2nd Impression
僕を呼ぶ声がする...。
その声がする方に顔を向けると、隣に座っていた先客が物珍しそうにこちらを伺っている。
「えっ、なんですか?」
僕がそう問いかけると豆鉄砲でも食らったかのように目を丸くしあたふたしている。その姿を見て、今の今まで気付かなかったが、隣に座っていたのは可愛らしい女の子だった。女の子と言っても僕と歳もあまり変わらなそうだ。どちらかと言うと美しいという言葉が似合っている。すらっと伸びた脚や腕が彼女をそう見せているのだと思った。
しかしながら、彼女は豆鉄砲を1発ではなく10発ほど食らってしまったらしい。顔を赤らめ、あたふたもじもじしている。時折「ふぇ...」などと声を漏らしている。
だが、僕は他人とかかわる気はなかった。彼女をこうして隣で見ているのもきっと退屈はしないんだろうがこれ以上関わりを持つ気はない。そう思い僕はトイレに立つことにし席を離れようとした。
だが......。
「ちょっと待って・・・」と彼女は僕を呼びとめた。そして続けて、
「それ・・・その耳に付けてあるやつ。あの・・・それは一体?」
彼女が物珍しそうにこちらを伺っていたのは、この音楽プレイヤーのことらしい。自分でも年代物だと思っていたがすでに知らない人がいるとは思わなかった。どこかのお姫様なのだろうか?
僕は聞こえないふりをして席を立つ。
それに、少しばかり連絡を取りたい人物がいたから調度良かった。だから、彼女には構っていられない。
「ちょっと!ちょっと待ってよっ!待ってってばっ!そこのあなた、待ちなさいよっ!」
大声をだして呼び止める彼女に乗客たちの視線が一斉に集まる。ここで振り向いたら無視していたことが明白になってしまう。席で待っていればどちらせよ僕は戻ってくるのにどうしてこんなにしつこく追ってくるのか・・・。どれだけ、このプレイヤーが気になるんだよ。
溜息をつきながらも僕は歩く。彼女は追ってくる。乗客はクスクス笑っている。何とも恥ずかしい・・・いち早くこの場からいったん身を引きたかった。そのせいか、少し早足になってしまう。
『あらあら、楸君。無視するのはいかがなものかしら?』
と急に見知らぬ声が聞こえた。周りを見渡しても今の呼びかけに誰も反応していない。だが、さすがに今の声が聞こえていたら周りも何かしらの反応を表すのは必然だ。
『意地悪はほどほどにしてあげてね?では、楸君また後ほど会いましょう』
え・・・。これは確実に僕に向けて発せられている。再度周りを伺ってもやはり聞こえていないようだ。
「あなた、待ちなさいっていってるでしょ!この、私が呼んでるって言うのに・・・」
思考を巡らせようとしたが、彼女によって寸断されてしまった。
先の謎の人物からの呼びかけによって脚が止まっていたらしく彼女に追いつかれてしまったらしい。
しかたない・・・。
「それでなんですか?」
「なんですかって・・・やっぱりきこえてたんじゃないっ!それに、私が話しかけてるって言うのになんで無視するのよ!」
「無視なんてしてませんよ?少しばかりこのプレイヤーの音が大きくて聞こえなかっただけで」
「電源」
「え?なんて・・・」
「電源ついてないわよ」
彼女にそう言われプレイヤーの液晶を見てみると彼女の言うように何もうつっていなかった。それに、どこのボタンを押しても反応しない、動く気配すらない。
あぁ、電源が落ちてる。
「そういうこともあるよね!うん、あるある」
「あるわけないわよっ!」
笑うしかない。笑って誤魔化すしかない。運がいいことに学園都市のセンターターミナルまで残り10分程度だろう。適当にながしていればきっとうまくいくだろう。
・・・きっと。
と次の瞬間。
キィィィィィィィィィィ...
突然の急停止に車内は一気に混乱状態に陥ってしまった。
「えっ?なになに?」
「キャーーーー!!!!!」
「なんなんだよ!」
「事故か?」
「おいおいしっかりしてくれよ・・・」
乗客たちは一斉に喚きだし、車内の混乱状態はすぐにピークに達してしまった。