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その31 学校祭ですけど(後夜祭)

 ちっ。

 あらかじめぶっ飛ばしておいたドツボが戻ってきやがった。

 ヤツは俺が放り込んだハバネロによってかなりのダメージを食らったらしく、よろよろしながらも

「鍋にされてェか! てめェら!」 

 怒鳴った。

 すると、ぶっ飛ばされたりアスファルトに埋められていたポイズン達が

「な、鍋はイヤだーっ!」

「煮られたくねぇよぉ!」

「せ、せめて刺身に……。俺達はそっちの方が美味いんだよ……」

 はい、そこ。

 刺身を希望する意味がわからん。 

 しかし、これはマズいぞ。

 俺も武装天女も、たださえパワーダウンしてるっていうのに、また増えられてしまっちゃあ、いよいよ勝ち目がないってこった。

「クソ野郎どもが……!」

 肩で息をしている武装天女。かなりツラそうだ。そうだよな。あんなに長いチェーンを振り回し続けていたんだから。

 だが、ポイズンどもは待ってはくれない。

「P・O・I・Z・O・N、ポイズーン!」

「ポイズンバンザーイ!」

「ドクってサイコー!」

 口々に叫びながら、一斉に突撃してきやがった。

 まるで特攻兵じゃねェか。

 捨て身でこられちゃ、なすすべもない。

 あー。

 今度こそ、今度こそ……か?

 一瞬、これ以上戦う意欲を失いかけた。

 そんな俺達の耳に、どこからともなく懐かしい響きが――

 タンッ!

 タタタタタ、タンッ! タタンッ!

 !?

 この音……!

 幻聴かと思ったが、それははっきり、そしてしっかりと、ぼやけかかった俺達の意識を呼び覚ましてくれた。

 ――そう。

 奇跡はやってきた。

「達郎様っ! 由美さまっ! 葵が援護いたします! しっかりなさって!」

 タタタタタンッタンッタタタタンッ

「ふごっ!」

「げぎゃっ!」

 凄腕ガンナー葵さんの射撃には、一発の無駄弾もない。

 悲鳴を上げながら次々と倒れていくポイズン達。

 葵さんの声が届いた途端、疲労困憊していた武装天女の目に「ギラリ!」と光が宿った。

「……おっせェよ、来んのがよォ」

 とか言いながらも、嬉しそう。

 しぼっ

 タバコをくわえ、火をつけた。

「ぷーっ」

 煙を吐き出した由美さんからは、さっきまでのオーバーヒート感がなくなっている。すっぱり切れそうな視線で、周囲に群れるポイズン達にガンを飛ばした。

 その凄まじい迫力に、捨て身の特攻を試みた連中もさすがに足を竦ませている。

「さて、と。……ケリ、つけっかねェ」

 ぷっとタバコを吐き捨てた。

 巧みな連射で包囲の一部を一掃した葵さん、さっと駆け寄って背中を合わせ

「……半分は私へ。この前のお礼、まださせていただいてませんもの」

 にこっと微笑んだ。

「あァ、好きにしな。こうも数が多いと」

 手にしたチェーンを放り投げてスカートの裾をめくった武装天女。

 そこからなんと、ぶっとい革のベルトが! やっぱり仕込んでいたようだ。

「――めんどくせェんだよ」

 復活した武装天女&葵さん、猛攻開始。

 瞬く間にポイズンどもを殲滅していく。

 じゃあ、俺も――そう思った瞬間だった。

 それは確かに、聞こえたような気がした。

『――達郎さまっ!』

 あの聞きなれた、涼やかで潤いがあってクリアで、そして慈愛に溢れたボイス。

 そして、ふと宙を仰いだ俺の目には――

「……!?」

 何をどうしたものか、なんと、ナーちゃんが宙を舞っていた!

 そのまましっかり受け止めて――と言いたいところだが、ちょおっとばかり向こう側。

 ずいぶんと無茶なダイブを試みたようだ。

「ナーちゃん!」

 慌てて地面を蹴った俺。

 全力スライディングキャッチで飛び込んだ俺の腕の中、そこにいたのは間違いなく彼女だった。

 美しいその相貌に柔らかな笑みを浮かべ、ちょっと潤んだ瞳で俺を見つめている。

 頭突きの勢いで額をくっつけてやると

『ナーちゃん!!』

『ああっ、達郎さまっ!! すごくすごくすごく、お会いしとうございました!!』

 ぎゅーっ

 力いっぱい、俺の首に抱きついているナーちゃん。

『どうしてここに来たんだ!? ブルーフィッシュにいたんじゃなかったのか?』

 そう尋ねると、ナーちゃんはふわっと微笑んで

『ブルーフィッシュは落ち着きを取り戻しましたの。ですから私、今度こそ達郎さまのお傍へ行きたいって、葵さんにお願いしたのです!』

 そこへ

「……よっ、と!」

 俺達の傍へ、ドルファちゃん着地。

「まったく、ナタルシアってば無茶するんだからぁ! 達郎様を見つけた途端に、あたしから離れちゃうんですもの!」

 ぶーたれている。

「すまなかったな、ドルファちゃん。ナーちゃんを連れてきてくれたのか」

「そぉでぇす! 今会いたいすぐ会いたいってダダこねるんですよ? この姫様は」

 笑っている。

 よしよし。そーかそーか。

 だったら、ナーちゃんにカッコ悪い姿を見せるワケにはいかないな。

『もうちょっとの辛抱だぞ。すぐに終わるからな』

『はいっ! 達郎さまっ!』

 まだまだ、ポイズンどもの残数は多い。

 しかし、懸念するまでもなかった。

 さらに強力な援軍が姿を見せたからだ。

「――コラ、タツ! なんでオレを呼ばねェんだよォ! ボコり合いなら任せとけっつってんだろォがよォ!」

 ブルーフィッシュ専属のバーサーカー・マサ見参。 

 ヤツはそのあたりにいるポイズン達を手当たり次第「ばき、どか、ごすっ」と有無を言わせず立て続けにのめしてから

「うぉい、タツぅ! エモノ忘れてくんじゃねェ! ――おらよっ!」

 叫ぶなり、俺に何かを放り投げて寄越した。

「……!?」

 宙を流れるそれを見た瞬間、俺は思わず笑ってしまった。

 ふっ。

 あいつ、気ィ利かせたつもりなのか?

 俺は片手を突き出してそれを受け取り「……サンキュー、マサ! 恩に着るぜ!」

 下段斜めに構えつつ、突進した。

 行く手には、さっき一度ぶっ飛ばしたドツボ野郎が――。

「う、うわっ! こ、こっち来るな! おいっ! 誰かっ!」

 慌てて飛んできた数匹のポイズンをバタバタと叩き落しつつ、俺はダッシュを緩めない。

「きやーっ! ヤメてーっ!」

 背中を見せて逃げようとしたドツボ。

 もうおせーよ。

「……リーネとやらに伝えておけ! 俺の前にツラ見せやがったら」

 俺は愛用のバットを振りかぶった。

「――鼻からハバネロ食わせてやる!」

 ばっっこおぉん……

 フルスイング。

「ふごげべばぼべっ!!」

 ドクウツボは意味不明な叫び声を発しつつ一直線に宙を吹っ飛んでいったかと思うと「べぎゃっ!!」壁にめり込んでいた。

 今度こそ、完全に戦闘不能。

 数を誇っていたザコポイズン達も、葵さん、武装天女、マサ、ドルファちゃんという最強チームの前ではもはや敵ではなかった。

「な、なべ……キライ……がくっ」

 最後のフグが倒れ、戦いは終わった。

 一時、というか二時くらいどうなるかと思ったが――駆けつけてきてくれたみんなのお陰で、悪しきポイズン達を残らず撃破することができた。ってか、どうやらこいつらも、ホントのホントは敵ではないような気もするが。まあ、立ち向かって来られた以上は戦うしかなかったんだよな。

 奴らの背後にいる、真の黒幕。

 残念ながらそいつはその姿を一瞬たりとも見せてはいない。

 と、思ったが

「……?」

 校門のすぐそばに停まっていた一台の車。

 その車が慌てたように走り去っていくのが見えた。

 ヤツか。

 案に相違してポイズンどもが残らずやられたから、尻尾を巻いて逃げやがったようだ。

 だけど、な。

 いつかは覚悟しておけ。

 ――鼻からハバネロ。死ぬまで泣かせてやる。



「うぉい! 次いくぞー!」

「おおーっ!」

 すっかり夜の帳は降り、辺りは暗い。

 音割れのひどいスピーカーから流れる音楽に合わせて、グランドで輪になってフォークダンスを踊りまくっている生徒達。もう何曲目かわかったものじゃないが、テンションがおかしくなっている彼等には何の問題もないらしい。

『皆さん、楽しそうですね? 達郎さまっ』

 少し離れた位置でその光景を眺めている俺、そしてナーちゃん。

 彼女は俺の首にしっかりと抱きついたまま。

『そうだな。少しテンションがおかしいみたいだけど』

『てんしょん? テンションって、何ですか、達郎さま?』

 ってか、質問の中身はどうでもいいんだろ?

 要するにナーちゃんはびったりくっついていたいんだもの。顔と顔すれすれなまま、嬉しそうに笑っている。

 甘え放題のナーちゃんに俺は軽く苦笑しながら

『ブルーフィッシュの方はもう……大丈夫なのか?』

 ここが肝心だ。

 さっきも訊いたけど、もう一度確認しておきたかった。

『はいっ! ジーナさん達バランサーの皆さんと力を合わせていくことで、話がついたのです。これというのも、達郎さまやマサさま、由美さまが私達を支えてくださったからです。海獣組の中でも特に力のあったセイゾーを追い出したことは、海の世界で大変な話題になっているのですよ』

 ああ、その話は聞いたよ。

 だからこうやって、ドルファちゃんも手助けしてくれてるんだろう?

『ですから、これからはもう、私はずっと――』

 ナーちゃんが言いかけた時だった。

 どーんどどーん

 ぱーんぱぱぱぱぱーん――

 突然、夜空に美しい花が咲き乱れた。

 おー、そうだった。

 今年の学校祭、トリは花火だったっけ。

『まあっ!』

 とっても嬉しそうなナーちゃん。

『人間の方達の世界には、こんなにも美しいものがあるのですね……』

 いやいや。

 色とりどりの光に照らされているナーちゃんの横顔も、すごくキレイだぜ。

 きゅっ

 俺の首にまわされているナーちゃんの腕に力がこもった。

『……ナーちゃん』

『はい、達郎さま?』

 額&額、密着中。

 だから、すぐそこにある。

『あのさ……』

『はいっ、達郎さ――』

 ナーちゃんの声はそこで途切れた。

 俺が唇を奪ってしまったから。

 彼女は嫌がりも驚きもしなかった。

『あっ……達郎さまっ……んっ!』

 ぎゅーっ

 ナーちゃんの両腕に力がこもる。

 次々と打ち上げられる花火の下――俺とナーちゃん、長い長いキス。



「……うぉい、おめェら!」

 その声で、俺達はハッとなった。

 振り向けば、由美さんやマサ、葵さんにドルファちゃん達みんながいた。

 いつの間にやら花火は終わってるし。

 俺とナーちゃん、ちょっと恥かしい。

「学校祭は終わりだぜ? まずは帰ってひとっ風呂浴びて、一杯やろうぜ? ナーと葵とドルファの復帰祝いだ!」

 みんなは一部始終見ていたハズだが、誰もツッコんではこなかった。

 ただ、妙にニヤニヤしているけれども。

 おーし、帰ろうか。

 ナーちゃんと一緒に。

『あのっ、達郎さまっ!』

『ん?』

『やっとやっとやっと、こうやってお傍にこれたのですもの。私、もうずっと達郎さまのお傍を離れません! ナタルシアは達郎さまの……妻ですもの!』

 ああ。

 今夜も明日も明後日も、そしてずっと――一緒にいよう。

 途中でなんだかんだあったけど。

 今年は最高の学校祭だったな。



 またナーちゃんと一緒になれたから。 

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