期待だ。休日とか、部活動中時間以外の描写はすべてここに盛り込む算段だ。発言について責任は持てないけどな? このダイアリーの読者は俺に腹を立ててはいけない。無責任な他人の言うことをいちいち気にしていたら、人間は落ち着いて生きてはゆかれないぜ。腹を立てるのではなく、溜飲をぐぐっとおし下げよう。それが大人の賢明な生き方だ。そのせいでフラストが溜まったら、その時はうちに相談しに来い。

 さて、この日は朝から校内はとんでもない騒ぎに湧いていた。廊下のどこを歩いても、二条城は松の廊下状態。どこの誰がどなたにイラついた結果刃傷沙汰に及んでしまったのかは、やっぱり神ならざる俺の耳には詳細は伝わってこなかったが、というか夢見における月見のごとき友達なる校内便利ツールを持たない俺なんかにはどよめきの事情がさっぱり呑み込めず、そうこうしているうちに待ちに待った部活タイム、俺は最近どうも付き合いが悪くなってきたリア友みたいな萌え系美少女が体面を気にする手前しかたなく俺と雑談をしてやろうという雰囲気を身に横溢させて待っているだろう保健室へ向かうべく、アウトドア派の連中に廊下の真ん中を譲りながら、俺が死角という死角に常に一方ならぬ気を払いつつ歩いていると、どうも事情通らしい知り合いがひょっこり姿を現した。

「それがよー師匠―。金持ちの金髪巻き巻きロールな転校生がやって来たんだってよー」

「んなアホな」

 ちなみに、満を持して土曜日に敢行されたオスミケ探索ハーレムツアーにおいて、誰かさんのせいで未だ一人も友達のいない俺に二人も友達がいることの優越感からか見下したような軽蔑で接してくる夢見を除いて、俺は二人の女とはこれが意外にも距離を縮めることができた。月見の澄み切った水面を思わせるつぶらな眼にはどうも俺のことが相当に好ましく映っているらしく(なーんてな)、サっちゃんとはくだらぬ掛け合いを時折に織り交ぜながら、楽しく週末の日中を消光できた。夢見は知らん。「え? あんた友達いないの? かっわいそーwww あたしがなってあげようか? あんたを三人目の友達にしてやってもいいけど? もちろん数友だけどねwwwwwww」とか返レスしてくるやつのことなんか、俺は知らないね。

 ともかくそんなこんなで距離の縮まった俺とサっちゃんは、その後幾多の困難を共に乗り越え、日曜には週末の魔物・ザッハートルテの正体をついに見破り、これと飽くなき熾烈な闘いを演じた末に、友情以上に深い絆がすっかり出来上がっていたのだ。俺にとってのまぎれもない友達第一号と言ってもいいかもしれないが、向こうでは一方的に師匠と呼んでくるから関係はちぐはぐだ。まったく、少しは外聞に気を遣ってほしいもんだよね。吊り上がった殺し屋的な眼尻、細い眉毛は性格の鋭利であるをほのめかし、髪のところどころで跳ね上げた毛先にはビーズ様のアクセサリーが毛束を収斂するかのようにちりばめられている。そんな全身ジャージルックの長身女と一緒にいるのが狷介孤高の一匹狼・星空終だってんだから、しがない市立の淋しげな校舎もずいぶんとおっかなくなったもんだぜ。これじゃおちおち、月見みたいなヒヨコちゃんは廊下も歩けないだろうよ。なんたって俺たち、三校きっての悪人面さ。その辺のチンピラなんざ、サっちゃんと眼を合わせただけでブルっちまって尻尾巻くんだからな。そんな二人を御するなんて、市立校の先生方では役不足だね。そうこうしているうちに三校生徒は星空三河屋タッグにあれよあれよという間に取り込まれ、暴力による統制が布かれつつあった。それに歯止めをきかせるには、どっかの金持ちの御曹司でもぽーんと放り込んで、校内に別の派閥を生みださなければ三校の秩序は危うかろうという際に、どうも本当に金持ちが転校してきたそうな。

「平々凡々たるスペックの三校にも、ついに物語的人物が来たぞーって、みんな叫んでんだよなー。イマドキ学園にはワルなんてのは一人もいないご時世だから、黒塗り送迎付きの金髪縦ロール転校生なんて現実に見ちまったら、そりゃざわざわしちゃうよなー」

「その金持ちお嬢様は何年生だい?」

「たしか二年生だったよーなー……二年生ってあれだよなー、春先だか夏の前だかに修学旅行とかあんだよなー? 転校してまだ日が浅いのに、もークラスメイトに裸とか見せなきゃなんねーのかー、それってイヤだなー、オレは転校したくねー」

「うん、転校するしないを修学旅行で裸を見られた際に覚えるスティグマだけで決められるものなら、僕も付き合いの浅い人においそれと裸を見せびらかしたくはない現代人の常としてそれはイヤだと否みたいところだけど、でも実際は修学旅行とかは楽しいってイメージじゃないかな? むしろ該地での学習で親睦を深めたりとかできるチャンスじゃないかな、普通は? そこを狙いすまして、それに合わせて転校するようなパワフルな人も多いと聞くけど、サっちゃんは違うの? サっちゃんの中では修学旅行は裸そのものと直結しちゃうのかな?」

「いの一番にマッパだなー」

「いの一番にマッパなのかー」

 修学旅行イコール全裸なら仕方ない。時期をズラして転校するしかねぇな。

 まぁ、俺と違ってサっちゃんは女だから……きっとそういうので、恥というかほとんど悩みのレベルで己の肉体に対して人には言えない何かを抱えているのかもしれない。俺はそう思い、ちらと彼女の顔や首筋などに流れるキメの細かさを見遣ったが、どれも色白で、実に年頃の女らしい肌をしていた。というか、ジャージの上衣に突っ込まれている手も、よく見るとほっそりとしていてなまめかしく、あれ、意外とこうして見ると、サっちゃんって女の子らしいプロポーションなんじゃないの? と思えなくもない。だぼだぼなジャージを着ているから気付かなかったけど、なんと彼女の歩き方は内股だった。いま気付いた。

「……サっちゃん、スカートめくってみせてくれる?」

「えぇ⁉ いきなり何を言ってくるんだよー師匠⁉ いくらオレの師匠だからと言ったって、TPOを弁えてくれなきゃ困るぞ! 人に見られたらどうするんだ⁉」

「うん、まぁ確かに女子が男子生徒に不意にスカートをめくってよなんて頼まれたら例外なくそういう反応を示すんだろうけども、きみの場合は下にジャージがあるだろ? 何を恥ずかしがることがあるのさ?」

「見られたら恥ずかしいだろー! ジャージはー!」

「ジャージは恥ずかしくないでしょうに」

「恥ずかしいだろー! 女子が男子にジャージを見せるなんて、恥ずかしさ以上の屈辱をともなうだろー!」

「恥ずかしがることじゃないよ、ジャージはパンツじゃないんだから!」

「えぇ⁉ ジャージはパンツじゃないのかー⁉」

「えぇ⁉ ジャージがパンツだと本気で思ってたの⁉ じゃあその思いっきりスカートからはみ出しているうえに、あまつさえ上履きの踵で裾を踏んづけるほどだらんと長いジャージは、某ワカメちゃんも腰を抜かす見せパンだったの⁉」

「当たり前だろー! エロいだろー?」

「エロくねぇよ⁉ つーかエロさが隠れてて微塵も伝わってこないよ! わりと本気でエロくないからね⁉」

 むしろエロさよりも怖さが滲み出ている。

いや、でもまぁ、ジャージが見せパンだったってことは、その下は今ノーパンなんだなって考えれば、なるほどこれはなかなかどうしてロングジャージといえどエロティックに見えないでもない。

 男とは、かくも卑しき生き物なり。思えば単なる布きれにすぎない世のパンティーも、こうしてあまさずエロさを付加していったものだろう。

 嘘っぱち。それはエロいよと、みんなが言うから本当にエロくなる。じゅるりと唾液をすすりながら、男子が女の子のジャージ姿を見つめる日がくるのもそう遠くないかもしれない。ブルマ、ジャージと続いて、その次はいったいどんなエロさを我々は発見していくのだろう。着重ねのエロスなんて新感覚すぎて想像だにできないけどね。

「ところでエロさはぬきにして、スカートをめくってもらえないかな?」

「師匠はどーしてオレのパンツをそんなに見たがるんだー? オレに気でもあんのかー?」

「うん、パンツを見るつもりは微塵もなかったんだけど、その下に何も穿いてないっていうのなら形式上僕は女性にパンツを見せてくれるようおねだりしている下劣な人間に堕してしまっているわけだけれど、そこを承知で重ねてお願いするよ。ぜひめくって見せてほしい」

「このスケヴェニンゲン」

「うん、どういうわけか日本人の観光客が多く訪れているのだろうオランダの一地名で罵られたとしても、それでもなお頭を下げてお願いするよ」

「むー……殿方にそこまで熱烈にアプローチされちゃあ、オナゴとしては求めに応じるしかねーなー」

 と言って、するするする……とは、時代劇風にはいかず。

 サっちゃんは辺りをきょろきょろと憚ったようにすると、顔を見られるのがよほど恥ずかしいのかぷいとそっぽを向き、かあぁぁと効果音が鳴るくらい頬を紅潮させて、ゆっくりと前垂れを上げるようにスカートの前面を持ち上げた。いや、そんなに意を決したみたいなもったいぶった挙措をしていても、俺がしているのはジャージを見ているだけだからね?

 俺は変態じゃなくて、紳士だからね?

「……やっぱり」

「な、なにがやっぱりなんだ、師匠……? オレの股間に、いったいどんな病気が巣食っているんだ……?」

「股間はまじまじと直視していないし、病気を見きわめるような識別眼をそもそも僕は持っていないよ。僕が見ているのはきみの脚部さ」

「脚部?」

「ジャージの上からでもなかなかすらっとしていて、おいしそ――きれいな脚じゃないか」

「なんだ、脚が見たかったのか。それならそうと、早く言ってくれたら……」

 と、言うが早いか、サっちゃんは上げていたスカートをおし下げると、やおらジャージのズボンをすとんと音がするくらいに勢いよくずり下ろした。

 あろうことか、男子の目の前でパンツを脱ぎおったで、この娘。

「さささサっちゃん、そのジャージはきみにとっての生命線……いわばパンティーってやつだったんじゃないのかい⁉ どうしてそれを脱いでしまうの⁉」

「え、だって、脚の細さ太さを見るなら、生足のがいいだろー?」

 きょとんとした顔で、短すぎるスカートの前面の生地を伸ばすように両手で押さえている仕種は、もじもじしているおにゃのこのそれだった。カマトトぶっているようには見えない自然な挙措だ。

「そうだけど、だからといってきみは人前でパンツを脱いでしまうことに抵抗というのか、羞恥は覚えないのかい?」

「いやいや違うぞ師匠、これは一般的にはジャージと言ってだなー、彼氏に買いに行かせてもなんら恥ずるところのない一品だぞー?」

「そうかもしれないけど今はれっきとしたパンツとして機能してるんでしょ⁉ だったら下ろしちゃダメじゃないか!」

「そんな難しい話はわからんぞー……見せろと言ったり下ろすなと言ったり……」

 難しくない。いやしくもレディが思いきりよくパンツを下ろすなと言っている。

 男はその手で脱がせてなんぼなんだよ。自分から脱ぐなんて、そんな開放的な痴女はごめんだね。

「それで、オレの脚がなんだっていうんだー?」

「ああ、うん。そうだね。うっかりスカートの中を覗いてしまわないよう努力するフリをとり繕いながらなんとかスカートの中を見れないものか、絶妙な角度を発見した後に感想を言うから待ってて」

 感想は、凄いの一言に尽きたね。

 なにがすごいって、ふだん見慣れた夢見のむっちり美脚より、すらっとしたサっちゃん美脚の方が、エロさ的にも美しさ的にも上を言っていたことだ。

 こんなに素晴らしい、サルスベリみたいな白さを廊下の電光と窓から射し込む午後の陽とに惜しげもなくさらしておきながら、引き締まったそのふくらはぎの透徹され、ソフィスティケートされた美を普段衆目からは遠ざけてジャージに隠していたなんて、なんてもったいない。あるいはそのために、却って俺に眼もあやな光となって過剰に意識されているだけかもしれないが。普段見えなかったものがたまに覗けた時に美しいと感じる。美とはそういうものだ。美意識過剰。

 サっちゃんの脚は、ふくらはぎから足首にかけてを絆創膏が覆っていたのが玉に瑕、美脚に傷といえたが、眩いばかりの自然の白さを前に、そんな無粋なものはかすんで見えなかったも同然だった。そして、なによりも驚いたことに、その膝頭には――。

「さささささサポーターぁぁぁぁぁぁああああいやっふぅぅぅぅぅっ‼」

「えぇ⁉ オワリ、サポーターに興奮してんのか⁉ いっつもジャージに隠されていて、いよいよ御開帳あそばしたオレの生足よりもサポーターに随喜してんのか⁉ 趣向が特殊すぎだろー!」

「ところでサっちゃん、そのチャーミングプリティーなサポーターをどうして誰にも見せてあげようとしないんだい」

「いやー、サポーターの巻かれた脚に対して魅力を感じる男子は師匠の他にまだ類例がないと思うんだが……オレが脚を見せたがらないのはー、やっぱり裸が――肌が見られるのがイヤだからだなー」

「そういえば、記憶喪失を何かとんでもない喪失と勘違いしちゃっていた時には、なにかしらそういう願望めいたことを漏らしていたような気がするんだけれど、それとこれとはあい矛盾しないのけぇ?」

「なぜ語尾でカッペったのかわかんねーけど、でもオレはその二つを矛盾とは思わねーなー……裸は見られんのイヤだけどー、純愛はしてみてーんだよなー」

「カッペったなんていう動詞化はさておくとして、純愛、ね」

 恋愛とはどう違うのだろうか。わからんね。

「だもんだからー、修学旅行前に転校してきたお嬢様っての、オレは尊敬すんなー。見も知らないよーなやつらに裸見られてもいいってことだもんなー」

 それって、強えーなー、と……。

 見てくれで腕っぷしの強さを見せつけるサっちゃんは、強さをそのように定義した。

「そっか……サっちゃんは女の子に裸を見られるのもイヤなのか」

「そーなんだぜー。だから体育の時も、更衣室で女子に見られるのイヤだもんから、こーしていつもジャージを穿いてるんだぜー。着替える手間も省けて一石二鳥だぜー」

「……ん? でもそれは、ジャージの中に下着を穿けば、女子にも裸を見られずに済む話じゃないか? 面積のことを言ってるんなら、これもやっぱりジャージの下にスパッツを穿けば、露出を最低限にして、ジャージ無しでも校内を歩けるじゃないか。黒タイツとか、レギンスとかだってある」

「むー。鈍感な師匠だなー。オレは生足が見られるのがイヤなんだー。着替える時にー、見られんだろー、脚の細さとかよー」

「なんだ、生足が見られるのが嫌なんだ。それじゃあしょうがないね」

 ……おや? 再び頭を擡げてきた、恵比寿マジックの予感だぞ?

「って見せてんじゃん⁉ あっさりとパンツ代わりのジャージを脱いで、僕の前で花も羞じらう生足を見せてんじゃん⁉」

「むー、これは師匠にだけ特別に、奔放大公開したのだー」

 本邦みたいに言うな。

 相変わらずうまいじゃないか、ちくしょう。

「へぇ、僕にだけ見せてくれるっていうのは、それはあれかい? サっちゃんは僕に好意を寄せているととらえて差支えないんだね」

「好意というかー、劣意だなー」

 劣意なのかよ。

 好意じゃなくて劣意をもよおしちゃうのかよ。それで生足を見せるって、つまりどういうことだってばよ。

 展開がカオスすぎるだろ、この子。

「――へっくし!」

「なんだ師匠、可愛らしいくしゃみをしてー。花粉症は克服したと休日に言ってなかったかー?」

「うん、その筈なんだけど……風邪でも引いたかな?」

「お大事になー」

「いいや、これしきのことで僕は学校を休まないさ」

 そうこうしているうちに、僕らは人のいない保健室にたどり着いた。

「転校生には出会えなかったなー」

「まぁ、一躍渦中の人だしね。そうそう出会えたものではないさ。それにもし万が一廊下の辻で出会ってしまっていたら、サっちゃんの生命の次くらいに大切な生足が人の眼についてしまうじゃないか?」

「ああ、そういえばそうだったなー。うっかりしていたぜー」

「四月もいい加減下旬だというのに、まだまだ寒い候だよ? うっかりなんかで気付かないものかな」

「師匠といると、寒さを忘れるくらいぽかぽかするんだぜー」

 なんだかほっこりすることを言ってくれるが、ところで昨今の女子高生は真冬の大雪時でも、レギンスすら穿かずにプラットフォームに突っ立っているわけだが、あれは本当に寒くないのかとナンパからではなく声をかけてみたくなるね。まぁかけてみても、生態メカニズムが男子と違って恒温動物のそれなんですと真顔で答えられてしまった日には恥ずかしさのあまり身投げしてしまいたくなってくるから、チキンな俺はチキンらしく、雪の日は駅頭で鳥肌を立てていたんだけどね。中三の三学期、受験のためにせっせとしていた頃の思い出さ。女子高生に短いスカートを穿かせる者は、いったい何者なのかと疑いたくなってくる。

 自分で可愛いと思っているから、スカートを短くするのか。はたまたそうでない要因なのか。嘘からなのかまことからなのか……あるいは、これもまたザッハートルテなのかね。

「けど、そーだなー。そろそろ穿くか」

 と言ってサっちゃんは、保健室の卓の上に尻を乗っけると、お行儀悪くスツールに脚を置き、大胆にも俺の前で股を開いて長い長いパンツを穿く作業に取り掛かった。

「サっちゃんはさ、結局相談部には入らないの?」

「んー? なんだー、オワリはオレと一緒にいたいのかー?」

「一緒にいたいね。ぜひまた、できればその神々しい生足を拝みたいね」

「だはっ。まぁ、気が向いた時にでも遊びに来てやんよ――入部については、また今度なー」

 落ち着いた様子でそう言って、心に余念のない感じでいそいそとジャージを穿くサっちゃん……俺はなんとか、蛍光灯の直下にあるために暗黒のような闇を思わせる陰を孕んだ意地悪いスカートの中を覗こうとしてみたが、裸を見られたくない想いというのは筋金入りだったらしく、首を右へやっても左へ向けても、陰のベールは秘中の秘をやたらとその奥に韜み込んだままにしておこうとする……まぁいいさ、次巻以降、そこにスポットライトを当てていき、サっちゃんの隠してやまない恥ずかしい部分を覗いてやろうではないか。

 いまはまだ、その背中を送り出すにとどめよう。深入りはしない。深入りしては、それこそ変態だ。

「じゃーなー、師匠―。オレはもう帰るよー。夢っちによろしくー、また遊ぼうなって」

「うん、じゃあねサっちゃん。また今度」

 この日結局、夢見は保健室には現れなかった。金持ちの嬢さんを取り囲む生垣の一人となっていたものらしい。どうも谷川式の転校生キャラをラノベ的お嬢様キャラで代用することを思いついたようだ。

 残念だったな夢見。そのお嬢様、けっこう倍率高そうだぞ? サっちゃんソースによれば、前の高校では文武両道の才色兼備な成績、色んな部活からもうすでに引く手あまたらしい。なーんでそんなパーフェクトな御仁が名門でもない我が校に転入してきたのか、謎はいよいよ深まるばかりだが、夢見がいないんじゃ、このネタはこれ以上引っ張れんな。

転校生の初日といえば孤立しがち、なんてのもサブカル的妄想で、現実にはこれこの通りの押すな押すな。群蟻付羶。それも金持ち金髪ドリルヘアであればこそなんだろうが、やっぱり転校生ってのは、注目されるよな。

 ただ他所からやって来た人間ってだけなのによ……なにをそんな、騒ぎ立てることがある。静かにしてやれよ紳士ども。寄ってたかって、何を騒ぐ。

 ノブレスオブリージュ。三校流の縉紳たるマナーを、本場の深窓の令嬢とやらにお見舞いしようという変態は、本校にはいないものかねぇ……。」






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