戦闘 その1
とあるビルの屋上に彼女、鷹はいた。
手に持っているのはレミントンM700というライフルであり、彼女愛用のものだ。
小さいころからありとあらゆる訓練を受けていたので護衛の仕事も引き受けてはいるが、鷹の本来の仕事は狙撃手である。
先程は予想通り弓親を狙ってきた犯人の乗ったバイクのタイヤを全て撃ち抜いた。思った通りバイクは転倒し、その隙に千種と弓親は走っていく。その後ろを、先程のバイクに乗っていた犯人が追いかける姿が見えた。
「わかりやすいことこの上ないわね。頭悪い・・・。」
その犯人の足元へと照準を合わせる。本来照準を合わせるのにはかなりの時間がかかる。それに彼女が使っているライフルはボルトアクション方式であり、ボルトを操作するために引き金から手を離さなくてはならないし、その際に目標と照準がずれてしまうことが多い。
しかし彼女にとってそれは絶対にありえないことだと言い切れる。何故なら彼女には見えているのだから。見えてしまうのだから。
引き金を引く。発砲音とともに犯人の足元に着弾した。
銃声はこの事故の影響でパトカーや消防車のけたたましい音で消されている。犯人以外は誰も銃声には気づいていなかった。
足元を撃ち抜かれた犯人は辺りを見渡すと、物陰へと隠れる。その隙に鷹はライフルを鞄にしまい、新たな銃を取りだした。
先程のライフルとは違い今度は小さな拳銃である。ひとつ取りだす。
耳を澄ますと、ビルの屋上へ誰かが上がってくる音がした。気配はひとつ。単純だな、と鷹は思った。
勢いよく扉が開けられる。振り向けば、やはりヘルメットをかぶった犯人の姿があった。
「てめえか、邪魔してくれやがって!!」
「・・・・・あんたから出向いてくれて助かったわ。そのヘルメット外したら?どうせもう死ぬんだし。」
「・・・・・いい気になるなよ、おい。」
鷹はヘルメットをよく観察する。派手に装飾されたヘルメットをかぶり、ライダースジャケットと革パン、エンジニアブーツ。距離はさほど離れてはいないが、やはり大柄だった。声から察するに男である。
「≪魔女の生贄≫のボディーガードかしら?ま、あの子を狙ってたんだからそうに決まってるでしょうけど。」
「・・・そうだよ!あの餓鬼さえ殺せば俺達はばれないからな。そう思ってたんだが・・・・お前、誰の差し金だ?」
「言うわけないでしょう。それで、どうするの?」
「どうするって?」
「私と戦って死ぬか、ここから飛び降りて自殺するか、選びなさいよ。どちらを選んでも死ぬけどね。まあいいんじゃない?あんた生きててもどうしようもなさそうだし。」
「って、めえ・・・・・・・!!!!」
その時だった。この場に不釣り合いな明るい音楽が流れ出した。
男は自分の革パンから携帯を取り出すと、高らかに笑いだした。
「ざまあ!俺の仲間からの電話だ!!俺が危なくなるとかかってくるとはいってたが、本当だとはな。覚悟しろよ、お前。今からそんな軽口叩けなくしてやるからよ!」
「・・・・・・とっとと出たら?」
「言われなくても!おい、俺だ!助けてくれよ!すげー生意気な女がいるから、協力し・・・・は?」
あれだけテンションが高まっていた犯人の態度が急に落ちた。鷹は直ぐに察しが付く。
「待て、待てよ。俺達同盟組んでるはずだろ?俺達がピンチになったら強い奴らよんで、倒してくれるって言ってたじゃねえか!おい、ふざけんな!最初から俺らを利用する気だったのかよ!待て、おいま・・・!」
電話が落ちた。最新式のスマートフォンの画面に傷がつく。勿体ない、と鷹は思った。
会話から思うに、裏切られたんだろう。そしてこの男は唯利用されていただけだ。
「・・・・でだよ。俺は、俺は・・・・・!」
「もういいでしょ。」
鷹は銃を構えて、崩れ落ちた男に銃口を向けた。男は慌てて弁解する。
「ま、待てって!頼む、見逃してくれ!もう悪い事はしない!あいつも狙わない!だから、頼むって!!」
「でかい図体の割に弱っちいのね。・・・・そうね、じゃあいい事思いついたわ。」
その場に銃声と男の悲鳴が鳴り響いた。男の足には穴があき、血が湧き出してくる。
その傷口を鷹は思い切り踏みしめる。男の悲鳴がますます響く。
辺りはまだサイレンの音がしている。男の悲鳴は誰にも届かない。
「あ・・・・・ああ・・・・・・。」
「あんたを雇ったのは誰?何の目的でこんな事を?質問に答える度に、風穴増えていくっていうゲーム。面白いでしょ?」
「な、んで・・・!」
「あんたを殺すことは確定事項なのよ。本来直ぐに息の根止めるつもりだったけど、聞きたい事もあるからもう少し延命させてあげる。さ、答えなさいよ。無回答は認めないわよ。正直に答えてくれたら、風穴あけるところを加減してあげるわ。」
「ひ・・・・・!あ、あああ・・・や、雇い主は、クラッカーだよ。」
「そう。クラッカーが。」
再び銃声。今度は肩を撃ち抜く。
「おれ、たちはそいつに協力してほしいって言われただけなんだ。おれは染脳師と一緒に行動してたから、一緒にっていわれて。唯自殺させるだけで金くれるっていうから、だから。」
銃声。左腕。
「そのクラッカーってのはどんな奴?」
「姿なんて、しらねえ・・・声だって、機械まじりでよくわかんねえし、電話でしか会話してくれなかったから・・・ほ、本当だ!嘘じゃねえ!」
銃声。右手。
「・・・・目的は何?そいつの、クラッカーの目的。」
「せ、せかいをこわさないかって・・・・・・。」
銃声。腹部。
「・・・そう、大体わかった。それじゃあもういいわ。」
「ま、って・・・・。」
「ねえ。あんたヘルメットかぶってるでしょ。それに胸の辺りに何かいれてるわね。心臓と脳を撃ち抜かれないためかしら?ならあんた、私以外の相手が相手だったらまだ生きれるんじゃない?」
「え・・・・・。」
「まあ私じゃなければの話だけれど。」
2発の銃声が響く。頭と、心臓だ。
何を詰めていようが何をかぶっていようが、そんなことは鷹には関係ない。
愛用している銃は特別製だ。防弾ガラスさえも突き破れる。
鷹は鞄に銃を詰め込むと、それを持ってビルを後にする。
ワンピースのポケットから携帯を取り出し、電話をかける。
『うあい!鷹ちゃん?』
「ええ。一人排除したわよ。次は?」
『今からメールで場所送るね。んふーさすが鷹ちゃん仕事はやあい!』
「ありがと。そっちは?」
『蛻の空ー。逃げられちった。何か分かった事ある?』
「世界を壊したいそうよ、犯人は。」
『!あー・・・・成程ね。』
「とりあえず、私は次の場所に向かうわ。一応辺りを警戒しておいてよ。」
『うい。じゃあ後でねー!』
電話を切り、次はメールを送る。
死体。××ビル屋上。
これさえ送れば後はあの死体狂が何とか処理してくれるだろう。メールを送り、携帯を再び元の場所に戻した。
死体を跨いで、次の仕事場へと移動する。
「さて。あの子たち、無事ならいいけど。」