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どちらが幸せか。

作者: 虚月

初投稿です。

part1.ボロボロの人形の物語


 そこに、一つの人形があった。


 埃の舞う、殺風景なその部屋の中天井からさしている光の真ん中にまるで、スポットライトでも浴びているかのようにその人形は椅子に座っていた。


 その人形はとてもじゃないがきれいとは言えるものではなかった。ところどころ縫い目がほどけて中から綿が出ていて何回も直したような跡がある。目の役割をしていたであろうボタンはほとんど外れかけていた。座っていた椅子も木でできた質素な探せばどこにでもあるようなありふれた椅子だった。


 それだけ見るとボロボロになり、持ち主にも捨てられてしまったかわいそうな人形だとほとんどの人が思うだろう。でも、その人形はちっともそんなことを思ってもいなかった。


 その人形が喋れるとして、『今、あなたはどんな気持ち?』と聞いたらその人形はこう答えるだろう。


「幸せだよ、とっても。ウソじゃないよ、本当さ。僕はあの子の人形になれて本当に良かった。」


 と。


 ここで、この人形の話をするとしよう。


 ある寂れた村に母親とその娘が二人で住んでいた。父親はすでに、病気を患い他界していた。娘はまだ四歳だった。生まれつき体が弱く、よく病気をしていたため働くことはできなかった。そのため母親はいなくなった父親の代わりに仕事をしなければいけなかった。


 最初のうちは家でも出来る仕事をしていたが、だんだんとそれだけでは生活が苦しくなり一日中家を空けなくてはいけなくなってしまった。つまり、娘を家に一人残すということだ。

 

 母親はずっと家で一人ではさびしいだろうと、今までコツコツと貯めていた金を使って人形を娘に与えた。娘がその人形をもらった時娘はとび跳ねて喜んだ、『ずっと大切にするね!絶対に!!』と言って、その日から娘は肌身離さずその人形を持っていた。


 家にずっと一人でいるときは彼女と一緒に遊び、かなしいことがあった時は話を聞いてあげた。寝るときは抱きしめながら寝ていた。それだけかわいがっているのにもかかわらず娘は人形に名前を付けなかった。


 どんなに大事にしていたとしても、いつかボロボロになる時が来る。それは娘が十歳になった時だった。もともとそこまで高くない、むしろ安い人形だったため縫い目はほつれやすく壊れやすかった。だが、そのたびに何回も何回も直していた。


 でも、もう直すことが出来なくなっていた。娘は不治の病にかかってしまい、ほとんど寝たきりになってしまったのだ。それでもまだ元気なうちは倒れてしまったときにほつれたところを直していたりしていたが、今ではもうそんな元気もなかった。


 そして、ついに娘は人形とさよならのあいさつを交わした。


 娘がいなくなった母親は悲しみにくれ、まるでその悲しみから逃れるかのように仕事に打ち込んだ。その姿は鬼気迫るものがあり、周りの者たちも何も言えなかった。


 家にはその人形が、家で一番きれいな椅子に座らされていた。たまに母親が手入れをしていたが、いずれその母親も過労で倒れてしまい家の中でその人形はついに一人になっていた。


 かわいがられることもなく手入れもされず誰にも見てもらえなくなった人形は、不自然なまでにボロボロになっていった。


 とても大切にされた人形には魂が宿るといわれている。


 まさに、その人形には魂が宿っていた。最後にその魂の宿った人形はこうつぶやいた。


「一度出会った、あの豪華できれいな人形。僕もあれだけきれいだったら、あの子はもっと長生きできたのかな。もっと、うれしかったのかな。それだけが、僕の思いのこしたことだなぁ。」


 そう言って魂は消え、その人形もまるで何かが抜け落ちたようにぱたりと倒れた。





                                                                        end.





part2.サフィーの物語


 そこに、一つの人形があった。


 豪華で埃一つない部屋のさまざまな人形がある中で、椅子にひときわ豪華できれいな人形が座っていた。


 その人形は見たところ新品では無いことが分かるが、新品ではないかと見間違えるほどきれいで、今もなお輝いていた。一つも直した跡が無く、おそらくそれほど大切にされていたことが分かる。座っている椅子もおそらく世界に一つしかないのではないだろうかと思うほどきれいな椅子だった。


 もしその人形が喋れるとして『今、あなたは幸せですか。』と聞けばその人形はこう答えるだろう。


「もちろん、幸せだよ。これだけ大事にされているんだ。これ以上何を望むっていうんだい?」


 と。


 ここで、この人形の話をするとしよう。


 王都に住んでいる貴族の家があった。その貴族は、国で一番力を持っていた。その家には一人の娘がいた。一人娘だったためとても甘やかされながら育っていた。欲しいものは何でも手に入った。そんな娘が七歳になった頃たまたま通りかかった店の前に飾られていた、とてもきれいな人形に目を奪われた。


 目を奪われた娘はすぐ父親に「あの人形が欲しい。」と言って買い与えてもらった。店員いわく、その人形はオーダーメイドのもので世界に一つしかないうえにその美しさゆえかなりの高値が付いていたそうだ。


 そんな人形を手に入れた娘はすぐに自分の部屋へと持ち帰り今まで買い与えてもらった人形たちを雑にまとめ、部屋の隅に置いた。使用人を呼びこの屋敷の中で一番きれいな椅子を持ってきてほしいと伝え使用人が持ってきた椅子にその人形を座らせた。そして、その人形は『サフィー』と名付けられた。


 娘は「汚れてしまってはいけない。」と言って誰にもサフィーを触らせなかった。手入れなどは自分でやりいつも自分の手元には置いておかずにずっと椅子に座らせ眺めていた。


 そんなある日、父親が「どこかへ出かけよう。」と言った。その時娘は買ってもらってから一度も家の外へ出していなかったサフィーを持っていくといった。


 そして、その出かける日には豪華な馬車に娘はサフィーを抱いたまま乗り込んだ。


 馬車なので、たまに休憩をはさむ必要がある。休憩の場所が、一度だけ寂れた村の中になった。娘は見たことがない村をサフィーとともに窓の外から覗いていた。


 すると、一人の少女が目に入った。


 その少女は娘と同じように人形を抱えていた。だが、その人形は何回も直されたような跡がありとてもじゃないがきれいとは言えなかった。その視線に気づいたのか、それとも馬車が珍しかっただけなのか娘の乗っている馬車へ近づいてきた。


 娘は最初少女が何を見ているのかわからなかったが、それは自分の腕の中にあるサフィーを見ているのだとわかった。それに気づくと同時にその少女は自分の持っている人形をみて微笑みすぐにどこかへ行ってしまった。


 それからしばらくはその少女の事について考えていたが、そのうち忘れてしまった。


 それから時がたち、娘が十六歳になる頃にはサフィーはただ、その部屋に置かれているだけになっていた。娘はほとんどサフィーを見なくなっていった。たまに手入れをする程度だ、友人を招き入れたときによく自慢をしている。それでも、娘はサフィーを完全に忘れたわけではなかった。心のどこかではやはり気にかけていて、大事にしているのだろう。だからこそ、その人形は今もなお輝いているのだ。


 とても大切にされた人形には魂が宿るといわれている。


 今もなお娘の中から存在は消えていない。魂は今もサフィーの中に宿り娘の成長を見守っている。そんなサフィーが今も気になっていることをつぶやいた。


「ボクが、最後に外の世界を見たあの時に出会ったあの少女が持っていた人形。かなりボロボロだった、でも少女に抱かれたままずっと笑っていた。あんなにボロボロでも、あの人形は幸せだったんだろうか。ボクが知らないことを、あの人形は知っているんだろうか。」


 サフィーが考え、つぶやいたのはこれが最後だった。そして、いつか娘も人形から卒業する日がくる。その時、サフィーは何を思いながら『サフィー』としての魂が消えていくのだろうか。


end.

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― 新着の感想 ―
[良い点] すれ違いのような……。 言葉には上手く言えませんけど、良い作品だなあと。 僕もこんな作品を書けるようになりたいものです。
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