捜索 その3
「千種はーはじめましてだよね?こちらメイドさんの白亜ちゃんです!」
「初めまして。ここのメイドを努めております白亜と申します。以後お見知りおきを、日比野様。」
「あ、どうも・・・・・。」
丁寧に頭を下げられたので、俺もつられて下げる。
顔をあげて、思わずじっと見てしまう。
白と黒で統一されたロングスカートのメイド服、おかっぱくらいの金髪には、服と同じヘッドドレスがつけられている。淡々とした顔立ちを見るからに、少し外国の血が入っているようだ。目緑色だし。
そしてあまり注目したくはないが、腰元に下げられているのは。
彼女の髪とは反対の色、銀色のレイピアが下げられていた。
「・・・・・・。」
しかも2本ときたもんだ。
うん、わかっている。俺は大体この人たちと関わってきてこの対処を知っている。
知らぬが仏だ。
「主がお待ちです。どうぞ中にお入りください。」
「おっじゃまじゃまー。千種はやくー。」
「はい、」
白亜さんが扉を開けてくれたので、所長について俺も中に足を踏み入れた。
中に入って再び驚く。外も綺麗だったが、中もこれまた豪華で綺麗だ。
お城なんじゃないかってくらい広い玄関(この場合はエントランス、というべきなのか。)、床は全て大理石で作られていた。真中には螺旋階段があり、これまた中にまで噴水があった。
白亜さんの後について、俺と所長も歩き出す。
螺旋階段をあがり、左へ向かう。途中扉をいくつか見た。おそらくお客様用の部屋とか、着替え用の部屋とかあるんだろうな。
そして先頭の歩みが止まったので、つられて止まる。辺りを見渡しながら歩いていたから気がつかなかったのか、いつのまにか一番角の部屋の扉の前へとついていた。
白亜さんが3回ノックすると、中から「どうぞ」と声がした。
「お二方、どうぞ。」
再び白亜さんに扉を開けてもらい、中に入る。
中も勿論広かった。白を基調としているのか、壁紙、家具から白ばかりだった。
部屋の真ん中にはテーブルとソファ。そして人影。
「梟さん、お久しぶり。」
「久しぶり、めーちゃん。元気そうで何よりだ。お友達も一緒かい?」
「うん、連れてきたよー期待のルーキー!」
「そうかい。日比野千種君、だね。初めまして。梟という者だ。めーちゃんがお世話になってるね。」
「あ、はじめ、まして。日比野千種です。」
手を出されたので、握手をする。俺は正面から人影、梟さんを見た。
柔らかそうな薄緑色の髪は、風によってふわふわと揺れている。そして目には、包帯が巻かれていた。
さらに下を見る。彼の腰から下は、ブランケットによって見えなかった。だが、その見えない理由が俺にはすぐにわかった。
彼は車イスにのっていた。そんじょそこらのものではなく、かなり高級そうな車イスだ。
肘かけには様々なボタンや、彼の膝の上にリモコンがのっていることから機能にも優れていることがわかる。
この人、目も見えなくて、足も悪いのか。
「御覧の通り目と足が不自由でね。ああ、全然気にしてくれなくていい。わたしはもう長い事この生活だからね。しかし目だけは見えたらと思うよ。せっかくの君の顔が見れないからね。」
「は、あ・・・・。」
「ああすまない。困らせてしまったね。まあ目は見えないが、なんとなくわかるよ。君はとても優しい子だ。口調、態度、空気感でわかる。これでも人柄を見る目はあるんだ。」
「千種はいい子だよー。なんたって真面目ぼーいなのだからさ!」
「うん、知ってる。めーちゃんの話を聞いてて、ぜひ会いたいと思っていたんだ。今日はとても嬉しい。」
「あ、ありがとうございます。」
優しいと言われたが、この人の方が優しいことはすぐに分かる。
穏やかな口調と、あたたかい雰囲気。大人の余裕というやつだろうか。理想の大人ってこんな感じな気がする。
「さて、では話をしようか。2人とも座って。」
言われ、俺と所長は白いソファに腰掛けた。かなりの弾力、これはいいというか高いソファだ。
テーブルに白亜さんが持ってきてくれたコーヒーが置かれた。ちなみに所長にはカフェオレ。
「お砂糖、ミルクなどはご自由にどうぞ。石投様は、カフェオレに砂糖を6つ程追加させて頂きました。」
「ありがとー。やっぱコーヒーは甘くないとねー。」
「相変わらずの甘党だね。それで紅茶はストレートのみなんだから、変わってる。」
「紅茶に何かを入れるのは紅茶に対する侮辱だよ。大体僕はミルクティーの存在自体嫌いなんだ。紅茶単品ミルク単品は好きだけど、どうしてそれを混ぜ合わせようという発想に至ったのかが分からない。別々の方がぜーったいに美味しいのに!」
「コーヒーはいいんですか、その理論?」
「コーヒーって絶対にミルクと混ぜ合わせるためにできてるよね。」
「理論ぶち壊してんじゃないですか!」
こんな言い争いは置いといて。
ちなみに俺はコーヒーはブラックが基本だが、気分によって変えたりもする。どうでもいいか。
「じゃあ、本題に入ろう。めーちゃんに依頼された通りに、弓親律の周りにはわたしの友達をボディーガードとして置いてるよ。猫を2匹と、鳩を2羽。今のところ危険な目には合っていないよ。」
「え!?」
弓親に、ボディーガード?そんな話は聞いていない。
俺は所長の方へ顔を向ける。
「千種、祭ちゃんがいなくなった理由は何だと思う?」
「へ?いなくなったっていうか・・・多分、さらわれたと俺は思ってますけど。」
「さらわれる理由は?」
「はい?えーっと・・・≪魔女の生贄≫の秘密を知ってしまったから、ですよね?」
「うん。じゃあ問題です。AさんとBさんがいます。2人は大の仲良しです。ある日AさんはクラスメイトのC君が不正取引をしているのを見てしまいました。それに気がついたCさんはAさんを連れ去ります。さて、残ったBさんは千種だったらどうする?」
「そうですね・・・・もしかしたらBさんも何か知ってるんじゃないかって・・・・・あ!」
そうか、そういうことか。
「弓親も、危ないかもしれないってことですね。」
「そ。だから動物のボディーガードをつけた。人だとすぐにわかっちゃうし、下手したらその人ストーカーに間違われかねないしね。だから梟さんにすぐに電話してお願いしたの。ボディーガードしてくれる子を貸して、てね。」
「わたしの友達はそういうのが得意だから。何かあったら彼女を真っ先に守るようにお願いしてあるし、めーちゃんとわたし、それからつっくんの携帯に連絡が入るようにしてある。」
「友達って・・・・猫とか、鳩が、ですか?」
「うん。あれ?知らないのかな?」
「さっきもいったじゃん千種、動物とお話しできる人だよーって。」
「いや、そうなんですけど・・・。」
まさか本当だとは思わなかった。なんて本人を前にして言えない。
それに動物にボディーガードって・・・できるもんなのか?
「めーちゃん、前にも言ったけどわたしも全ての言葉が理解できるわけじゃないよ。」
「えー?」
「昔から耳はよくってね。小さい頃友達もいなかったから、それこそ鳥や犬が話し相手だったから多少の会話ができるくらいさ。犬、猫、鳥くらいしかお話はできないよ。魚とは会話どころか目も合わせられない。」
魚と目を合わせる事は基本不可能に近いような気もするが。
けど、テレパシーって言うのかこういうのは。小さい頃ってお化けが見えたり、不思議な現象が多かったりするもんな。
しかし、すごいな本当。
世の中には予知能力や透視が出来る人がいたりするが、そんなことよりもすごい気がするぞ。
「特に鳥はネットワークが広いからね。つっくんまでとはいかないけど、それなりに情報は集まるさ。それで・・・≪魔女の生贄≫の首謀者の影を見たというこがいた。」
「え!?」
「夜も暗くて見えなかったそうだが、2人組だったらしい。一人が高校生の女の子に何かを話すと、その子はその場で自分の首の頸動脈を切って自殺したそうだよ。」
「自殺・・・・。」
「おそらく一人は染脳師だろうね。」
「せんのうし・・・って?」
「染脳、といえば分かるかな?染める脳と書いて染脳だ。洗脳って元々は悪い言葉ではないからね。染脳が正しい書き方だとわたしは思ってる。言葉巧みに人を操り、その人を自分の駒にする。マインドコントロールとはまた少し違う。染脳は暴力や精神をいじめていじめていじめぬいて追い込んでしまうからね。その高校生の女の子を言葉で追い詰め、自殺に追い込んだんだろう。」
「もう一人はクラッカーってところかな?つっくんが腕のいいクラッカーがいるっていってたし。」
「うん?でももう一人は体の大きな人だったそうだよ。クラッカーと染脳師以外にもう一人いるかもしれない。わたしの中でクラッカーは体の小さな人や細い人のイメージが強いから、そう思えるだけなのかもしれないけれど。」
「あ、そうか。用心棒っていうのもあるか・・・・。」
「ってことは最低でも3人は敵さんがいるってことか。んーまあ少ない方か。クラッカーは今つっくんが調べてくれてるとして・・・残りの2人を僕らで探さなきゃね。」
「そうですね・・・。でも、どうやって?」
「奴らいずれ律ちゃんに接触するよ。それを狙う。」
「!」
「千種もできれば律ちゃんの傍にいてあげて。明日からは普通に大学いっていいから。んで、律ちゃんと同じ授業受けて、一緒に登下校してあげてよ。一応もう一人護衛つけるからさ。」
「もう一人?」
「それは今日会えるから紹介するよ。」
今日会えるってことは・・・所長が昨日電話していた人か。
隼さん曰く「少し注意が必要な相手」だそうだが・・・・一体どんな人だ?
「白亜。コーヒーが無くなってきたから、取りにいってくれないかな?」
「かしこまりました。」
話しながら結構の量を飲んでいたのか、ポットの中身のコーヒーが無くなってしまっていた。
白亜さんは空のポットを持って部屋を出て行こうとした。
「あ、千種もついてって。」
「へ?」
所長にそう言われ、俺は間抜けな返事をしてしまった。
いやだってメイドさんについていって俺はどうしたらいいんだろう。
「・・・・日比野様。お手をお借りしてもよろしいでしょうか。コーヒーと一緒に出すケーキもお持ちしたいのですが、私一人では運べそうにありませんので。」
「あ、そういうことなら・・・。」
「わーいケーキ!んじゃあよろしくね、千種。白亜ちゃんの邪魔しちゃだめだよ。」
「了解です・・・。じゃあ、お願いします白亜さん。」
「では御一緒に。」
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部屋を出て行った白亜さんについていく。
この洋館はかなり広い。特に行きは気をとられて歩いていたので道順を全く覚えていなかった。
白亜さんについていかなければ迷子になりかねない。
というか・・・ケーキって最初に出しておけばよかったんじゃないのか?
結構コーヒーで腹も膨れているので、ケーキが入るか若干心配な点がある。
それとも今さっきケーキが届いたばかりなのだろうか・・・。
俺と白亜さんは無言で歩く。何だろう、ここは何か話した方がいいのだろうか。
「申し訳ありませんが、口を開かないでおいてもらえますか?」
悩んでいた俺にその言葉が降ってきた。冷たく、突き放した声。
俺は辺りを見回す。勿論、俺と白亜さん以外誰もいない。
先程の発言は俺ではない。そうしたら残るのは唯一人だ。
俺の前にいる人は立ち止り、俺の方を向く。
「驚くような発言も控えて下さい。え、もあ、も。言葉を発する事を控えろと言っています。心の中で思う分には一向に構いませんが。」
無表情で、淡々と、白亜さんはそう言った。