毒蛇、爆走、怒り
「ニャッ!?」
寝転がって休憩してたら、唐突に隣のアーニャちゃんがが変な声を出した。
どしたん?足でも攣った?
上体を起こしてそちらを見ると、アーニャちゃんの傍に鮮やかな緑と黄色のまだら模様をした蛇がいた。
アーニャちゃんは首筋から血を流してぐったりと……ちょ、オイ、待てよ!
「うわああ! あっ、アーニャちゃ……!」
たまらず大声を出すと蛇はこちらを認識して素早く這ってくる!
待て待て待て、待って!タンマ!
「『ストーンウォール』!」
尻餅ついたような姿勢で後退りしながら石の壁を生成し、距離を取ろうとする。
このまま攻撃したらアーニャちゃんに当たる!
が、蛇は俊敏な動きで石壁をよじ登ると、上から飛び掛ってきた!
「うおっ! ちょ……あ、ぐううう」
頭は無理だったが、間一髪胴体部分を掴むことに成功する。
だが、掴んだ蛇がこちらの拘束から逃れようと無茶苦茶に暴れてくる。
ああ、ちょ、強い強い!こんな細いのになんでこんな力が強いの!
強い力……そうだ!
「『マイティストレングス』!」
筋力強化のスキルを使った瞬間、指を剥がそうとする力が急激に弱まる。
これならいける!
片手で蛇の胴体部分を掴みながら、しっぽの部分を掴んで頭を地面に叩きつける!
叩きつける!叩きつける!
何度も何度も叩きつける!
「『マジカルバレット』!」
やがて痙攣しながら力を抜いた蛇を遠くに放り投げると、マジカルバレットでトドメを刺した。
「ハア……ハア……そうだ、アーニャちゃんは!?」
急いで駆け寄って容態を見る。
苦しそうな表情はしてないし脈はある。ただ意識が無い。
頬を叩きながら何度も呼びかけるが、目を覚まさない。
おお、お、おちゅ、おつちけ!
まだ大丈夫!まだ大丈夫!
手当てすれば大丈夫!のはず!
こういう時どうすりゃいいんだ!
意識が無い!意識が無い時!意識なくなるのってどんな時?
おぼれた時!
「そうか! 人工呼吸!」
ちげーよ!
蛇にかまれた、意識が無い。
毒だ!
毒消し!
腰ベルトのポーチを漁って毒消しを探す。
中には赤色、青色、緑色の液体が入った小瓶が入っていた。
どれが毒消しかわかんねえよ!
それ以外!魔法!
毒消し魔法!無い!
毒をなくす!
そうだ、吸い出せ!テレビでそんなの見たぞ!
俺はアーニャちゃんの首筋に口を当てると思いっきり吸う。
口の中に血の味とは違う変な苦味が広がる。これが毒か!
口の中に溜まった毒っぽいものを吐き出す。
「ペッ! ん~……ペッ!」
やがて苦味がなくなるまで吸っては吐くを繰り返す。
これでどうだ?
アーニャちゃん!アーニャちゃん!
目を覚まさない。
よし、回復だ!
「『ハイネスヒーリング』!」
唱えると明るい緑色の光がアーニャちゃんを包んで首筋の傷を塞いだ。
色が毒蛇みたいで気持ちワリィ!
まだ目を覚まさない。
くそ、親父に頼るっきゃねえか!
俺は意識の無いアーニャちゃんを背負うと、荷物をまとめ、筋力強化の呪文を掛け直すと街に向かって走り出した。
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
積載量は問題ない。
恐らくマイティストレングスは、アーニャちゃんのストレングスの上位スキルだ。
これだけの荷物を背負ってても羽毛同然の重さしか感じない。
重量は問題なくても嵩張るからバランスは悪いけど。
でかい風船担いで走ってるようなもんだ。
しかも運ぶもの自体の重さが消えたわけではなく、当たれば当然痛い。
でも、何よりも……
「体力がも、もたねえんじゃああ!」
くそっ、次に買うのは絶対スタミナ向上の碑文にしてやる!
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
「親父! アーニャちゃんが!」
「なにっ!」
休憩無しで走り続けたが、森を抜ける直前で疲労困憊で倒れそうになったので。
自分にハイネスヒーリング掛けたら疲れが取れた。
以降はハイネスヒーリング連打しながら走ってきて、その勢いのままギルドに飛び込み親父を呼ぶ。
「見せろ!」
親父はアーニャちゃんを俺から奪い取ると、ソファに寝かせ容態を見る。
周りの野次馬がやかましい。見せモンじゃねーぞ!
「オイオイ、こいつぁ……!」
額に手を当てて目元を隠す親父。
えっ。
マジで?
噓だよね?
「テメエ! アーニャに何しやがった!?」
「待っ……ぐえっ!」
胸倉を掴まれて持ち上げられる!
足!足浮いてる!
「丘でホーンラビット倒してっ……! 蛇が……毒が……!」
「毒ぅ? 大方コーマバイパーに噛まれたんだろうが、ただ寝てるだけだぞ」
あ、そうなの。
そうか……。
「よかった……」
「よくねえ! 自分のやったことをちゃんと見やがれ!」
安心して身体の力を抜く俺を、親父は更に怒鳴ってアーニャちゃんの目の前に引きずる。
は?毒じゃないなら何が問題なんだよ。
と思いアーニャちゃんを見る。
そこには。
びっしょり汗をかいたせいで素肌に衣服が張り付き。
同じ姿勢で背負われてる来たせいで、腕や足に道具が当たってあざになり。
首筋に毒を吸った跡がキスマークとして残る、意識の無いアーニャちゃんの姿が!
あー。
うん。
なるほど。
これは誤解しますね。
ていうか。
またこのパターンかよ!
「許さねェ! 覚悟しろ!」
「『ストーンウォール』!」
親父が腕を振りかぶるが、今度は攻撃が来るのが事前にわかってた。
なので至近距離で石壁を生成、掴まれた腕を下から弾き飛ばして拘束から逃れる!
親父は体勢を崩した!いまだ!
「『マジカルバ……』」
「『テレポート』!」
げえっ!後ろに回りこまれた!
しかも崩れてた体勢も直って再度腕を振りかぶってる。
「ア、『アヴォイド』! 『ウインドシャール』!」
盾を構えて咄嗟に回避を試みるが……
「『ラプラス』!」
親父がスキルを発動すると同時に、まるで拳がホーミングするようにこちらを捉え。
風の障壁をぶち抜いて盾ごと俺を吹き飛ばした。
吹き飛んだ俺は酒場兼ギルドの壁を突き破ってそのまま中空を飛び。
「あガっ!……ごっ!」
外に置いてあった荷車に命中、破壊しながら気絶した。