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突発的短編集

アストロ・レポート

作者: 葱間涼

※特にヤマなしです。オチも無理矢理感満載です。それでもよければよろしく頼みます。

―太陽よりも北極星よりも金星よりも。月の方が貴方の近くに居られるわ―


時計の針がてっぺんを越えた深夜ともなると、街に人影は見当たらない。当たり前のことなのだが、何処か寂しく感じる。

「うー、ちょいと肌寒い……」

幾ら真夏とはいえ、真夜中は流石に涼しく、半袖で出てきたことを後悔する。ちょっと身震いをしながら、待ち合わせの場所へと向かうと、人影が一つ二つ。慌てて駆けていく。

「遅いぞ。お前が最後でどうするんだ、言い出しっぺ」

不機嫌全開と言った声色でそういう長身の男。暗いから顔は良く見えないが多分めっちゃ睨んでる。

「まぁまぁ部長、折角のイケメンが台無……すいませんでした、部長。これ探すのに手間取ってて遅れました」

不機嫌そうにこちらを睨んでいるであろう我らが天文部部長に、担いでいた望遠鏡を手渡す。すると、部長は溜息をつきながらも、望遠鏡を受け取る。そのまま、嬉々としてあちこちを触っているとこをみると、俺のことを許した、というよりそこまで怒ってなかったのだろう。こちらも、溜息を吐く。これは安堵から来るものだが。

「んー?それにしても珍しいねー、ゆーくんがそれ、誰かに触らせるなんてー」

そう言って俺の顔を覗き込むのは俺の幼馴染である。正直ドキリとする程の美少女なので、突然顔を覗き込むのはやめてほしいのだが。

「うぉ?あ、あぁ……まぁ、部長なら大切に扱ってくれるだろうし、お前も、あれが俺の宝物だと知ってるだろうから任せられるし、皆も無茶はしないっしょ……その皆はいないようだけどな」

妙に間延びした喋り方の幼馴染、百合香に答えながら、辺りを見渡すが…部長と俺、そして百合香以外の人影は見当たらなかった。後の皆はどうしたのか…

「あぁ、そういえば、今日くるのは、ここにいる三人だけだぞ浅倉。折角の天体観測会だというのにな……全くうちの部員はどうなってるのか……」

あぁ成程、道理でいないわけで。どうせ皆、夜起きるのがメンドイとかそんな理由だろうな。そりゃ、俺だって、言い出しっぺじゃなけりゃ、参加するのは躊躇うわな。

「それにしても浅倉、無気力無干渉のお前さんが、突然星を見に行こうだなんて……」

そういって部長は、ツカツカと俺の方へ来て、顔を耳に寄せると

「もしかしなくとも百合姫のためか?」

と、一言囁いた。無言で頷くと、部長は満足げに頷き、俺から離れた。何故かは知らんが百合香も頷いていた。多分、唯のノリだろう。理解されていたら怖い。

それにしても…部長にはお見通しらしいな、この天体観測会の目的。この会はもしかしなくとも百合香の為のものである。元はといえば百合香が、皆で星がみたいな、と呟いてたことから始まったわけだが、なんとも引っ込み思案なこの子は、中々それを提案できぬまま。気づけばもう夏も中盤折り返しに差し掛かっていた。このままでは夏はあっという間に過ぎてしまいそうだ。別に夏でないと、星が見れないわけではないが、この様子じゃ、冬になったところで言い出せないままに終わりそうだったし、それに…それでは、部長は居なくなってしまうだろう。だから、百合香に代わって、俺が提案することにしたのだった…その結果、殆どのやつが来なかったが、まぁ部長が来てるから…大丈夫だろう。

「………はぁ」

「んー?どしたのゆーくん?」

「ん?どうかしたのか浅倉?」

思わず溜息を吐くと、速攻で心配された。何でもない、という意を込めて手をヒラヒラとさせると、部長は頷いた。百合香も頷いていた。これもノリだろう。いや、ノリなわけないか。な?百合香?

「……?」

内心で百合香に問いかけるも、当の本人は不思議そうに首をかしげるだけであった。あ、これ絶対解ってないな。

「さて…それじゃ、行きますか!」

部長が、望遠鏡を担ぎ上げて叫んだ。時間帯を考えて欲しかったが、そんな小煩いことは野暮だろう。ここはやはり、

「「おーー!!」」

…百合香と被ったが、これで返すのが一番だろう。



山の空気は、街に比べて更に冷えていて、やっぱり半袖はアホな選択だったか…と、他の二人の長袖を見ながら考えた。くそ、百合香はまだしも部長まで長袖だなんて……

「ところで浅倉や、お前傘はどうした」

「え?今日は雨が降らないらしい、って聞いたんですけど…」

「えー、ゆーくん持ってないのー?」

「今日、というか朝方、降るらしいぞ?」

「マジですか…」

 あのラジオ…雨降らないって言ってたじゃないか……騙された気分だ。

「まぁまぁ、いいじゃないか。雨が降ったら、百合姫に入れてもらえば」

「ゑ」

「んー、まぁー、それでもいい、かな?でも、部長さんが入れた方が大きさ的にいいんじゃないですかー?」

「俺は家の方向が違うからな。まぁ、そういう話は雨が降ってからでいいとして……ほら、着いたぞ」

後回しですか…と言おうとした俺の前に現れたのは、一つのロッジである。予想してたよりも遥かに大きなそれは、部長が今日のためにと借りてくれたものだ。

「……こんな大きいの、よく見つかりましたね」

「ん?あぁ、これは俺の伯父のだ。使ってないからどうぞ、って快く貸してくれたよ」

「部長さんの伯父さんに感謝ですねー」

「そうだな……」

「んー、多分感謝されるほどのことでもないとか考えてそうだけどな。ま、取り敢えず荷物置こうか」

 そういって、部長を先頭に、勇者一行のようにして中に入って荷物を置く…中も立派なものだった…


荷物を適当に置くと、望遠鏡を持って星見の場所へと向かう。この山には、無駄に開けた場所があり星が綺麗に見れる、というのは天文部員でなくてもこの町の人なら知っていることだ。

「んー……」

またまた勇者一行のモノマネをしていると、不意に部長が呻いた。そのまま、望遠鏡を睨みつけている。どうしたというのか

「どうかしましたか?部長」

「ん?あぁ……望遠鏡、持ってくる意味あったのかな?ってな……」

そういって部長は空を見上げた。つられて俺も空を見上げる、と部長が言いたいことも何となく理解できた。


一面に、敷きつめられた様な星の海が広がっていた。


「あー……望遠鏡でミクロに見るのは勿体無いですね、これじゃ……」

「だろ?まぁ、天文部らしく、星を詳しく見るか…」

そう言っているうちに、星見の場所についていたのか、部長は小走りで望遠鏡を設置しにいった。俺は置いていかれたような気がして、後ろに意識をずらす。と、百合香は満点とも言える満天の星空に見蕩れているようだった。

「……………………………」

恥ずかしい話だが、俺はその姿に見蕩れてしまっていた。かけようとしていた声も、忘れてしまうくらいには。

「おーい、浅倉、百合姫ー。望遠鏡設置したぞー?」

「あ、はーい!」

「……ありがとうございます」

 きっと、部長が声を掛けてくれなければ、この瞬間は止まったままだったろう。そう思えるほど、時が止まったように感じれた瞬間だった……



「部長ー、あの星は、なんですかー?」

「ん?あれか?あれはな……」

望遠鏡を覗く百合香と、その横で星の名前とか色々教える珍しく部長らしい部長。そして、それを傍から眺めている俺。第一回天体観測会は、とても穏やかな空気が流れていた…

「……と、すいません、少し席外します」

「んー?どしたのゆーくん?」

「ん?まぁ、ちょっとお花を……」

「なんだお前は……乙女か?ロッジにトイレがあるから。ほい、鍵」

「あー、そゆこと。気を付けてねー」

「あはは……じゃ、行ってきます……」

そうして、その場から離れる…本当はトイレに行きたかった訳では無いのだけれど。ただ、あの場に居たら、百合香の為にはならない気がして。建前として、部長の話に乗っかっただけなんだけど。きっと、それは部長も分かってはいたと思う…

「…と、なんかホントに行きたくなってきたな…」


という訳で一旦カット。見せもんじゃねぇぜ、こんなもの。


…と、結局ロッジまで戻ってトイレに行った俺は、そのまま部長たちの所へは戻らず、そこら辺の茂みに身を隠していた。何のためか?今戻ってしまったら、今回の計画の意味がないからである。今戻ってしまえば、百合香はこの先、部長とは二人きりにはなれないだろうから…

「浅倉、遅いな……」

「そうですね……」

「……」

「……」

と、折角気を使って二人きりにしてあげているのに、ずっとあの調子なのだが……何時まであのままでいるつもりなのだろうか。

「……お」

いつまで経っても黙り込んだままの二人にやきもきしてると、百合香が突然手をにぎにぎとし始めた…覚悟を決める時のアイツの癖だ。不安を握りつぶしているらしい。

「……ぶぶぶ、部長さん!」

「どうした落ち着け」

「は、はい……部長さん、お話があります」

「……どうぞ」

部長が促すと、百合香はおもむろに立ち上がった。きっと落ち着いていられないのだろう……俺も立ち上がりたい。

「その、ですね……部長、私部長のことが……その…す、き、で…た…」

少し遠いからかよく聞こえない。

「………………」

「それで…その……いますか、その…」

オレノミミニハ入ラナイ。

「…………ごめん」

……

「……へ?」

「ごめん、百合姫が俺の事好き、って言ってくれたのは嬉しいけど…俺はそれに応えてやれない」

俺は何も知らない。

「え、あ……他に好きな人、居るんですね……?」

「うん……俺は他に好きな人がいる……それに、百合姫も……」

「……」

「いや、何でもない。とにかく……ごめん、俺は姫とは付き合えないです…でも、好きって言ってくれてありがとう」

「あ……はい……私ゆーくん探してきますね?」

「いや、俺が行くよ……姫はここにいて。その方が安全だからさ」

「あ、はい……」

…そういって部長はどこかへ行ってしまった。俺には理解が出来なかった。何で…何で、

「何で、お前はそれでも笑っていられるんだ…?」

百合香は、悲しそうな顔をせず、何時ものように、いやそれ以上に笑っていた。何か憑き物が落ちたような顔をしていた。俺にはそれが理解出来なかった。

「同感だ。どうして姫は俺に笑顔を向けたのだろうか…」

「え、は、な…部長?」

振り返るとそこには、さも当たり前のように部長が居た…気付いていたのか、最初から。

「よ。まぁとりあえず。そういうことだから、安心していいぞ、浅倉。俺は百合姫とは付き合わない」

「何を言ってるのか分かりませんが……何でです?」

「ん?」

「何で百合香じゃダメなんですか?」

「いや俺は百合姫は嫌いじゃないんだが……」

「……ねぇちゃんですか?」

「……ま、そうなるかな。俺には真朝(マアサ)先輩が居るから……まだフリーだよな?」

「……フリーじゃないですかね?多分」

彼氏が出来たなんて聞かないからフリーなんだろう。大体本と話していた方が楽しい、だなんて言う人間に色恋がどうのなんて務まるとは思えない。

まぁ部長は、ずっとそんな俺のねぇちゃんを想い続けていて、告白に告白を重ねていた訳だが。ねぇちゃんはずっとそれを断り続けているわけで。もう三年になると思う。この人達の関係は。それでも。


それでもまだこの人はまだねぇちゃんのことを想い続けているらしい。


「あぁ。俺もまだ浅倉先輩を想い続けているだなんて、ちょっとどうかと思うよ……それで姫を傷つけてしまうことも分かってた。最悪、泣かせてしまうだろうとも思ってたんだ……でも、百合姫は……」

「………………」

「なんにも言わないで、笑ったんだ、何時ものように。そして、今だって一人きりなのに泣かないでいる……何でなんだろうな」

「……分かりませんよ、俺には」


「そうか。まぁ、取り敢えず、早く戻ってやった方がいい」

「……わかりましたよ」

「うむ。じゃ、行くか」

そういって部長は立ち上がる。俺も一緒に立ち上がる。すると部長は俺に

「……俺は百合姫より、そうやって止まったまま逃げてるお前の方が分からないよ。ホントは全て気付いているんじゃあないのか?」

とだけ言って、行ってしまった。俺は……何も言えなかった。


その後も百合香は常に笑顔だった。



その後は普通に天体観測会を行った。夏の大三角形を見つけたり、流れ星に願い事をしたり。部長と俺は「金、金、金」と叫んでいた。定番だ。百合香は真剣に何かを祈っているようだった…いや、舟をこいでる所を見ると眠かったのかもしれない。


その後、1時間くらいして、天体観測会はおしまいとなり、取り敢えずロッジに戻ることになった。このまま家に帰ってもいいのだが、深夜徘徊だので、この時間帯はお巡りさんが活発に活動しているので、取り敢えずロッジに泊まっていくことになっていた。実際、集まる時ですら、何度かお巡りさんに見つかりかけていた。

そうして、ロッジに泊まって、と言ってもたった何時間かのことだが、取り敢えず、今は朝の五時。外は見事に雨だった…

「さて……もう帰らなきゃいけない訳だが……雨だな。うん。浅倉よ、傘はどうした」

「おや、なんと、何処かへ消えてしまったようです部長。なので、その傘をください」

「やらん。お前は姫のにでも入れてもらえば良いだろう」

「む……百合香よ、それでもよいか?」

「んー……いーよー……」

朝からテンションの高い男性陣二人とテンションの極低い紅一点は、山から降りて、街の入口にいた。山を降りている時にはそこまで気にならなかった雨も、今では少しずつ勢いづいてきていた。

「うむ、それじゃ、二人は相合傘なんて羨ましい(笑)イベントで帰るように。俺は家があっちだから、ここでお別れだ。じゃなー」

「あ、それじゃ、お疲れ様でした」

「お疲れ様でしたー……」

「………」

「………ふぁぁぁ…」

「……んじゃ、帰るか」

「ん。そだねぇ……」

そういって百合香は、お気に入りの空色の傘を広げた。少し大きめのそれは俺がサイズを考えずに買ってしまったものを百合香に横流ししてしまったからだ。つまりは元は俺の傘だったわけで、その傘に俺が入るのはおかしなことじゃない。断じて。決死て(誤字)。

「ん~……やっぱり二人だとちょっと狭いね~」

「お、おう……やっぱり、俺傘いいy」

「だめだよー。濡れちゃうじゃない、それじゃ。ゆーくんが出るなら、代わりに私が出る」

そういって傘を俺に押し付けてくる百合香。こうなると俺が折れない限り折れることはない。流石に、濡れられても困るのでここはこちらが折れなければならない。駄々こねて傘の骨が折れてしまっては目も当てられないし。

「分かった、わかったよ。俺も入るから。百合香もほら傘さして……」

そういって傘を押し返すと、百合香はしばらく、本当?みたいな目でこちらを見つめた後、ひとつ頷いて、再び傘をさす。一つ安心。ただしこれで退路は失われてしまったわけだが。

俺は意を決して傘に入る。百合香がさすと大きな傘とはいえ、二人ではとても狭く、肩がはみ出してしまう。それでも濡れないよう濡れないよう動くと、当然、お互いに密着する形になるわけで。百合香は特に気にしてはいないようだが、こちらからすれば心臓バクバクで、思わず離れるように動いてしまう。

すると、百合香は

「む……ほら、ちゃんと入って。濡れちゃったら意味ないでしょ」

と言って、動いてくるものだから、結局俺は逃げられないわけで。観念して、大人しくしているしかなくなってしまった……。

しばし無言の時間が流れる。

俺は、緊張で頭が真っ白だし、百合香は百合香で眠そうなわけで、一言も喋らない。そりゃ、徹夜をすれば当然眠くもなるわけで。だから俺は百合香がふらふらと電柱などにぶつかってしまわないように誘導するように動くことを心がける。そうでもしないと、彼女はどこかへ飛んでいってしまいそうだし、何より緊張に押しつぶされてしまいそうだった。


そんなふうにして歩いていると、突然百合香が、


「ん~……星綺麗だったねぇ……」

と、そんなことを言い出した。おそらく、目が覚めてきて、静かな空気に耐えられなくなったのだろう。

「そ、そうだな」

何とか、言葉を発する。不自然に言葉が詰まってしまったが、百合香は何とも思っていないようだ。

「あんなに綺麗な星空、久しぶりに見たよね、ゆーくん」

「ん?うん」

久しぶりに見た…記憶が俺にはないが同意を求められたので取りあえず頷いておく。と、そんな考えを見透かしたのか百合香は、

「んー?ゆーくん覚えてないの?小っちゃいころ、お父さんとおじさんに連れられて、見に行ったよね?」

「え、そんなこと……あった、かも……?」

記憶に、それらしきものなら一つあった。でもぼんやりとしてしまっていて、よく見えない。

「えー、忘れちゃったの?あの時もゆーくんが星を見に行こうって言ったのに」

「んー……ごめん。ぼんやりとなら覚えてるんだが……」

「むー……そういえばあの時も帰るときにこうして二人で傘さして帰ったよね。あの時は私が傘を壊しちゃったんだけど……」

「ん……それなら覚えてるかも」

頭の中に、今と同じ空色の傘を持った百合香を見つける。ただ、その傘はこの傘より小さく、その百合香は涙を流していた。その手の傘は骨が折れていた。

「ほんとうに?」

「うん。木に引っかけたんだよな?」

「そうそう……って、なんかそこだけ覚えてるのってちょっと…」

「……なんだよ」

「いや……私の泣き顔だけ覚えてるなんて……ゆーくん、そういう趣味なのかなーって」

そういって百合香は少し身を引いた。どういう趣味かは分かりたくないが、とりあえず不名誉なのはわかった。

「な……そんなわけないだろ」

「だよね……そんなだったら私、ちょっと引いちゃってたよ……」

そういって安堵のため息。

「おい」

人のことを何だと思っているのか…。

百合香をジトーっと睨む。すると百合香は笑って、

「大丈夫冗談だよ。それにしても……良かった良かった」

と頷いた。何が良いというのか…

「まったく……で?なにがよかったんだ?」

問いかける、と、意地の悪そうな笑みを浮かべて、

「いやぁ、ゆーくん。すっかり緊張もとれたようで」

と、そういった。思わず固まる。

「…ばれてたのね…」

「ゆーくん、最初、がちがちに固い動きしてたんだよ?バレバレだよ」

「………」なさけない…

「まったく……これが……彼じ知らない女の人とかなら分かるけど……私相手に緊張してどうするの。初めてって訳じゃないのに」

「………」お前相手だからだ、とは言えない、絶対…

「まぁ……取りあえず緊張は解けたみたいだしよかったよかった。それにほら、雨も上がってきたし」

そういって百合香は空を指す。すると確かに雲が晴れて、傘と違わぬ晴れ空の色になっていた。

朝焼けに染まり始めたその空を見ていると、何でか急かされた気分になった。視界の端の虹が背中を押してくれている気がした。

「家ももう近いしね」

そう言って百合香は傘を閉じた。その場でクルクルと回る。

確かに家はもう目の前に迫っていた。

「それじゃ、ゆーくん。あったかくして寝るんじゃぞ?」

いや、夏だから!とは突っ込めなかった。

「百合香」

代わりに思ってもみない声が出た。あぁ。

「どうしてお前は笑っているんだ?」

言ってしまった。勢いで進みすぎた。

百合香は目を見開いた。あまり見ない顔だった。

「……知ってたの?」

「知ってた」

そう返すと、百合香は信じられない、とでも言いたげな顔をした。当たり前だ。

「なんで?」

きっとこれは。何で《そんなことをしたのか》だろう。

「気になって仕方がなかったからだ」

正直に答える。でも、真実を全部告げたわけではない。

百合香は……なぜそこで顔を赤くするんだ。

「なななんで?なんで気になるの?の?」

……。

「あまりにお前が辛そうだったからだ」

「………」

「だからあの天体観測会を開いた。機会を与えるために。部員が来ないのも当たり前だ。俺がそうしたんだ」

「それじゃ答えじゃないでしょ」

「そうだな。言ってしまえばそうだな、会を開いた手前、結果が気になってしまった、というべきかな」

嘘をついた。でも、これは真実だ。

嘘が真実を飲み込むことは多々あることだ。

「それ、本気で言ってるんだよね?」

百合香は訝しげに俺に問う。

今すぐにでも真実をぶちまけたかった。でも、できない。

失恋直後の奴に告白など。俺にはできない。

「本気もなにも。あた、当たり前だろ」

「……ふーん。じゃあいいか」

百合香はうゆうゆと頷いて頷いて俺を見る。

何がいいのか。全く見当もつかない。

「ゆーくんはさ。私が部長に振られて、それでも笑ってるのが不思議なんだよね?」

百合香は急にそんなことを問うた。

「そうだな。なぜなんだ?」

俺が返すと、百合香は一瞬躊躇ったように言葉を詰まらせたが、一つ頷くと、

「ゆーくん知ってる?失恋ってね、悲しいだけじゃないんだよ。辛いだけじゃないの」

などと言った。

俺には理解できなかった。

「それはどういう…」

「今のが私の答え。それ以上もそれ以下も。それ以外もないよ」

俺の言葉を遮って早口にそういうと、百合香は自分の家の玄関へと走っていった。

「お、おい」

「ヒントをあげるね!」

途中で振り返った百合香は、大きな声で言う。近所迷惑甚だしい。

「失恋は次の恋の始まりなんだって!」

………

「そして。私は月で……自分の〝恒星〟を見つけたんだよ!」

月。恒星。それが何を意味するのか。考えていられる程俺に冷静は残っていなかった。

「だから私は……じゃね!!また後で!!」

それだけ。それだけ言って百合香は帰っていった。

後には俺一人だけ残される。

静かな街。世界中で独りだけみたいだな、なんて思った。

「……そこは太陽じゃないのか?」

なんて、朝日に問いかけてみた。勿論答えは返ってこない。

でも、何とも知れないが満たされた気分にはなった。

「……俺も帰るか」

夏の朝は寒い。

俺は足早に百合香の家の隣の玄関に入った。

ちょっと、あったかくして寝よう、なんて思った。


案の定、朝からうるせぇと怒られた。ねぇちゃんに。



「部長は知ってたんですか?」

しばらく経って部室。部屋には俺と部長だけだった。

「知ってたって何を?」

地球儀をクルクルと回して遊びながら部長は惚けた。

コイツ……

「しらばっくれないでください」

ジトーっ、と部長を睨む。と、部長は諸手を挙げて、

「おーおー怖い怖い……まぁ、知ってたさ。百合姫がお前のことを好きだったことぐらい」

等と宣った。

やっぱ知ってたんじゃねぇか。

「逆にお前はなぜ気付かなかったんだ。百合姫の告白は聞いていたんだろ?」

「聞いてましたけど…よく聞き取れなかったんですよ」

「ほぉ……まぁ、『好きでした』、なんて言われてみろ?なんでコイツそんな酷いこと言って笑ってられるんだって気にもなるぞ」

「……そういう意味だったんですね、あれ」

「まぁ、そうだな。まさかお前に告白する前に俺に告白してケジメをつけておきたいだなんて……俺としてはいい迷惑だぜ」

部長は冗談めかしてそう言った。

俺は苦笑で返すことにした。

二人で笑い合う。傍から見れば気持ち悪いこと請け合いだった。



そんなわけで。

〝あの日〟家に帰ってから。俺は百合香の言葉の意味が気になって寝るに寝られず、百合香は百合香でぶっちゃけちゃったテンションのせいで寝られず、翌日二人で会ったときは、お互いおかしなテンションになってしまっていた。

そこで百合香から色々ときいた。曰く最初は部長が好きだったこと。でも途中でその気持ちとは違う気持ちに気づいたこと。そしてそれが大切なものだったと悟ったこと。あの日の告白は部長への想いにケジメを付けるためのもので、俺が上手く聞き取れなかった部分を付け足すと見事に全部が過去形であり、部長曰く告白されてる側なのに振られた気分であったということ。そして何より、肝心の〝月〟の意味、〝恒星〟の正体についてだとか。

そんな色々を教えてもらった訳だがその時の話はまた別の話で。このレポートはここらで切ることにする。

最後に〝恒星〟の正体についてだが……


「そういや浅倉、今日は百合姫はどうした?」

「……アイツどこまでも俺の周りについてくるんですよ」

「……それがどうした?」

「だから、それをちょっと注意したら、『もう!ゆーくんなんて嫌い!』って言って……」

「……おう」

「多分今自己嫌悪で引きこもってる筈です」

「……よくわからんが、大丈夫だよな?」

「大丈夫ですよ。なんだかんだ言って俺もあいつも、お互いを嫌いになることはないでしょうから」

「……うぉえ。これだから彼女持ちはちげぇな」

「部長もねぇちゃん諦めればいいのに……」


なんてやりとりで察してくれるとありがたい。


因みにねぇちゃんは未だにフリーです。


勢いだけじゃダメって学びました。

もしもし、よろしければ感想やダメ出しをば。

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