序 邂逅―カイコウ―
この世界は知らない。
こんなに青くて、広い空。
太陽に灼かれた砂の広がる、砂漠。
所々に見える、鮮やかな緑。
そして、小さな国。
こんな世界は知らない。あたしは見たことがない。
じゃあ、これは、
誰の記憶―――?
(((これは、あなたの記憶)))
いいえ、違う。これはあたしの記憶ではない。
(((あなたはわたしであって、わたしはあなたでもある)))
わからない。理解できない。
脳ではなく、心と呼ぶべき部分が、理解することを拒否している。
(((これは、わたしの記憶。だから、あなたの記憶)))
あたしはあたしだ。ここにちゃんと存在している。
(((あなたはこの時のために産み落とされた、わたしの―――)))
光が爆ぜた。
(((砂漠の月の児!見つけたぞ!)))
歓喜に満ちた叫び。景色がぐにゃりと歪む。
(((見つけた、見つけた…! 永き時の苦労、それがここに…!)))
歪んだ景色が一点に巻き込まれてゆき、すべての色彩が混ざり合って濁った黒に変わる。
(((呪羅様の呪いの眠りも、時を置かずして解ける。月の児よ、よいな、よいな。我が主の一族の怨み、忘れたとは言わせぬぞ。主の眠りが解けた暁に、そなたらの一族は滅びよう!)))
頭が痛む。引き裂かれる。
暗闇が反転する。
(((見つかった…!)))
伝わってくる<声>が、震えた。
これは、何?
(((お願い、早くここに来て)))
<声>の調子が変わる。先ほどまでの形式張った物言いではなく、心が剥き出しのままの<声>が届く。
(((迎えに行くから。すぐに…!)))
躰が浮いていく。だんだん楽になっていく。
(((呪羅が、目覚める―――)))
そして、途切れた。
長くなりそうです。
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