幻の特待生 -part1-
列車が発車してからはもうアリスの恩返しパラダイス。
周りの男子だろうか・・・視線が痛い。
アリスはどこからともなくいろんなものを出してくる。はじめは水筒だったが中身はまさかのクラムチャウダーだった。御茶か水だと思い至って普通に口に含んだらアツアツのクラムチャウダーが雪崩のように流れてきて、口も身体も大パニック!!!。なんとか、口の中にとどめろことは出来たがこの調子だと油断するとやられてしまうと言ったほど警戒心が生まれた。
でも、その後は特に何か起こるわけでもなくアリスのおもり、もとい相手をしている。
センターターミナルまではもう2、3分で到着する。アリスとの楽しい時間ともおさらばだ。しかし、久しく人とふれあうのを面倒ではなく楽しいと感じられている自分がいた。幼少期から家族に見放され、その故友人なんていなかった僕はずうと一人だった。たが、外から彼らを見ていた時期があった。友達とは何なのか幼いころの僕には大きな謎だったのだろう。僕はとにかく人を見つづけた。人間観察といってもいい、そのおかげか、癖が直らないのか僕は今も相手の言動ひとつひとつを観察しどんな心情なのか当ててしまう。
だから、アリスの様な人は稀だった。今までにもいたことにはいたのだがアリスのように純粋な気持ちだけで察してくれた人は初めてだった。
「アリスさんは優しいんだね。こう色々としてもらうまでずっと、つっけんどんな性格だと思っていたけど予想以上に心が澄んでて清らかな人なんだね。君が羨ましいよ」
「ありがとう、でも褒めても何も出ないわよ。それにさっきも言った通りこれは恩返しなのよ?決してボランティアでやってるわけではないからね。お母様からの言いつけなのよ。自分には出来ないようなことを相手にしてもらったならば相手に出来ないようなことで恩返しして誠心誠意を持って感謝しなさいってね?説教くさかったかな?」
「いや、そんなことはないよ。僕はすごくいい教えだと思う。相手に出来ないことか・・・さすがに水筒にクラムチャウダー入れて渡したり食べかけのサンドウィッチを渡したりはしないかな」
「うっ・・・なんでそのことでけなのよ。他にも。あなたの質問にも沢山答えたでしょ?」
「80%は質問には関係のない話だったけどね」
「うっ・・・うっ・・・もう!あっ・・・」
『皆さんこんにちはAIシステムのサキです。もう間もなくセンターターミナルに到着します。新入生の方はこの列車を降りた後、生徒証に送られてくるメールに従い学園へと向かってください。再度繰り返します・・・・・・』
アリスは何かを言いかけたようだがサキのアナウンスで寸断されてしまった。すこしムッと拗ねたように顔を膨らませたがすぐに元に戻してしまった。心の中で子供だななんて思ってしまう。
「それで、さっきなんて?」
「・・・えっと、そのぉ、なんて言うかあんたの名前知りたいな?なんて?・・・いや、嫌ならいいんだよ。無理に教えろなんて言ってないし。この私があんたのことを知りたいって言ってんだから早くおしえなさいよ!!!!」
「なんか、最初と態度変わってないっ!?」
アリスは顔を耳まで赤く染め上げ下を向きもじもじし始めた・・・。脚と脚の間に手を挟み左右に揺れていると思ったら顔に手をおいやり顔を隠し始めて、指の間からこちらをちらちら見てくる。
その見た目があまりにも幼く見えてしまいつい口元がゆるんでしまう。
「あんた、今笑ったでしょ!何よ!女子から男子の名前を聞くのはいけないっていうの?いいじゃない!そんなこと・・・私だって気になった人の・・・・」
後半は上手く聞きとることはできなかったが、アリスの中では女の子から名を訊ねるのはご法度らしい、どこまで純粋なのか計り知れない・・・・。
「ごめんごめん、怒らないで。ちゃんと自己紹介はするから」
そういうと機嫌を直したのかぱぁっと顔を明るくした。こういうところを見るとやはり子供だなと思ってしまう。
「こほん・・・僕は日暮楸。好きなように名前は呼んでくれればいいよ。あとは、この春から特待生としてこの学園に来ることになった転入生かな?」
「かなってなによ、かなって。でも、特待生で転入かぁ・・・ひさ・・・日暮...は特待ってことはかなりつよいんじゃ・・・でも、さっき自分は弱いって・・・もう、なんでそんなことを謙遜するのよ・・・特待生入学は最低でも学園序列20位の能力値が無いと入れないって聞いたけど・・・」
「そうなんだ。特待生入学ってそんない凄いんだ、初めて知ったよ。」
まぁ、外の世界では負けなしだったからいろんな異名を付けられたっけ?その実力がここでも通用するかは分からないが・・・
「あんたはほんと何も知らないでここに来たのね。笑っちゃうわ」
アリスが謎の笑いの世界に誘われたのとほぼ同時に列車はセンターターミナルに到着した。
『皆さんこんにちはAIシステムのサキです。学園都市センターターミナルに到着しました。皆さんようこそ学園都市へ!』
急に奇抜なミュージックと共にサキのアナウンスが入ったが、そのミュージックがあまりに奇抜で軽快だったため車内は笑いの渦に巻き込まれた。さらには普段は単調な喋りのサキが今日はいくらか楽しそうにアナウンスしていた。
「じゃ、アリスまたどこかで会えたら声かけてね。今日はほんとありがと楽しかったよ。それじゃ」
僕は今度こそ連絡を取らなくてはいけない人物に連絡をしに行かなければいけなかった。
実をいうと列車が動き出したときから生徒証に何件ものメールと着信が来ていて僕の内ポケットで永遠とバイブし続けていた。
アリスは突如の別れのあいさつに驚き今まで続いていた笑いがスッと止まってこっちを見つめていた。もちろんアリスに感謝をしているが、これ以上あの子を待たせると今度は僕の身に危機が・・・生命の危機が生じてしまう。
アリスには申し訳ないが一旦身を引かせてもらう。
またどこかで、とは言ったがアリスが来ていた制服は聖蘭学園のものだ。ここで別れたとしてもまた会うことにはなるだろう。
しかし、アリスはどこか泣きそうな目でこちらを見る・・・が、今は一緒にはいられない。と、僕は名案を思いつきポケットからハンカチを取り出す。
「なら、これ。このハンカチをアリスに預ける。だから、それを返しに来て。でも、強制ではないから無理に探さなくても大丈夫だから」
そう言いハンカチを手渡す。そして内心、決まったとか慢心しながらその場を後にする。
去り際、アリスの表情を見ていないから分からないが、万が一にもドン引かれてしまっていたらと思うと心が痛む。
情けない気持ちを背中にずっしりと背負いながら約10年ぶりとなる学園都市に再度、足を踏み入れようとする。
第三章突入です。と言っても進展なかなかしないのが私の作品の悪いところですね。ごめんなさい。気をつけます
では、感想・評価待ってます。