後日談 その3
走って走ってやっと事務所に辿り着いたのは、3時半だった。
予定よりもだいぶ遅くなってしまった。おそらくもう撮影会は始まっているのだろう。
・・・・怒られなきゃいいが。
そう思いながら、扉を開ける。
「只今戻りました・・・。」
「あ。おっかえりー千種!」
「しょ・・・・・・・・。」
思わず固まってしまった。
えっと、あれ、これはなんだ?
「所長・・・?」
「うん?どしたのそんな鳩が豆鉄砲くらったよーな顔して。僕の顔になんかついてる?」
「いや顔というか・・・・。」
俺の目に飛び込んできた所長の姿はいつものラフな格好ではなくて、可愛らしいメイド服姿の所長だった。
白と黒で統一されてはいるが白亜さんのとは違い丈は膝までのボリュームたっぷりのスカート、白と黒のボーダータイツ、頭はハーフツインテールにされており、可愛らしいリボンがついていた。
かなり似合っている。白亜さんよりも似合っているんじゃないかといってもいいくらいだ。
「んふふー鷹ちゃん相変わらず綺麗な服作るよねー。僕あんまりスカート履かないけど、鷹ちゃんの作った服なら着たくなっちゃう!」
「はあ・・・。」
「似合ってる?」
「・・・・・かなり。」
「うへへー。」
「しー!こっちこっち早く来て!次はこの箒持って撮りましょう!それともティーポットにする!?ああもう可愛らしすぎて迷っちゃう!!」
そう言っている鷹さんはおそらく数十万はするであろう一眼レフを手に持ち、あの冷静そうな美人はどこいったというくらい興奮しまくっていた。
いつの間にか隼さんもカメラを構えているし(こちらも今一番人気のあるデジカメだ。)、一里さんに至ってはレフ板を持たされている。どうやらアシスタントらしい。
そして俺は、鷹さんの向こう側にいる人物を見て再び絶句する。
「・・・・・・・・・・・え?」
「・・・・・じろじろ見んな死ね十回死ね百回死ね一万回死ね。」
そういう燕さんの姿は、いつもの甚平はどこいったというくらい洋風な格好だった。
フリルのシャツ、赤のリボンに黒のジャケットスーツ、ハーフ丈のスーツズボンに黒ヒールブーツ。外国の王族チックな服だ。というより、この前雑誌で見たゴシック風の、尚且つ王子様衣装。
しかしそれがかなり似合っている。燕さん顔可愛いもんな・・・・。
そんな俺の考えが読めてしまったのか、燕さんは射殺すような視線で俺を睨みつけてきた。
「つっくんそんな顔しちゃだめだよー。せっかく鷹ちゃんが作ってくれたのにー。」
「・・・・誰のせいだと思ってたんだこのすっとこどっこい。お前マジで後で殴らせろよ。」
「女性に暴力を奮うのは良くないと思いますよ、つっくん。おや失礼燕さん。」
「隼てめえわざとだろ。つーかお前が俺の名前を気安く呼ぶなタコ。」
「失礼。つい口が滑りました。」
「・・・・・・・・死ね。」
「ちょっと隼どいてなさいすごく邪魔!ほら2人とも並んで!ああんもう可愛い可愛い!この写真は額縁に入れて観賞用保存用布教用にとっておかないと!」
・・・俺の中での鷹さんのイメージがどんどん崩れていく。この人こんな愉快な人だったのか。
しかし・・・・並んでいる所長と燕さんを見ると、確かに可愛らしかった。
2人とも顔立ちはどちらかといえば可愛い方だし、おまけに童顔。おまけによく似合うというか似合い過ぎているというか。
所長は鷹さんの言うとおりに笑ってポーズをとっている。燕さんは笑いはしないが、ちゃんと指示通りに動いている辺り、なんだかんだ良い人っぽい。
そういえば他にもセーラー服とか着せるって言ってたような・・・。・・・まさか燕さんもなのか?
でも燕さんなら女性物でもさらしと着こなせそうだ。線細いし。
・・・・けど俺だったら所長の髪は三つ編みとかの方がいいかな。スカートだってあれくらいの丈もいいが、いっそ白亜さんのようなロングがいい。そしてやっぱり黒タイツだな。あとセーラー服だったら・・・。
・・・・・あれ?
「・・・おおお!?」
「ええ!?な、何よ急に大声出して!撮影の邪魔しないで!!」
「あ、え、あ!すいません!!」
「それより貴方も協力して!ほらレフ板持って!ぼさぼさしない!」
「はい!!」
鷹さんの指示通り俺は近くにあったレフ板を持って所定の場所に着く。
持ちながら、俺はさっきの考えをもう一度思い出す。俺は、なんて考えた?
俺だったら、とか燕さんの服とか全く考えず、所長の服の事ばかり考えていたよな・・・?
つか、俺何でそんなこと思った?いや別に所長にはセーラー服の時こそツインテールにしてもらってだぼっとしたカーディガンとかもいいなっていやいやいやいやいやいやいやいや!俺どうしたほんと!?
・・・・・まだ疲れ取れてないのか?
ふいに、所長と目が合う。いつものようににこりと笑った。
・・・・・・・・・・・・なんか、胸がおかしいような・・・。
「レフ板ずれてるわよ!!」
「は、はい!!」
気を取り直して、俺はレフ板を持つことに集中することにした。
・・・・とりあえず、あれだ。一応俺はそこまで鈍感なつもりはない。
これはまさかの―――――――――――――まさかかもしれない。
一応次回に続きます。




