島への侵攻と工業力だよ
不可視の結界が崩壊した。度重なる衝撃エネルギーに耐え切れなかったようだ。
バリンと大きな音を立て島全体を包むように光の粒子が天に昇って行く。
幻想的な光景だった。
そして艦隊は魔王の一言で全艦が前進する。
島は目視可能な距離にある。
空母から100匹の飛竜が飛び立った。
先行偵察部隊として。
戦艦から海兵の350名が小型ボートに乗船して島へ上陸する。海兵の半数が前哨基地として砂浜の一角を確保し土嚢で塹壕を作る。
そして、残り半数が周囲の索敵に散開して行った。海兵は訓練通りに魔法や魔物の襲撃に備えられるように迅速に陳地構築を進めた。
旗艦に将校から連絡が入る。
「報告します。海兵より第一次陳地構築が完了。第二次構築に向けて指示を待つ。との事です。」
「早かったね。訓練の成果を見せてもらったよ。じゃあ次に進めて。」
僕は第二次陣地構築へ許可を出した。すると輸送船から4000名の歩兵と物資船から大量の資材・食材などが島へ上陸していった。
そして索敵に向かった海兵と飛竜部隊から島の報告が入った。
「報告します。島に民間人及び軍隊の駐留は無し。一部に少数と思われる生活形跡が有り。森の内部は魔物が多数生息しております。」
「ふーん。その生活形跡って、人が住んでるの?」
「いえ。人影は見当たらず。原始的な住居と野営の痕跡を発見しております。」
「あっそ。じゃあ、それは無視して第二次陣地構築が完了したら、歩兵を島全体に探索に向かわせて。そして教会や神殿などの人工物が有れば報告して。」
「了解しました。」
「あと、グリフォンやワイバーンが居たら捕縛しておいてね。
飛行隊に編入させるから。」
「了解しました。」
それから2日程で、第二次陣地構築が終了した。
僕は旗艦から本営に指揮所を移すことにする。
そして数日後、様々な報告が寄せられた。
ハーピーやオーガ、サイクロプスなど魔族の発見、グリフォンやワイバーンの捕縛、そして驚いたのが神の使いで不死を自称するケンタウロスが使者として陣地を訪問した事だった。
僕は交渉に長けているラークに相手をさせて、使者の話を聞かせた。
内容はつまらない物だった。
使者の名はケイロンと言い、神の島へ不敬な行為を働いている。
直ちに島から退去せよ。
さもなくば神罰が下るだろう。との事だった。
僕は、そのケンタウロスを捕縛するように命令した。
その命令から外が騒がしくなった。どうやらケンタウロスが強く、痛手を負わしても倒れずに向かってくるとの事だった。
歩兵では捕縛できずに苦戦しているらしい。僕は、その不死のケンタウロスに興味を持ち、ナイを連れて会うことにした。
「やあ、僕が魔王のキミヒトだよ。初めまして。」
「貴様ぁ!神の島に不敬を働く不届き者め!即刻、全員を連れて退去せよ。」
「まぁまぁ、ここはゼウスの島なんでしょ?僕は彼に恨みがあってね。ちょっと復讐をしたいんだ。」
「ここはクロノス神様の神域じゃ!ゼウス神様の神域ではない!」
「あっそうなの?ふーん。まあ神なら別にどっちもいいけどね。」
「神の使いである我が成敗してくれる!」
バリバリ!! スガガーン!!
そう言ってケイロンがキミヒトに雷撃を放ってきた。その電撃は凄まじく、周囲の者が目を覆うほどの光量と衝撃音だった。
「魔王様!大丈夫ですか!」
近くにいた護衛兵士が駆け付ける。
僕は雷撃を受けて体がピリピリしてしまった。
「もう!体がピリピリしたじゃないか!突然攻撃するなんて酷いなぁ。」
僕は血行が良くなって、体のコリがほぐれた気がした。でも突然、攻撃したことには怒った。そして雷撃を放ったケイロンと周囲の兵士達が驚き、唖然として立っている。
「じゃあ、僕の番だね。最近、運動不足だからちゃんと相手してね。
不死なんでしょ?」
そう伝えて、ケイロンへ一気に飛び掛かり、後ろ足を2本とも手刀で叩き折った。そして、その両後足を掴み、力の限り引っ張る。ミチミチと肉が裂ける音がして引き千切った。
「ぎゃぁぁーー。」
ケイロンが痛みで叫ぶ。僕はそのまま、胴体に付いている両腕を殴って叩き折り、同じよう引っ張る。痛みのあまり彼が暴れるが、胴体を足で押さえてに引き千切った。
「ナイ、ナイフ貸して。」
「あい」
僕はナイからナイフを借りて、今度は馬の部分と人の胴体の境目を切断する。一度で切れなかったので何度も何度も切り付けて切断した。
「ぐぎゃぁーー」
「すごいね。まだちゃんと生きてるんだね。本当に不死身なんだ。でも手が無いから雷撃も打てないし、足が無いから逃げれないね。」
そして僕は、切断した患部へ止血のヒールを唱える。
「おお、血が止まってダルマみたいになったよ?あはははは。」
この衝撃の光景に周囲の者が畏怖の表情となり、狂気漂う空間となる。
「うぐっ…、こ、この神の使者たるケイロンへこの行い、必ずクロノス神様が貴様に天罰を与えて下さるだろう…。」
「天罰ねぇ~、もう既にハゲのゼウスから大きな天罰を受けてるし。今更、何も怖くないよ? しかし、君は本当に死なないんだね。可哀相に。」
「そうだ、どこまで切り刻んだら死ぬのか試してみようか!」
「ま、魔王様、これ以上は彼の尊厳と魂を虐げることとなります。
ど…どうか、ご一考を。」
ラークが珍しく、僕に震えながら意見をしてきた。
その行為に免じて僕は許してあげることにした。
「仕方ないなぁ。じゃあ、首だけ切って檻にでも入れておこうか。喋る生首として見世物になるでしょ?」
「魔王様、どうか彼の信念に敬意を持ち、寛大な恩赦をご一考下さい…。」
「まあ、そこまで言うなら仕方無いか。ナイ、残りの前足も切って。彼は不死身だから、手足を奪って反撃出来ないように持って帰るよ。」
「あい~」
僕はナイフをナイに渡し、彼女は残りの前足を切断した。そして、その両手、前後両足の切断面とケイロンの残りの切断面に止血のヒールを唱え、手足をマジックバッグに収納した。
「これで、ケイロン。君はもう動けない。つまり僕には逆らえないってことだね。配下の嘆願に免じて凌辱行為は止めてあげる。まあ、あとはクロノス神とやらに助けて貰うんだね。」
そして僕は本営に戻り、他の報告を待つことにした。
その後、ケイロンは兵士たちにどこかへ運ばれたらしい。
それから、ハーピーを600匹の大量捕縛、ミスリル鉱脈の発見、そしてオーガの襲撃など色々有ったけど、大きな問題も無くこの島を掌握した。
ハーピーは飛行が出来るけど、人を乗せられない、長距離は飛べないので、使い勝手が悪かったけど、飛行可能な魔族は希少なため捕縛全数を魔国に連れ帰ることにした。
グリフォンとワイバーンも大量に捕縛した。その数は合わせて400匹、その全ても魔国へ移送とした。
島の探査は神殿や教会などの発見は出来ず、特に神に対する何かをすることは出来なかった。
そして、この島を魔族領として管轄するため、兵士を1000名と輸送船1隻、資源船2隻を残して僕たちは魔国へ帰還した。
こうして、エゲレス王国侵攻への大規模予行演習が終了した。
神の島へは定期便を運行させて、ミスリルの調達と駐在兵への物資供給を行わせた。
ハーピーは種族的に気が弱く、簡単に飛行隊への編入が完了した。
グリフォンとワイバーンは、気性が荒く、編入に相当苦労したらしい。収容所に入れ、連帯性の拷問と懐柔した者への優遇処置を見せつけることで最後の1匹が飛行隊編入へ同意したと報告が入った。
工業特区から、動力機関の試作機が完成したと報告が入る。構造上、蒸気機関は困難だったので、風魔石から発生する風力でピストンを上下させる簡易的な構造で試作したとのこと。大きさは乗用車のエンジンと同等で、出力はトルクを重視した構造となっている。砲弾と違い、風魔石は魔力封入を再利用する形式にした。
風魔石動力機関は以下の構造となっている。
1.メインタンクとサブタンクに風魔石を多数投入
先にメインタンク内の空気を膨張圧縮させる。
2.タンクに接続された調圧バルブから空気をピストンへ送る。
ピストンからクランクを通じて回転力へと動力が変換する。
3.メインタンクの魔石力が枯渇すると、混合調圧タンクを通じて
サブタンクへ一時的に切り替え、動力を維持する。
4.メインタンクを排圧し、風魔石を新しいのと交換する。
再びメインタンク内の空気を膨張圧縮させる。
5.サブからメインタンクへ戻して運航する。
地球では実現不可能なファンタジー機関だった。風魔石はエネルギーとして有用な素材であり、国家戦略物資として常に収集をしている。
石油や火薬と同じと考えても差し支えないだろう。
この動力機関を〝魔石エンジン〟と名付けた。ミスリルなどの希少金属を使わず、大量生産が行えるように鉄で製作している。現在は連続運転の耐久度を検査している。それが完了すると車両への搭載になる。
僕は、戦車、自走砲、輸送車、移動式高射砲などを作っているんだ。砲弾と砲身は戦艦へ搭載したものを改造小型化している。これらの兵器は輸送船への搭載を考え、旧日本軍の豆戦車~軽戦車レベルの重量とサイズで研究開発している。
中世レベルのこの世界に近代の兵器を開発運用すれば、無敵国家となるでしょ?
世界制覇も可能だと思うんだ。
資金と人材は、ほかの国から奪えばいいし、エネルギー源は魔法がある。
演算装置などは作れないから、現代のレベルにまで技術を引き上げる事は出来ないけどね。
そして、次の大規模計画は、鉄道を作るんだ。大量輸送時代の幕開けだよ。
これには大きな魔石エンジンが必要になるから、まだ開発中だけど、線路は戦時捕虜に敷設させているんだ。鉄道網は、ブランズとポランドを経由してシガポルへと続く2路線を進めている。
完成すると輸送が馬車から鉄道へと移り変わり、魔国連合は、中世から近代へと移り変わる。
あとは長距離通信網と一部のハーピー達で飛行郵便隊を計画している。この世界の最速郵便は早馬だからね。隣国へ重要書類を送るのにも時間が掛かって待てない。
日本の郵便局のようにハーピーの飛行限界距離前後に中継所を設置する。リレー方式で配送するから隣国までロスが無く送れるよ。
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僕は各種の研究開発が完了するまでの間、食料生産高を向上させるためにドライアドを探すことにした。彼女たちの植物能力に着目している。根っこから引き抜いてちゃんと丁重に迎えるつもり。生息地の目安は付いている。未開地と呼ばれる未踏地域に様々な魔物や魔族が生息しているらしい。そこに調査団を派遣して、ドライアドを連れて帰るんだ。
ただ、問題が1点ある。カトリク教国かチャイナル人民国を経由しないと未開地へ向かえない。チャイナルとの戦闘は、時期尚早だからカトリク教国を攻めて調査団を派遣することに決めた。
どうやってカトリク教国を攻めようか悩んでいると、メビウスがサザ教団の進捗報告に来た。
「ねえ、キミヒト。教団の報告があるけど、時間いいかな?」
「いいよ。」
「チャイナルへも布教活動しているけど、あの地域は難しいわ。基本的な宗教思想が違うの。」
「そうなんだ。じゃあ、別に後回しでいいよ。」
「あとは、カトリク教国なんだけど、布教が進みすぎて領地管理に手が回らないの。教会が貴族に代わって領地を運営するんだけど、司祭や助祭では領地運営が出来なくて…。」
「うーん。どうしようかな…。ちょっとカトリク教国に使者を送るか。」
「どんな要求をするの?」
「魔国の認定教団とし、サザ教団との争いを停止する代わりに、寄付金や聖騎士団、そして国家運営を含めた中枢機能を全て魔国管理下に置くんだ。拒否すればサザ教団と魔国連合で攻めるって脅すんだ。」
「カトリク教を認めるってこと?サザ教は唯一神として大衆神の女神サザ・エサンを信仰しているんだけど…。」
「サザ教団として、表向きは認めないよ。でも上層部で連携をさせ、互いに競わせて寄付金を魔国へ集めるんだ。」
「そ、そうなのね。わかったわ。使者は誰にするの?」
「そうだな。ラークを使者として送ろうか。彼なら上手にまとめてくれるだろう。」
僕はラークを呼んで、使者としてカトリク教国へ向かうように命令した。飛行隊を連れて向かい、4日ほどで帰還するとのことだった。
ラークが戻るまでの間、工業特区を視察することにした。
「骨ちゃん、工業特区に視察に行くよ。一緒に来て。」
「はい。(キャメルって名前があるのに…)」
「ナイも一緒に行こうか。」
「あい!」
「魔国近衛騎士団長として、ビデンも同行いたしますぞ!」
「ん?ああ、いいよ。」
「ナイ様、このビデンが一時も離れず護衛致します。」
ビデンからハァハァと気持ち悪い息遣いが聞こえてきた。
「ご主人しゃま。このワンコ気持ち悪いでしゅ。」
「まぁ、護衛するって言ってるんだ。我慢出来なくなったら、始末していいから。」
「あい…。でも、このワンコ叩くと喜ぶのでしゅ…。」
「え? あ、まぁ、その気持ちは分かる…。僕にも似たような二人が居るから…。」
そして、護衛兵士を複数つれて、隣接の工業特区へ向かった。
特区は広大なエリアに様々な建物が急ピッチで建設されている。木材の使用を減らして、石材と鉄骨を多用するように指示をしている。これは研究中や製造中の火災を防ぐためだ。
・製鉄所(金属の精錬を行う)
・加工工場(基本材へと加工する)
・部品工場(基本材から部品を作る)
・組立工場(部品を組み立てる)
・整備工場(調整などを行う)
・設計管理所(設計・製造管理)
・魔道研究所(魔石製造・魔法研究)
・鍛冶研究所(金属の研究開発)
・素材研究所(素材の研究開発)
・工業学校(基礎工学の教育)
・集合宿舎(従事者の住居)
・大規模収容所(拉致者の収容)
・娯楽所(従事者用の飲食物販施設)
これが工業特区に建設される予定の施設内容である。
半数の建築が終わり一部は稼働している。
この特区に国庫から莫大な費用が投じられている。
収容所と収容宿舎は、増改築を繰り返し、大規模な施設となっている。
ドガーーン!!
「なに!? どうしたの?」
僕は収容所の方から大きな破壊音が聞こえたので、そこへ向かった。
「嫌よ!! アタシは帰るんだから!!」
「貴様、大人しくしろ!!」
収容所の外壁が破壊されて、小さな女の子を数十人の衛兵が取り囲んでいる。
そして責任者と思わしき衛兵が叫ぶ。
「おい、早く魔導士を呼べ。闇魔術でコイツの意識を奪うんだ!腕力では勝てない!」
次々と小さな女の子に衛兵が投げ飛ばされ、殴られ倒れていく。
「おお、凄いね。あの女の子。まだ子供なのに衛兵に勝ってるね。」
僕は暢気にその光景を眺めていた。
「魔王様、あれは、この施設で有名なドワーフの女性です。見かけは幼いですが、脅威のステータスを誇り、特区への協力を拒んでおります。」
骨宰相が、彼女の事を色々と伝えてきた。鍛冶師として有名な彼女をコリアラ王国から拉致したそうだ。しかし、協力を拒み、どんな手段を使っても従わないので困っているそうだ。
「へぇ~。彼女凄いね。ステータスを見てみるよ。」
━━━━━━ステータス━━━━━━
名前 :アルカ
レベル:48
HP :465
MP :401
SP :337
攻撃力:672
防御力:477
──────呪文───────
──────スキル──────
鍛冶技能 身体強化
━━━━━━━━━━━━━━━━━
「これは…。なかなかのステータスだね。
衛兵じゃ勝てないよ。僕が抑えてくるよ。」
僕はドワーフの女の子に近づき、話し掛けた。
「やあ。初めまして。僕は魔王のキミヒトだよ。」
「アタシを国に帰して!! テセウスの所に帰して!!」
「それは無理だよ。僕がドワーフを集めるように指示したからね。諦めてこの場所で働いてよ。不自由はさせないからさ。」
「嫌よ!アタシはテセウスの側にいるの!!邪魔しないで!」
「うーん。じゃあ、そのテセウスって奴を殺したらいいのかな?そうすれば帰れないし側にも居られないからね。」
「彼に手を出したら、絶対に許さない…。アンタを殺すわ。どんな手段を使っても絶対に殺す!」
「あはははは。君、面白いね。僕は国家の王だよ?現に君は捕らえられてるじゃないか?それに一人の男が国家権力に勝てるとでも?」
「彼は負けないわ。凄く強いもの。必ずアタシを救い出してくれる。彼は特別な力を持つ存在なのよ!」
「そっか。じゃあ、魔国関係の全土にテセウス君の処刑命令を出そう。無事に彼の首を持ってきたら働いてくれるかい?」
「その時はアンタを殺して、その後に彼の元へ向かうわ。絶対に協力なんてしない。」
「そっか、君は僕が弱いと勘違いしているみたいだね。少しだけ力の差を見せてあげよう。」
そう言って、公人はアルカへゆっくりと近付き目前に立つ。彼女が殴り掛かってきたのを確認してから、力で組み伏せた。
「うーん。やっぱり君の力じゃ僕には勝てないね。言う事を聞かなかったお仕置きとして、両足首を貰うね。ナイ、ナイフ貸して。」
「あい~」
公人はナイからナイフを受け取ると、アルカを力で押さえつけたまま、両足首を切断した。そして止血のヒールを唱えた。
「きゃぁぁーー!! いたいぃぃ!!」
「これで逃げれないね。手は鍛冶作業のために残してあげるよ。それと死なない程度に止血はしてあげる。」
彼女は両足首を失い、歩けなくなった。公人は笑いながら他の場所へ視察に向かったのであった。