幻の特待生 -part3-
「・・い、おーい・・・お兄ちゃん。お兄ちゃんってばっ!」
「ふぇ」
目の前に起きたことに頭の処理が追い付かなかったがエミの呼びかけで何とか現実に戻ってきた。
「お兄ちゃん変な声だね」
エミは僕の顔を見ながら何故か笑っていた。
この子は一体何なんだ。亜空間を生じさせ転移移動するにはかなりの魔力保有と長年の鍛錬が必要なはず。そんなことを考えた時列車で見たことを思い出す。あの少女も亜空間を・・・僕が外の世界に居たうちにここでは何が起きているんだ。
科学の発展と共に魔法、それに先駆者の発展も伺えるがさすがにこんな幼い女の子がこんな超魔法を使えるわけがない。あり得ない。
聖石には肉体を向上させるのと同時にわずかな魔力を有することは可能にする効果があるが・・・僕のように実験されない限りこんなものは・・・いや、聖剣の紋章なら、少ない魔力でも聖剣の紋章の特性として持っている能力で多少の魔法は・・・
でも、アリスの魔法は強すぎる・・・テログループの少女が作った亜空間は・・・そして、エミは・・・・・・・
列車での一件やこの先の不安で思考が確実に衰えていた。僕が見てきたものはなんなんだ。僕が知っている情報とは点で異なって・・・
「いった!!!!」
唐突に左足の脛のあたりにとてつもない衝撃が走る。
「なんで、私のこと無視するのよ・・・それになんなのその汗。緊張しているの?それともビビってるの?お兄ちゃんしっかりしてよ、もう・・・」
足の痛みはジンジンと血液に乗って全身に廻ってくて、それのおかげか頭の血の気が引いていく。
「ごめん。ありがと。少し考え事してたら緊張してきちゃって冷や汗が・・・ね?」
そうだ。僕がこの地を去ってからもう10年だ、魔法の研究が進んでいてもおかしくはないし、もう実用化されていてもなんら問題はない。僕の考えはもう古い。
「そう・・・なんだ。まぁ、いっか、それじゃ気を取り直して理事局にレッツゴー!」
エミのそういって、また僕の手を引きながら、目の前にある横断歩道に歩きだした。信号は『赤』を示している。
「え?エミ!信号!赤!赤!」
しかし、エミはこちらを向いて笑顔で何かを言うが目の前を過ぎ去っていく車の音に邪魔されて聞こえない。
車道に飛び出すわけにはいかず、足に力を入れようとしたが、エミに蹴られた部分に衝撃が再度走り目を瞑る。あぁ、終わりだ。そんな虚しい感情が頭をよぎる。
「え?お兄ちゃんどうしたの?」
エミの声が聞こえる。とても心地よく天使の声のようだ。身体全体が何かに包まれている様な気がする。あぁ、気分がいい。このまま僕は意識が無くなり死んで行くんだろうか・・・
「いった!!!!」
今度は右足の脛に衝撃が走るり、あまりの痛さに身体が跳ね起きる。
「あれ?ここどこ?」
目を開くとそこは先ほど僕たちがいた交差点ではなく、どこかの部屋らしい。僕は壁に寄りかかり周囲を確認する。真中に机が1つにそれを囲むように椅子が4つある。はじめに思ったのは何かのミーティングルームか・・・
「ここは、理事局の地下3階の密談ルームだよ!お兄ちゃんここに様があったんでしょ?電話からF113って聞こえたからここかなって思ったけど違ったかな?」
「密談?」
「とぼけないでよ!お兄ちゃん何かの組織の一員でしょ?私分かってるんだから!」
エミは机に腰をおろし僕にそう訊ねてくる。
組織の一員とは何のことだ?一体なんの話だ・・・
「エミ、悪いんだけどなんの話か僕にはさっぱりわかんないんだけど・・・」
僕がそういうとエミは溜息をつき何か言おうとしたが・・・
「あなたたち大人しく抵抗せず壁に寄りかかり手を頭の後ろに回しなさい!」
突如ドアが開き、そこから発せられた声に遮断される。
僕は突然の出来事に身体が動かない。
だが、その声にはどこか聞き覚えが・・・あ!
「アルフォード=フィリス!なんであんたがここにいるのよ!」
エミはドアの方を見つめ少したじろいでいる。いや、かなり驚いている。
「それは、こっちの台詞です。どうしてエミさんがここに居らっしゃるんですか?それに、なぜ、私の客人である楸くんと一緒なんですか?」
「いやぁ・・・それは駅でこのお兄ちゃんの電話からF113って聞こえたから・・・」
「はぁ、呆れました。それでも陰陽学園のナンバー1ですか?少しはおとなしくしてください。あなたは幼いながら陰陽学園の学内序列1位ですよ!あなたの地位を狙う人もいるんですから」
「大丈夫大丈夫!私には時空神いるし!瞬間移動!なんてね?」
エミが陰陽学園のトップなのか?いや、今そうフィリスさんが・・・ということは・・・高校生?いやそんなことは・・・ないよな?
「もういいです。あなたがその瞬間移動とやらでここに直接きたせいでセキュリティが発動してしまって大変なんですよ。私は一度、一階のカウンターに行って事情を説明していきます。行きますよ、楸君」
「え?僕も?」
「はい、時間がないので、歩きながらで申し訳ないのですが、聞きたいことがありますので」
「なら私も一緒に行くよ!お兄ちゃんとここに来たのは私だし、説明するなら、私が・・・」
エミは途中で言葉を切る。
僕はフィリスさんについていこうと立ち上がるが、そこには怯えるエミと笑顔のフィリスさんがいるが、その笑顔の中にある瞳は全く笑っていなかった。寧ろ恐怖さえ感じさせる漆黒の瞳だっ
た。
「ここで待とうね?エミちゃん」
「・・・は、はい」
エミはそういうと机から降りて椅子の上に体育座りして何かぶつぶつと呟いているがなんか可愛かった。
「楸君、それじゃ行きましょう」
「あ、うん」
僕はフィリスさんのあとに続きドアをくぐる。
ドアを挟んでいる、かなり印象が異なる。先までいた部屋は無機質な広い部屋に机と椅子だけだったが、一歩外に出てみたらそこはまるで何かのホテルのように豪華に装飾が施されている。
地面には赤い絨毯が敷き詰められ、照明は大きなシャンデリアが等間隔で整列している。
「先ほどは無礼を申し訳ありません。大事な楸君にあんなはしたない姿を見せてしまい、もう死んでも死にきれません・・・ほんとに、私は・・・」
「気にしないでください、エミについていったのは僕で悪いのは僕ですよ。だから、アルフォード=フィリスさんは何も悪くないですよ!」
「アルフォード=フィリスさんか・・・エミさんのことは呼び捨てなのに・・・」
「え・・・あの・・・フィリスさん?」
「・・・」
うそでしょ!!!!何これ!これってなに?もしかして、呼び捨て?呼び捨てにしなきゃいけないの?いやいや、ダメでしょ!初対面の人を呼び捨てになんて・・・ましてや、聖蘭学園の生徒会長だぞ・・・
「・・・フィリス」
「はいっ!ありがとうございます!」
フィリスは僕の隣から前に移動し少し前かがみになって身体全身で喜びを表してくる。
前かがみになった際に強調された胸が目から離れない・・・どうしよう、目のやり場が・・・
「ふふふ・・・楸君は可愛いですね」
「え、今なんて?」
「いえいえ、ごめんなさいね。少しばかりからかいすぎました。許してください。念願の再会についつい舞い上がってしまい・・・・あ!今のはなんていうか・・・その・・・聞いていますか?楸君?」
「あぁ、少しめまいがして・・・ごめん聞いていなかった。悪い、もう一度いいかな?」
「もう仕方ないですね・・・でも、大したことはないので、本題に移りましょう。楸君が体験したテロ事件について」
僕は廊下を歩きながらフィリスに列車内で起きたことの一部始終を話したがフィリスの反応は芳しくなかった。
そして、フィリスのは僕に告げる。
「楸君、それはきっと幻影です」
え・・・幻影!!!!!
種明かしはまた次回!
あと、エミの力の問題についても次回!
楸君の中にある魔法の定義は間違えありませんが、人類は常に進化です!
なので、オールオッケー!