マナ、岩塊、大群
いや、それは良いんだけどさ。
この倒したウサギどうすんだろ。
ここに捨ててくの?なんか勿体無くない?
と思ってウサギの死骸を見ると。
既に元の姿が判別できないくらいにドロドロに溶け。
薄紫の液体が沸騰するようにボコボコと泡を立てている。
うぇー、何あれ。ばっちいの。
「魔物は元となる動物に、悪いマナである瘴気が溜まって生まれるニャ」
驚いてる俺に向かってアーニャちゃんが説明を始める。
世間知らずでサーセン。
「魔物は倒すと悪い部分が抜けたマナの塊になって、時間と共に空気中に拡散するニャ。なってすぐの魔物は元の身体の一部分を残すことがあるけど……」
薄紫の液体は、そのまま蒸発するように消え失せ、後には何も残らなかった。
「ほとんどの魔物は何も残さず消えちゃうニャ」
「ウサギの肉とか残すかと思った」
「残ることはあるけど、あんまり食べたくないニャ」
そりゃ同感。
ドロドロが残ってる気がして抵抗があんよ。
「ただ、残った物はマナが拡散せず溜まったままだから、上質な装備の材料として高値出で売れるニャ」
ドロップアイテムか。
いやあんまり落ちないらしいしレアドロップなんかな。
何にせよ1匹倒す毎に血まみれで解体したりしなくて良いなら気が楽だ。
あんま嵩張る物は持ち歩きたくねーしな。
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
結局森を抜けて丘に出るまで、新たなホーンラビットは出てこなかった。
森自体は30分も歩かないうちに抜けた。
森は主に西の方角に広がってるらしく、それ以外の方向はあんまり深くないんだってさ。
ちなみに北には荒野が、東には港があるらしい。
魚介類を出す店があるくらいだから海が近いんだろうと思ってたけど、東だったか。
で、丘なんだが。
まばらに木が生えてるものの、かなり開けた場所だ。
丘の向こうまでは見渡せないが、見える範囲でも結構な量のホーンラビットがいる。
あんま派手な魔法とか使うと囲まれてフクロにされそうだな。
「さ、お兄さんのお手並み拝見ニャ」
挑発するような先輩風を吹かせてアーニャちゃんが言ってくる。
からかわれて顔真っ赤にしてた娘とは思えない。
セクハラしたい。
ま、それは後にして。
俺は視線を一番近くのホーンラビットに移す。
こっちから見えるんだから相手からも見えるはずだが、無警戒だな。
もしかして知覚範囲は相当狭い?
いや、ウサギだから耳に頼ってるだけなのかも。
とりあえず新しく覚えたスキルを使ってみるべ。
「『|ホークアイ』!」
スキルを発動した瞬間、一気に視力が良くなったのを感じる。
相手の動きが遅く見えたりとかはしない。
単に視力を上げるスキルだな。便利だけど。
まずは1発撃って近寄ってきたらストーンウォール。
接近されたらアヴォイドで距離を取る作戦でいってみるかなー。
長引くようならハイネスヒーリングも視野に入れよ。
短杖の先を相手に向け、叫ぶ。
「『マジカルバレット』!」
短杖の先からどこからともなく巨大な岩塊が出現し、相手に向かってすっ飛んでいく!
凶悪な質量は無防備に佇むウサギにぶち当たり、血煙と共に木っ端微塵に破壊する。
当然、一撃死だ。
岩塊はその勢いのまま巨大な破砕音と共に地面に衝突し、血の跡をを引いて周囲に散らばった。
「うーわ、グッロ……」
何あれ?最初撃ったときは透明な塊だったのになんで岩が出んの?
あれか?ストーンウォールを記憶した杖だから地属性になったとかそういう?
ていうかあの岩消えないんだけど。
「ニャ……ニャ……ニャ……」
アーニャちゃんも目を丸くして驚いたご様子。
俺もびっくりだよ。
「一体あれはニャンニャンですか!?」
ニャンニャンですか?
ニャンニャンしていーですか?
「魔法らしーよ?」
「あんな魔法見た事無いですニャ! ……ハッ」
慌ててブックを確認するアーニャちゃん。
見たから覚えたかな?
「どうだった?」
「覚えてる……けどわたしには使えそうも無いニャ」
そりゃ残念。
二人でラブラブ☆マジカルバレットとかやりたかったのに。
「そんニャことより!」
慌てた様に周囲を見回す。
ドロップアイテムの確認?
と思ったけど様子がおかしい。
具体的には目に見える範囲のホーンラビットがこちらを目指してゆっくりと近寄ってきている。
あー。
そりゃあんなでかい音立てれば気付きますよね。
さすがに長い耳は飾りじゃないってこった。
俺は20匹を超えるであろうホーンラビットの大群を前にして、ゴクリとつばを飲み込んだ。
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
「『マジカルバレット』! 『マジカルバレット』! 『ストーンウォール』! 『マジカルバレット』!」
「『ウインドシャール』! 『ストレングス』! 『シールドバッシュ』!」
戦闘は、自然と俺が前衛、アーニャちゃんが後衛になった。
魔法使いが前衛なのも変な話だけど、岩のマジカルバレットの大きさが把握できてないからアーニャちゃんに当てそうで怖い。
アーニャちゃんも、あの威力の岩塊が後ろから飛んでくると咄嗟に動きにくいという事で俺が前に出た。
幸い的はいっぱいあるし、当たれば一撃だから連射すればいい。
外しても、近付いてきたやつはアーニャちゃんが弾き飛ばしてくれるから、動かず攻撃だけ考えることが出来る。
というか撃った後の岩が残るから、足元を見ないと絶対躓きそうで動けない。
たまーに複数匹が同時に飛び掛ってきたけどストーンウォールで防げた。
どれくらいの時間戦ってたかわかんないけど、全部倒しきるまでに俺たちは奇跡的に無傷で立っていることが出来た。
でも中身はかなりボロボロ。
極度の緊張が続いたからか、精神的な疲労感が半端無い。
思わずその場に座り込む。
これだけ撃ってもMP的なのは余裕なんだけど。
やはり体力がもたねーな。
つくづく魔法使いにして良かったと思うわ。
というかアーニャちゃんがやばい。
周囲の安全を確認した後、大の字に倒れて呼吸を整えるので精一杯なようだ。
そりゃあんだけ動きながらスキル使えば俺の何倍も疲労するだろうさ。
戦士ならMP的なものも余裕無いだろうし。
でも汗だくで息を荒げる姿はそこはかとなくエロティック。
呼吸に合わせて上下する胸はいつまで見てても飽きそうにない。
後で匂い嗅いでいいすか?
とりま、この後のことはもうちょっと休憩してから考えよ。
今はしばらく、このままで。