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その32 親父の災難

 俺の生活の中に再び飛び込んできたナーちゃんと葵さん、それにドルファちゃんの美女三人。

 ああ、忘れていたが――ついでにバカ一尾。

 もっとも、こいつはほとんど俺の家にはいない。

「このクソイワシ! 外から帰ったら足を拭けと、あれだけ言ってもわからんのか? あァ!?」

 廊下についている見事な足跡を指しながらイワシを罵倒している俺。

 が、アホイワシはそれがどうした、と言わんばかりの態度で

「ですから達郎どの。私はいつも言っているではないですか。姫様の用事でいつもいそがしいのですよ? それをいちいち、足を拭いて上がれなどと……。それはつまり、姫様の御用などしなくてもよいと言うのと同じではないのですか?」

 しゃあしゃあと開き直ってやがる。

 ヤツには、俺の頭上に刻一刻拡大していく「怒」マークがまったく見えないらしい。

 続けて

「そんなに言うなら達郎どの、姫様のためにあなたが床を拭けばよいでしょう。――まったく、レディを労わる気持ちというものがナマコの涙ほどもないこんなムサい男性のどこがいいというのか、姫様ときたらお戯れもそろそろほどほどに……」

「……おい、バカイワシ。これ、何だろうなぁ?」

 俺は背後に隠し持っていたそいつを突き出した。

「にゃ。にゃー……にゃ? にゃーっ! にゃーっ!」

「はッ! そ、それは……!」上から目線でぶーたれていたイワシャールが突如として顔色を変え、じりじりと後退りしていく。

「たっ、達郎どのっ!! そ、それはジョーダン喫煙室! この私がいったい、何をしたと!?」

「お前、玄関のドアを開けっ放しにしていたよな? それでこのコ、入ってきたんだわ。ってゆーかぁ、じごうじとく?」

 ぱっ

 手を離した。

「にゃーっ! ふぎゃーっ!」

「ぎぃいえええぇーっ!! たすけてえぇぇーっ!!」

 近所のネコ・ミーちゃんにエサとしてロックオンされたイワシャールは家から飛び出して行ったまま、戻ってこなかった。

 そう。

 ――貴様にはネコのエサこそふさわしい。



 突然我が家にやってきた三人もの美女。

 これが親父・舟一にとっては災難のタネになった。

「――あー、気持ちよかったぁ! おとーさまぁ、次お風呂どーぞぉ!」

「あ? ああ、そうだ……なっ!?」

 ばりっ

 上がってきたドルファちゃんを一目見るなり、読んでいた新聞を思わず二つに裂いてしまった親父。

「ドルファさんったら! お風呂から上がったら服を着なくちゃいけませんよ? 人間の方の世界では、そういう決まりなのですから」

「あ? あはは、すみませーん! 暑かったから、ついつい……てへっ!」

 すっ飛んできた葵さんに注意されて舌を出したドルファちゃん。

 うーん。

 いきなり若い女の子にナイスバディ全開スッポンポンで出てこられたらねぇ。

 カタめなうちの親父にはキツいよな。

 俺は構わずテレビを観ていたが

「達郎様っ! お父様が大変ですわ!」

 葵さんが慌てている。

「ん?」

 食卓の椅子に仰け反ってぴくぴくと痙攣している親父。

 二つの鼻の穴から、赤い血がたらーっ。

 あー。

 四十五歳にはシゲキが強すぎたか。

 そういや昔、幸子と新婚の頃、幸子のハダカでもやったらしいしな。よくまあ、俺がデキたものだ。

 ――だけではない。

『達郎さまっ! 何をご覧になっていらっしゃいますの?』

『ん? これか? 夏休みになったら、どこか行きたいなぁと思ってさ』

『あの、あのっ、私も達郎さまと……ご一緒させていただいてもよろしいですか?』

『当たり前だろ。ナーちゃんと行こうと思って、さ』

 居間でそんな会話を交わしていた俺とナーちゃん。一緒に旅行雑誌を眺めていた。

 彼女は当然、俺の膝の上。首に腕を回してがっちり抱きついている。会話は額&額。

 すぐそばでは、親父がテレビを観ている。

 が、俺とナーちゃんの密着ぶりが気になって仕方がないらしく、しきりと「えへん」「おほん」咳払いをしてやがる。   

 ええと……席を外した方がいいのか?

 なんて思ったが、ナーちゃんは俺の方しか見ていない。

 さらに熱っぽくくっついてきて

『達郎さまったら……! そんなにも私のことを……』

 ちゅー

 唇と唇を重ねてきた。

 愛情深い人魚のキス。

 一度始めたら気が済むまで止まらない。

『……達郎さま……んっ』

 どんどん情熱的になっていくナーちゃん。

 ところが!

「ぶばっ! げほっ、げほっ! げへっ!」

 湯飲み茶碗と唇を重ねていた親父、吹き出し、かつむせている。

 ナーちゃんはびっくりして

『……まあっ! 達郎さま、お父様が苦しそうになさっていますわ。ご病気でも?』

 ある意味、病気かも知れない。半径三メートル以内の若い女性が苦手症候群。

 まぁ、ほっとこう。

 キスの一つや二つ、今どき珍しくもなんともない。

 そこへ、ばたばたと葵さんが布巾をもってやってきて

「姫様っ。達郎様も、お二人で仲良くするのはよろしいですが、場所をわきまえませんと。お父様の前でそのようになさっては、お父様の心地がよろしくないではありませんか」

『はーい……』

 彼女に諭されると、いつもナーちゃんはしゅんとなる。

 こうしてみると、葵さんだけが立派な常識人のようではある。

 しかし、そんな葵さんにもお色気な仕出かしの一つや二つ、ない訳ではなかった。

 ――三人がやってきてから間もなくのこと。

 幸子が子供がよくやる花火を買ってきた。

 何気なくナーちゃんが花火を見て喜んでいた、という話をしたところ――よりによってこのアホ幸子は、段ボール箱(大きさは中くらいだが、一杯に花火が詰まれば尋常な量ではない)で購入してきやがった。

「みんなでやれば楽しいでしょー? 子供に戻った気分でねー!」

 お前の脳みそは常に子供以下だろうが。

 俺は対して興味を示さなかったが、ナーちゃんはもちろん、ドルファちゃんも喜んだ。

「わーっ! こんなの、海の世界にはないですもんねー。やりたーい!」

 確かに、水中で花火は難しいだろう。

 その昔、両親と共にやったことのある葵さんもにこにこしている。

 てめーの企てに圧倒的な賛同を得た幸子は得意そうに胸を張り

「よーし、じゃあ、ごはん食べたらみんなでやりましょうね!」

 ――ってな感じでその日の夕食後、美女三人と海藤一家は近所の小公園へと出かけた。

 親父を除くみんなは、なんだかんだ言いながら花火を楽しみ始めた。

『わぁ! 達郎さまっ! きれいですね……とっても素敵!』

『まー、こないだの花火とは比べものにはならないけど……』

『いいえ! 達郎さまのお傍で見られるのですもの、小さくても私にはとても美しく見えますわ』

 嬉しそうなナーちゃん。

 そうだな。

 花火のでかい小さいは問題じゃないな。

 好きな人と一緒に見て、一緒に綺麗だと思えることが大事だもんな。

 俺達は勝手に二人の世界に没入していた。

 その背後では。

「……あれ? これ、なんだろう? ちょっとカタチが違うみたい」

 段ボール箱をごそごそとやっていたドルファちゃん、何かを発見したらしい。

「これも、はなび、かな? ちょっと細いみたいだけど……あ、どーかせんがついてる。はなびだ! やってみよー!」

 言い忘れていたが、何せアホ幸子はあり得ない量の花火を仕入れてきている。

 ちゃっちゃと消費するため、俺が何本もまとめてやっているのを見ていたドルファちゃんは、それを真似るようになっていた。数が多いほうが明るくて綺麗だったし。

「……よっ!」

 ローソクの火で点火を試みたドルファちゃん。

 ぷしゅーっ

 導火線に火がついた。

 が、激しい火花が出てこない。

「あれ? これ、ヘンだな……あ!」

 ひゅうぅぅっ! ひゅうんっ! ひゅうぅ!

 そう。

 彼女が手にしていたのは……ロケット花火だった。

 それがいかなるものか知る由もないドルファちゃんは、水平に持っていたのである。

 そしてその先には――少し離れた位置で一人、ぼーっとタバコを吸っている親父の姿が!

 発射されたロケット花火達は、親父目掛けて一直線に飛んでいく。

 しかし幸いなことに、彼の近くにはたまたま葵さんがいた。

「……あぶないっ!」

 さすがは護衛隊長の葵さん。

 危険を察知するや、咄嗟に駆け寄って親父の前で我が身を盾にし、Tシャツの背中をめくった。短パンのウエストのところに、オーシャンイーグルを挟んでいたのだ。

 素早く両腕を背中に回して抜き取るや

 タタタタタタンッタタンッ……

 得意の両腕交差ショットでロケット花火を全て撃ち落して見せた。

「……」

 あまりの凄技に、親父ぼーぜん。

 銃口を空に向けて動きを止めると、葵さんは背後を振り返り

「お父様、もう大丈夫ですよ! お怪我はございませんか?」

 にっこり。

 そこまでは良かった。

 が。

 ――すとん。

 絶妙のタイミングで、葵さんの短パンが脱げてしまった。

 どうやら、オーシャンイーグルを抜いた瞬間にウエストを締めているゴムが切れたらしい。

 しゃがんだ体勢でタバコを吸っていた親父。

 当然、目の前には――葵さんの引き締まった美しいお尻、それに見事な美脚が。

「あらやだ! 私ったら! ……もぉ、恥かしい!」 

 あられもない格好で恥らっている葵さん。Tシャツの裾を引っ張って隠そうとしている姿は、なかなかカワイイものがある。

 しかし、一呼吸ののち

「ぶばっ!」

 その後ろで、親父が鼻血を撒き散らしながら卒倒した。

「あら? おとーさん? どうしたの? こんなところで寝たらカゼ引くわよ」

「あー! おとーさまぁ、血だらけになってるぅー! 葵さん、なんかしたでしょお?」

「あの、あの、ドルファさん! すみませんが、代わりに穿くものを――」

 めいめい勝手にやっているのを尻目に、俺とナーちゃんは

『達郎さま? 今、ドルファさんがやっていたのも花火なのですか?』

『ああ。あれはロケット花火っていうんだ。ほかの人に向けたら危ないんだよ』

『まあ! ろけっとはなびって、とても怖いものなのですね、達郎さま!』

 だろうね。

 あの無敵の葵さんがパンチラになってしまうくらいだもの。

 

 

 とまあこんな具合に、俺とナーちゃん、それに葵さんやドルファちゃん達との暮らしが始まったワケなのだが。

 ――もう一人、忘れてはいけない。

 ドルファちゃんの看病を頼んで以来俺の家に出入りするようになった、由美さんという偉大かつ強烈な存在を。

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