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#04

 

「ヤベぇな。やっぱコイツらマジ強ぇぞ!」


 声に出して愚痴りながら、ノヴァルナは四機の敵に次々に銃撃を浴びせた。だがやはり敵の親衛隊仕様機は、身軽に『センクウNX』の銃撃を回避する。


 そもそも敵の機種が新型とされる、セターク家から供与された『ヤヨイ』の親衛隊仕様機ではなく、やや旧式となるアッシナ家オリジナルの『シノノメ』がベースである事が、ノヴァルナの抱く危機感の証左と言えた。使い慣れた機体を自在に操るのは単に腕がいいだけでなく、ベテランパイロットが乗っている場合が多いのだ。


 敵が襲撃態勢を整える僅かな時間、ノヴァルナは分断されたノアに視線をやった。ランデブービーコンは作動させたままであり、コクピットの全周囲モニターには、常にノアの『サイウンCN』の位置が表示されている。そのノアはノヴァルナと互角に戦えるだけあって、防戦一方ではあるがやはり健在だった。その姿にノヴァルナは胸を撫で下ろす。


 そこに4機の攻撃艇が、今度は正四角形に広がって『センクウNX』へ突っ込んで来た。さらに4機の『シノノメSS』がその外側から迫る。ノヴァルナの回避コースを塞ぐようなフォーメーションだ。攻撃艇がビーム砲を連射する。それはどちらに回避しても、親衛隊仕様の『シノノメ』の射点に入る事になり、逃げ場があるとすれば方形陣を取った4機の攻撃艇の、真ん中を突っ切るしかない。


 追い込まれる形で、4機の攻撃艇が囲む四角の真ん中に飛び込む『センクウNX』。ただそれは、敵にとっても注文通りの動きであった。攻撃艇の囲みを突き抜けたノヴァルナの機体に、敵の『シノノメSS』が四方から狙撃を行う。


 ところがノヴァルナもそれは読んでいた。ノヴァルナも経験は浅くとも、その操縦の才能は他者より秀でている。相手のベテランパイロットゆえの連携の緻密さが、逆に予測を容易にさせてしまったのだ。

 敵の『シノノメSS』から十字砲火を受ける直前、ノヴァルナは機体の前面側に最大出力で重力子を放出し、急制動をかける。


「ぐぅうっ!」


 コクピットを覆う重力子ダンパーでも受け止めきれないGに、体が押しつぶされそうな圧力を感じ、ノヴァルナは歯を食いしばった。その中で逆進モードでスロットルを全開、『センクウNX』は弾かれたように後方へ飛ぶ。直後に『センクウNX』が急制動をかけた数メートル先で、4機の敵の放ったライフル弾が交差した。

  

 ノヴァルナ機の強引な行動に『シノノメSS』のパイロット以上に驚いたのは、逆進する『センクウNX』に追いつかれた4機の攻撃艇だった。慌ててビーム砲塔を旋回させ、散開しながら『センクウNX』を撃とうとするが、その前に機体をグルリと回転させながら放った、『センクウNX』のライフル弾に4機全てが仕留められる。


 するとノヴァルナはそのまま『センクウNX』を直進させ、『シノノメSS』を置き去りに離脱しようとした。『センクウNX』の向かう先には、ノアの『サイウンCN』が敵と交戦している。


「く! しまった。追え!!」


 ノヴァルナが攻囲を振り切り、ノア機の援護に向かったと考えた『シノノメSS』のパイロット達は、一斉に『センクウNX』のあとを追い始める。


「ノア!」


 追撃してくる4機の敵の状況を、後方をモニタリングするホログラムスクリーンで一瞥したノヴァルナは、通信回線でノアに呼び掛けた。


「なにかしら? いま忙しいんだけど!」


 ノヴァルナからの通信に『サイウンCN』に乗るノアは、気丈にも冗談交じりで応答して来る。しかも意外と言えば失礼だが、ノアは攻撃艇3機に加え、すでに『シノノメSS』を1機撃破していた。さすがに戦国の梟雄“マムシのドゥ・ザン”の娘だ。するとノヴァルナは場違いな言葉を口にする。


「忙しいんなら来いよ。気分転換にひと踊りしようぜ!」


 そう言ってノヴァルナはノアの元に向かいながら、『センクウNX』が左手に握るポジトロンパイクをウエポンラックに収め、その手を差し出させた。以心伝心、ノヴァルナの意図を汲み取ったノアは、超電磁ライフルを周囲の敵に一連射しておいて、自らも『サイウンCN』をノヴァルナの元へ発進させる。それぞれの機体が真正面から接近し合い、その後方を敵が追う。


「ワルツはいかが? お姫様」とノヴァルナ。


「ええ。謹んで」


 姫様らしく上品に応えたノアも、『サイウンCN』の左手を差し出す。二機のあとを追うアッシナ家の部隊は、互いに警告を発した。


「前方から来る敵機の射撃に注意しろ!」


「すれ違いざまを狙う気だぞ!」


 アッシナ家のベテランパイロット達は、自分達が追う敵機のさらに先から来る敵機が、すれ違う際にあとを追尾する自分達を、狙撃して来るに違いないと推察したのだ。

  

 ところが星の海で踊る恋人達の意図は、そのような単純なものではなかった。


 ノヴァルナとノアの『センクウNX』と『サイウンCN』は、向き合ったコースを真正面から突っ込んで行く。互いのヘルメット内で衝突警戒警報が次第に大きくなって来る。


 そして『シノノメSS』のパイロットの一人が、「やつら、正面衝突するぞ!」と小さく叫んだ次の瞬間、伸ばした左手を握り合った『センクウNX』と『サイウンCN』は、ノヴァルナの言葉通りにその場で大きく、ワルツを踊るように回転したのだ。右手の超電磁ライフルを向けた銃口の先には、それぞれ自分達を追撃して来た敵機がある。


「なっ!!」


 それぞれ先頭を行く追撃機のパイロットが目を見開いた刹那、超々高速のライフル弾に機体ごと引き裂かれた。さらに回転を続ける『センクウNX』と『サイウンCN』は、今度は位置が入れ替わり、パートナーを追撃して来た敵の二機目を爆砕する。


「一旦離脱して立て直せ!」


 生き残ったアッシナ家のパイロットの一人が叫び、『シノノメSS』3機と攻撃艇3機は動揺を隠せない様子でバラバラに距離を取った。さしものベテランパイロットも、ノヴァルナとノアがこのような曲芸まがいの戦闘機動をするとは予想していなかったのだ。


 しかも回転を終えた『センクウNX』と『サイウンCN』は、流れるような動きを見せて、背中合わせになり、互いの死角をカバーし合う態勢を取った。敵の動きを見据えながらも信頼感と安堵感から、ノヴァルナとノアの口元が微かにほころぶ。


 こうなると半数以下にまで減らされた敵は、新たな手立てがない。ノヴァルナもそれは承知しており、そこで相手の出方を窺いながら、『デラルガート』のマーカーを全周囲モニターに探した。敵艦隊からの砲撃を上手く回避出来たのだろうか?


 その『デラルガート』は健在であった。距離がありすぎて視認は出来ないが、左側下方に緑色のマーカーが表示されている。しかし大幅な回避行動でまた時間を消費しており、トランスリープ可能な残り時間を、計算し直さなければならないはずだ。


 一方のアッシナ家本陣部隊は、ノヴァルナとノアの左上方を航過しつつある。本国に撤退中であり、『デラルガート』やBSHOを遠ざければそれで良いという判断であろう。もっともノヴァルナ達からすれば、最初から攻撃を仕掛ける意思はなく、いい迷惑なだけなのだが。




▶#05につづく

 


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