朝食、羞恥、防具
今日の朝食はトースト、ハムエッグ、サラダ、牛乳の洋風メニュー。
俺とオッサンはこれにステーキが付く。
朝から重いと思うじゃん?
しょうがねーだろ昨日の昼から何も食ってないんだから!
むしろオッサンが異常なんだよ。
待ってるのが暇だったのでオッサンの調理風景を覗いて見たけど。
やっぱりキッチンにはブックが置いてあった。
ガスコンロみたいな所に置かれたブックが金色に明滅してる。
いや、調理時にスキル使ってるかな?と思っただけなんだけど。
あれかな?魔法使った調理器具、略して魔法器。
と思って聞いたら魔法で動く器具の魔動器だった。惜しい。
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
「おふぁよ~……ニャ!?」
料理がもうすぐ食卓に出揃うかって所で、大あくびしながらアーニャちゃんが食堂に入ってきた。
昨日見た薄着じゃなくてネコミミフードの付いたピンク色のパジャマ姿だ。
大あくびを見られたのが恥ずかしかったのか、頬を赤く染めながら俯いてる。
かわいい。
「シンゴ……」
オッサンに名前を呼ばれて振り向くと、そこには怒りで全身を赤く染め俯くオッサンの姿が!
ちょ、待て!おち、落ち着け!冷静になれ!
「……はあ。アーニャ、顔洗って着替えてこい。もうすぐ飯が出来る」
「あ……わかったニャ」
こっちをチラチラ見ながら着替えに戻るアーニャちゃん。
ちょっと警戒してる?してるの?
まあ年頃の娘さんがいるご家庭にお邪魔してりゃ、そりゃ警戒されますよね!
「お前に見られるのは癪だが、人並みの羞恥心を知るいい機会にはなったか」
オウ。
という事は普段はあれよりもっとオープンなの?
よし贅沢は言わない。動画の撮れる魔動器を今すぐ寄越しなさい。
俺がもっと羞恥心を教えてあげるから!
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
「俺はギルドに出勤する。装備についてはアーニャに伝えてあるから、家を出る際に言え。後……わかってるよな?」
「はいっす!」
朝飯を食べた後ゴロゴロしてたらオッサンの出勤時刻が近付いてきたらしい。
昨日と同じような服装で家を出るのを玄関から見送る。
あれ制服なの?
社会人は辛いねえ。
よしわかった。
娘さんのことは俺に任せてください!
と決意してると遠くのオッサンが振り向いてこちらをじっと見る。
思わず背筋がピーンと張る。何で気付くんだよ早く行けよ。
視線から逃れるように、気付かない振りをして玄関の扉を閉めた。
「あの……いつ頃出掛けますかニャ?」
オッサンの視線をシャットアウトした所で、先に中に入ってたアーニャちゃんが声を掛けてくる。
昨日はスカート姿だったのに、今日は半袖のレザージャケットに膝丈ほどのパンツルックだ。
きちんとジャケットの前が閉じてる所に警戒心が現れてますね。
でもこういう動きやすそうな服装もいいと思います。
そんな君にサムズアップ!
すると顔を赤くして俯く彼女。
えっ、ちょっと恥ずかしがりすぎじゃない?
こんな娘だったっけ?
あんまりそんな顔されるとなんかやらしい空気になってきますよ。
さすがにそれはまだ早い。
せめて俺が国外逃亡できる下地が整うまでは!
あの親父なら地の果てまでも追ってきそうだけどな。
「あー、うん。装備があるって聞いてるんで、それ着たら出掛けよーかな」
「は、はい……。こちらですニャ」
彼女の先導の元、家っていうか屋敷の中を歩く。
あっ、この子しっぽがある!
歩くのに合わせて先っぽが黒くなった金色のしっぽが左右に揺れてる!
気付いたら俺は彼女の下半身を凝視しつつ後を追っていた。
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
案内された納屋っぽい所で用意された装備に着替える。
薄い鉄板入りの皮の帽子、皮の胸当て、皮の小手、小盾、穴空きグローブだ。
あと武器のホールド用に肩掛けベルトと小物用の腰ベルト。
帽子って言うか、こりゃヘルメットだろ。
グローブは武器持った際の滑り止めに要るらしい。
武器が無いんですけど!
オッサンのお古だからサイズが微妙に大きかったけど、そこはアーニャちゃんが何とかしてくれた。
ベルトを調節したり、紐で縛ったり。
お陰でこれ一人じゃ脱げません。
「こんなところかニャ。どう? きつくニャい?」
「オッケーオッケー、バッチリっすよ。あんがとねー」
軽く腕や足を振りながら動きが阻害されないか確かめてみる。
結構動きやすい。小盾は腰の後ろでベルトに固定してある。
一番重いのがこれだけど、さすがに外すわけにもいかない。
そう、昨日オッサンにブックをいつ出せばいいのか聞いたときの答えがこれだ。
ブックホルダーという専用の収納器具を盾の中に仕込んで、常時出したまま戦う。
使わない時は盾を背負えば盗難防止にもなるらしい。
難点は家の中みたいな狭い場所じゃ邪魔になるくらいだな。
じゃあ昨日の様な場面じゃ防げないって事じゃないですか。やだー!
「じゃあ出掛けましょうかニャ」
「えっ? アーニャちゃんも付いてくんの?」
「はいニャ」
やったぜ。
ていうか彼女もいつの間にか皮の胸当てと小剣と小盾を装備してる。
くそっ、着替えシーン見逃した!
まあ良いペアルックだ。
先に屋敷を出た俺が、ブックでセキュリティを施すアーニャちゃんを外で待ち。
その後彼女にオススメの武器屋へと案内してもらった。