捜索 その5
黒髪のボブカットは弓親とは違いまっすぐと凛としている。サイドは長くて、後ろは短い。
首を隠すような大きな襟の腰までのジャケットを前を開けずきっちりと着ており、ジャケットの下からは細かいひだのミニスカート。スカートから出ている足はタイツで包まれており、足元はごつめのブーツ。
その全身が黒色でできており、その横には彼女の身長と同じくらいあるんじゃないかと思われる細長い鞄。と、それに何やら沢山の紙袋。
スカートから見える足は細長く、腰も細い。顔も綺麗で、正に美少女。
「・・・・・じろじろと何見てるの?私は男に話しかけられるのも嫌いだけれど、見られるのも大嫌いなの。分かったらさっさと目をそらしてドアの前に直立不動で立っていなさい。」
・・・・・性格はあまりよろしくないらしい。
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「改めて紹介するね!こちら鷹ちゃん!いつもお世話になってるんだよー。それに美人さん!」
「は、初めまして。日比野千種です。」
「・・・・・・・ふん。」
しかめ面された。いや、まあさっきまでじろじろ見てしまった俺も悪いんだけども。
俺は椅子を占領されているので、仕方なく鷹さんの言われた通りドアの前に立っている。
一里さんが自分の椅子に座れと促してくれたが、お断りした。一里さんの椅子だし、なんとなく座りづらい。
そんな俺に飲みやすいように一里さんはすこし温めの紅茶を出してくれた。うん、飲みやすい。
隼さんは何がおかしいのかずっと笑いを堪えているようだ。
そういえば、昨日隼さんに「少し注意が必要かもしれません」と言われたな。白亜さんに対してはかなりの注意が必要だったが・・・・。
俺はまたちらりと鷹さんを見る。その視線に直ぐ気付くと、ぎろりと鬼のような形相で睨まれた。
俺はすぐさま視線を外した。怖すぎる。
「うーあんまいじめないであげて鷹ちゃん。さっき千種白亜ちゃんに大ダメージくらったばっかなの。」
「白亜に?あの子も大概ドSよね・・・。まあ、よくやったと褒めてあげたいくらいだけど。」
「仲良くしたげてー。ね?」
「しーがそういうならいいわ。うふふ相変わらず可愛い!あ、今日は新作持ってきたの!」
そういうと鷹さんは紙袋の中から何かを取り出した。
「・・・・・・・・え?」
「ふわー相変わらずすごいね鷹ちゃん!作りが綺麗ー!」
「そう?そう?もうしーに着せるのが楽しみで楽しみで・・・・!スカートはちゃんと全円で広がるように作ってるし、パニエにもボリュームを持たせたの。着たら綺麗なシルエットになる事間違いないわ!」
そう言ってそれ、メイド服を鷹さんは誇らしげに持っていた。
・・・・・メイド服?
そういえば電話でミニだかロングだかの話をしていたが・・・・あれは所長に着せるためのものだったのか。
てゆーか、作った?
俺の顔を見た所長が、その疑問に答えてくれた。
「鷹ちゃんはね、服作るの得意なの。今日着てるのとかも、自分で全部作ってるんだよ!」
「私は自分のスタイルにぴったりの服が好きなの。最近の服はゆるいのやらサイズが合わないのやらが多すぎて・・・だったらもういっそ自分で作ってしまおうと考えた訳。文句あるの?」
再び睨まれたので俺は「いえありません!」と首を振る。
しかし服を作るのが得意とはいえ・・・彼女が着ている服や持っているメイド服はブランドにありそうなくらいちゃんとできている。
この人、デザイナーとかの仕事が向いてるんじゃないだろうか。
「この仕事が終わったら撮影会やりましょうね。メイド服以外にもたくさん作ってるから。ああ早く燕にも着せたい・・・・・。」
「・・・・ええ!?」
鷹さんの言葉に思わず驚きの声が出てしまった。何事かと全員こっちに視線が来る。
いや、だって。
「燕さんが大人しく着てくれるんですか!?」
そう、あの燕さんが。
あんな毒舌で機嫌が悪いと刃物投げてくるような人が、コスプレなんてしてくれるのか!?
「燕は女性は傷つけないもの。」
「だよねー。つっくん何気に優しいからーうふふ。」
「いつもしぶしぶだけど、絶対着てくれるわ。今回は少年っぽいのから少女らしいものまで沢山取り揃えてあるのよ・・・!全部着てもらって写真撮りまくらなくきゃ!」
うふふふふふふと笑う鷹さんの後ろには燃え盛る炎が見えた気がした。
そうか・・・・燕さん女の子には優しいのか。まあ確かに俺だって女の子傷つけるのは無理だしな。
そしてさっきの燕さんの様子を思い出した。鷹さんの名前が出ると途端に嫌そうな顔。
あれはコスプレのことを思いだしてあんな顔したんだな・・・・・。
「質問です。よろしいでしょうか?」
「・・・・・何よ。似非執事。」
急に、それまで笑いをこらえていた隼さんが手を挙げてそう言った。
楽しんでいた鷹さんの温度は一気に下降し、それまで所長に対しては笑顔で話していたが隼さんを見ると一気に険しい顔つきになっていた。
「所長には今回何を着せるおつもりで?」
「・・・・・仕方ないわね、話してあげる。まずメイド服。それからゴスロリに、可愛らしいドレスやワンピース。あとはセーラー服よ。」
「セーラー服・・・?」
そう言った途端隼さんもまた険しい顔つきへと変わった。
「ええそうよ。乙女ゲーム『私立恋恋学園高等部』でヒロインが着ているセーラー服よ!」
「・・・・・納得できませんね、それは。」
「・・・・何ですって?」
「そこはブレザーに決まっているでしょう。そうですね・・・『悪魔の姫と10人の祓魔師』に出てくるブレザーがいいと思いますが。」
「はん!あのアニメは確かに最高だけどしーには絶対セーラー服よ!セーラーに黒のハイソックス!袖はぶかぶかで頭はツインテール!ちょっぴり気弱な後輩設定!部活はバドミントン部!」
「いえいえゲームもとても良かったですけどやはり所長はブレザーでしょう。オーバーニで尚且つローファー。ツインテールではなくハーフツインテール。着崩さずにきっちりと着こなし、真面目だけどちょっと抜けてる幼馴染。部活ではなく図書委員会の方がいい。」
「図書委員会なんて狙い過ぎよ。どうせそこでは眼鏡で普段のギャップ萌え!ってことでしょうけど、最近じゃありきたり。運動中のジャージ姿の方が萌えにきまっているでしょう!半袖短パン、普段は見れない生足!」
「部活で見せる生足もいいですが、生足は普段見れないからこその生足ですよ。普段はオーバーニで隠しており、体育の時間も長いジャージ。二人きりのときにしか見れない生足こそが、本物の生足です。」
・・・・・・どうしようさっぱり会話についていけない。あと生足言い過ぎだろう。
これって、所長に何を着せるかの話だったんじゃないか?なんかどんどん話が飛躍している気がする。
一里さんはケーキ取りに行ったのかいつのまにかいなくなってるし。
話の主役である所長に至っては携帯いじりはじめてるし!
「大体あんたってありきたりなのよ。」
「邪道ばかり走っていたって結局は王道が一番なんですよ。今やツンデレよりもデレデレです。」
「ツンデレに決まってるでしょ。そうね最近はヤンデレとかツンシュンもあるけれど、やはりツンデレ。」
「大体男の娘ってなんなんですかねぇ。俺にはさっぱりです。ショタ萌え属性とかないんで。」
「可愛い子には可愛い恰好をさせるのがセオリーよ。あああんた女装男子とかも嫌いな口ね。男装女子はどうなのよ?」
「俺はどちらも好きではありません。女性は女性の、男性は男性の恰好をなさるのが一番かと。」
「かったい頭ね。」
「王道と仰ってください。」
「・・・・日比野千種。」
「はい!?」
ずっと会話を聞いていたので突然呼ばれて驚いた。
2人の視線がこっちにくる。あれ、何だか嫌な予感がする・・・・・。
「あんたタイツとオーバーニだったらどっち派?」
「・・・・・・・はい?」
「千種さんもオーバーニですよね?あの絶対領域は神をも超える領域。スタイルが良く見えるということで今流行しているらしいですが、あれはオーバーニじゃありません。オーバーニは本物が履いてこそ絶対領域を生み出すのです。」
「すみません本物って何なんですか。」
「タイツでしょ?あの肌を見せない絶対防御。正にイージスの盾!透け感によってほどなく見える肌が心をそそる!あれをびりびり破く事が夢よね!」
「え、え、え?」
「では千種さんは」
「どっちを選ぶの?」
2人の顔がこれでもかというくらい近い。つーか俺を巻き込まないでほしい。
ちらりと所長を見れば何やらにやにや笑っている。くっそ楽しんでやがるあの人。
2人の態度からどちらかを選ばなければいけないらしいが、一体どっちを取ればいいのか。
・・・・・正直に言えばいいのか?
「・・・・・俺は、タイツのが好きです。」
「・・・・・・残念です。」
「ほら見なさい!最近はタイツ萌えが多いのよ!」
いやどっちも別に大差ないんだが、俺はなんとなくタイツの方が好きだったりする。
いや、まあその透け感?
「あんた中々見どころあるわね。気に言ったわ。あんたとはちゃんと話してあげる。光栄に思いなさいよ、私が男と話すなんて燕とあんたくらいなんだから。」
「はあ・・・・。あれ、でも隼さんとは今話してたんじゃ・・・・?」
「あれは特別だよねぇ。鷹ちゃんこうゆう話になるとそういうこと一切関係なくなっちゃうから。」
そう所長が言う。気がつくと、俺の椅子からいつの間にか鷹さんはどいていて、代わりに一里さんが持ってきた別の椅子に座っていた。
俺は空いた席に座るように言われたので座る。座った時、一里さんがケーキを渡してくれた。
「さっき梟さんからもらったのー。喧嘩はそこまでにして、食べよ食べよ!」
「・・・・そうね。私は意見を変える気はないもの。」
「俺もです。」
「ケーキ食べながらでいいから、話すねー。」
ケーキを口に入れる。ちょうどいい甘さだ。
「鷹ちゃんは今回千種と一緒についてもらいます!」
口に入れたケーキを出しそうになった。慌てて飲み込む。
「ど、どういうことです?」
「さっきもいったでしょ?千種の今回の仕事は弓親ちゃんの護衛。でも一人だと心細いから、鷹ちゃんにもついてもらう。そんなわけで、よろしくね鷹ちゃん!」
「ええ。しーの頼みならいくらでも。」
「その間に僕、隼、一里はつっくんの情報を元にクラッカーをまず捕まえる。クラッカーさえ倒しちゃえばとりあえずは安心。問題は染脳師だね。この人は絶対に一人で相手しちゃいけないよ。この人はありとあらゆる手を使って精神を壊してくる。2人一組で行動しましょう。用心棒の方は・・・・何とかなるね。この人が一番簡単かも。そんな訳で、今回はこんな感じかな?みんなくれぐれもけがはしないよーに!」
その言葉に全員が頷く。リミットはあと少し。
「祭ちゃんは絶対に明日皆で助けるよ。」