その30 学校祭ですけど(最終日)
いよいよ潮清祭も最終日。
朝、玄関を出た俺はイワシャールのバカとすれ違った。
ヤツはドロボーみたいにでっかい風呂敷を背負ってぺったぺったと歩いている。
「お、クソイワシか。チョモランマから帰ってくるなり盗みは良くないなぁ。今のうちに警察でも自首しておけ。刑が軽くなるぜ?」
軽く冗談を言ったのだが、クソイワシは
「……レディをつかまえて泥棒などとは、達郎どのも万年独身決定ですな。私はそれどころではないのです。忙しいのですから! まったく」
ぶつぶつ言いながら、行ってしまった。
振り返って見ていると、俺の家に入っていった。
居候のつもりか?
まあいいや。
またなんか仕出かすなら、アルプスにでも旅に行かせるまでのことだ。キリマンジャロの方がいいだろうか?
そんなことより。
――今日は戦争が待ち受けている。
近水の悪たれども&ポイズングループVS俺&近工最狂コンビ連合軍。
ドルファちゃんには来ないように言ってある。
「でも、でもォ……」
彼女は悲しそうにしていたが、俺と由美さんで押し止めてきた。人間が混じっている以上、彼女じゃ戦えないし。
こっちが少数という見込みだからいろいろと悪知恵は絞ってきたけれども、果たして勝てるだろうか?
今夜は後夜祭。
てめーの足で立って後夜祭でうんと騒げるか、それとも――。
考えながら歩いていると、ポケットでケータイが鳴り出した。やっと手に入れた最新機種。
「あいよ」
『おォ、タツぅ! オレ!』朝からマサ、バカ声。『近水の奴らよォ、間違いなくそっち行くぜェ! きのォナンバーツーをボコっといたからなァ。ひゃはははは』
来るんですかい。
うちの学校を戦場にして欲しくなかったんですがねェ……。
が、マサは続けて
『でもよォ、あいつらがおめェんトコのガッコーに行ったら、おめェ、困るだろォ? 途中で見つけたらよォ、そこでボコっとっから、そしたら行かねェかも! ひゃはははは』
できればその方が助かる。途中で見つけ次第、殲滅しておいていただきたい。
「ん。頼むわ」
ケータイを切った。
やるしかねェ。
これは悪党との戦い。
俺達が負けるワケにはいかないんだ。
今日の校内はいつにも増して人が多い!
最終日だっていうせいか、どの生徒も朝からテンション上げまくりだ。
しかし、俺は一緒になって騒いでいる訳にはいかない。
近水の連中とのバトルにみんなを巻き込まないように、戦場予定地を検討しておかねば。
だが。
「――あ、いた! かっ、海藤君! ちょ、ちょっと、いいかな?」
「……!?」
その声に振り返らず、全力ダッシュで逃げておくべきだったと、俺は後悔した。
背後には、ヒツジがいたからだ。
「ちょ、ちょっとだけ、せ、先生と話をしよう。職員室まで、来てもらえるかな?」
ノーッ!!
今そんなコトしている場合じゃないのにーっ!!
――結局、俺は軽く一時間ヒツジにつかまっていた。
ヤツはぬるーい語調で、俺が退部するといかにみんなが困るかということをめんめんと喋り、引きとめをはかりやがった。話の途中からは眠くて仕方がなかった。
埒が開かないので、俺はヒツジの話を強引に遮ると「受験に備えて、今から準備することのどこが悪いんですか!? 先生は俺から、勉強の時間を奪おうって言うんですか!?」
キレてやった。まったくの言いがかりに過ぎないのだが。
すると、俺がぶちキレたものだから、他の教師達が振り向いてこっちを見た。
「あ、う、え……い、いや、先生はなにも、そ、そこまでは……」
ヒツジ、口ごもった末に沈黙。
勝負あった。
「じゃあ、あとはよろしくお願いします。一年間、ありがとうございました!」
さっさと職員室を出るなり、ケータイを取り出して見た。
由美さんからのメールが一通。
『もー少ししたらそっち行く 早めにきやがったらアタシの分も残しておけ』
はいはい。
残すも何も、俺一人じゃとても応対しきれない。
ってか、奴らはいったい何人+何匹できやがるんだろう?
まさか全校生徒で押しかけてきたりしないだろうな?
ともかくも、他の生徒達を巻き込んじゃいけない。
職員室を出た俺は、校門の近くに陣取って敵の襲来に備えた。
そうしてじーっと人の流れを注視していると
「……どうしたの、達郎クン? こんなところで」
振り返ると、そこには春香ちゃんとその彼氏である実行委員のヤツがいた。
「あ、ああ……待ち、合わせ。ちゅ、中学の同級生がくるハズなんだ。はは……」
「そっかー。なんか、すごいコワいカオして校門の方を睨んでいるから、どうしたんだろうと思って。なら、良かった!」
すみませんでした。
何も、やってくるお客さんを威嚇していたワケじゃないんです。いや、半分威嚇か……。
「今年の潮清祭、どうだったかその人にも感想聞いておいてくれる? あとで参考にしたいの」
彼氏もにこにこして頷いている。
草食動物みたいなヤツだな。まあ、人は悪くなさそうだ。
反対に、俺は今や、他校生と乱闘までやりかねない勢いですけどね。もしここでマジに起こっちまったら、この彼氏はショックのあまり憤死してしまうかも知れない。
「わ、わかった……」
「よろしくね?」
春香ちゃんと彼氏は行ってしまった。
それから程なく、由美さん登場。
「よォ、タツ! まだ奴ら、来ないか?」
ノースリーブに長めのスカートという彼女は、これから大ゲンカを仕出かそうとしている人にはとても見えない。見ようによってはラフな格好のヤンキーだが、見方を変えれば清楚な若い女性。由美さんの体内には、その両方が同居しているんだけれども。
「まだ、来ないですよ。ずっと見張ってるんですけど」
「そっか。そのうち来るだろ」
友達でも待っているかのように、平然としている由美さん。さすがに慣れていらっしゃる。
俺は正直、そうでもない。
ブルーフィッシュ総督府に殴りこんだ時は違った。相手に人間がいなかったからだ。
しかし、今回は相手のうちの幾らかは人間。平気な顔をして殴る蹴るができるとは、実は思っていなかった。できれば、権三ジジイ、じゃなくてゴンズイの方と戦いたい。
しばらく塀にもたれて賑やかな様子を眺めていた由美さんは
「……なァ、タツ。お前、野球部、ヤメんのか?」
へ?
由美さん、どうしてそれを?
昨日の夜、俺は一言も喋ってないのに。
「近工軟式野球部のマネージャーに河野ってのがいて、アタシの後輩なんだ。カノジョ、潮清のマネージャーと中学校からの友達なんだと。その潮清のマネージャーのコが昨日の晩に泣きながら電話してきて、野球部のマネージャーやめるから、って。河野が話を聞いたら、何でも好きだった部員にフラれて、でもその部員はオトシマエつけるために自分で野球部ヤメるって言って云々、だそうだぜ。河野からアタシんトコに夜中に電話きたさ。名前は聞いてないけど、何となくタツのことじゃねェかと思った」
「……」
「とんだ色男、だなァ。お前って、そんなにモテたっけ?」
ケラケラと笑っている。
めぐみ、泣いていた、か。
でも――しゃあねェよ。
俺は強くなるために野球部に入って今の俺になって、それでナーちゃんと巡り会えたんだから。ナーちゃんに出会わなかったらきっと、春香ちゃんと一緒にいただろう。どう転んでも、めぐみとは……な。
由美さんも、それ以上ツッこむつもりはないらしく
「……泣いてくれねェような別れなら、それこそ虚しいぜ? タツにゃあのナーがいるんだからよォ。お互い一途なんだし、いーんじゃねェの? そのコも納得してるみてェだし」
ありがとう。
そう言ってもらえると、気持ちがホッとする。
これからは俺、仲間を守りたいんです。
マジで。
――ところが。
陽は傾きかけ、グラウンドでは後夜祭の準備が大分進んでいた。
装飾は実行委員達の手で取り外されていき、あれほどあった前庭の出店も次々たたまれていった。校内はまた元の状態に戻っていきつつある。
来ない。
近水の連中も、ポイズンの奴らも。
「……ヘンじゃないっすか? 近水の先生方に止められたんですかねェ」
「あァ。にしても、せめて権三ジジイくらいは来ても良さそうだけどな」
すっかり待ちぼうけしている由美さん。
待っている間、いったいどれだけのお好み焼きやら焼きそばやら、その他もろもろ平らげたことか。さすがに「カラダが鈍るからなァ」と言って、ビールだけは飲まなかったけれども。
「……おい、タツ」
頑丈な車止めに腰掛けていた由美さんが立ち上がった。
「ちょっくら見てくるわ。しばらく経っても戻らんかったら、どっかでボコり合ってると思ってくれ」
「わかりました。……でも、その前に連絡くださいよ?」
「あァ。余裕があれば、な」
由美さんは片手を振りながら、校門から出て行った。
「……」
とりあえず、することがなくなった俺。
教室に戻って、後片付けでも手伝っていようかと思ったその時である。
ケータイが鳴った。
マサからだ。
「――もしっ! マサか!? どーした?」
『ひゃひゃひゃ、おォいタツぅ! こっちはオッケーだぜェ! さっきだけどォ、近水の連中、おまえンとこ行こうとしてんの見つけたからボコっといた! 弱いって、マジ! ウケる』
「お、おォ……そっか。サンキュー」
内心、ちょっと安堵した俺。
マサは笑いながら
『なんかよォ、もっとヤベェかと思ったんだけどよォ、全然ショボいの! 権三とかいうジジイがいるって由美さんに聞いてたケドぉ、そんなヤツいねェし』
……なに?
ゴンズイがいない?
「おい、マサ!」
『あン? どォした?』
「そこに、魚住ってヤツはいるのか!?」
『あ? あァ、寝てるケド? オレのパンチ一発で寝ちまった』
「そいつ起こして訊いてくれ! ゴンズイはどこに行ったかって!」
『あァ、ちょっち待って……』少しして、電話の向こうから『オイコラァ! 権三ってジジイ、どこに行きやがった!? ……あァ!? 知らねェ!? フザけんなよォ、てめェ!』
やり取りがまる聞こえ。
それにしても魚住達が知らないっていうのは、どういう――?
が、その事情は調べるまでもなかった。
「……!!」
俺は踵を返すや否や、空いている左腕を振り上げていた。
ガーン……
左腕に衝撃が響いていく。振り下ろされてきた鉄の棒を受け止めたからだ。
だけど、痛くはない。
良かった……制服の袖に大きな釘抜きを仕込んでおいて。
俺は力任せにその鉄棒を押しのけ、左を向きざま右足に力をこめた。
「電話の邪魔だ!!」
ばこっ!
「みーのーかーさーごーってかぁー……」きらーん。
あ、あれ?
力いっぱい夕暮れの空へ蹴り飛ばしてしまったのはいいが……権三ジジイ、じゃなくてゴンズイ、じゃなくてミノカサゴではないか。
が、ゆっくり考えている余裕はない。
「おい、マサ!」
『あァン? 魚住のヤローよォ、知らねェって言ってるケドよォ……』
「また連絡する!」切ろうとして「……生きていたら、な」ぷちっ
マサは何か言いかけていたが、一方的に切ってしまった。
そりゃそうだ。喋ってなんかいられるハズがない。
なにせ俺の周りには、ずらりと――ゴンズイにミノカサゴ、ついでにフグもいる!
その中に一匹だけ、ウツボっぽい野郎がいる。
今まで見たウツボとはちょーっとばかり柄が違う。
なんか地味なデザインで、ストライプなミノカサゴとかコントラスト全開のフグに比べると、はるかに目立たない。
しかしそんなヤツがボスらしく、ずいっと進み出てきて
「……おめェか。リーネ様の邪魔をした人間とやらは」
あのイヤらしい目で、ぎらりと俺を睨みつけた。声が小さくて低くて、聞き取りにくい。ホントに目立たないヤツだな。
俺は体勢を立て直すと、真っ向からその視線を受け返し
「おい……人間の連中はどうした? 一緒にくるんじゃなかったのか?」
「あんなガキども、いてもいなくても知ったコトじゃあねェ。だから、お前の仲間の足止めにしておいた。今ごろ、どうなっているかねェ……」
おーおーおー。
魚住たち、ウツボのような下等な連中にも囮程度にしか扱われてないよ。哀れな。
――さて、それはともかく。
俺一人、VSポイズンな方々、その数五十以上。
援軍?
マサと由美さんが駆けつけてくれればいいけれども。
遅かったら俺、多分十七年の人生おしまい。
親父、幸子、ナーちゃんにみんな、先立つ不幸をお許しください……。
お許しいただきたいですが、その前に。
「……おい、ウツボ野郎」
「ウツボじゃねェ! ドクウツボだ!」
「どっちでもいいんだ、てめーの種類なんかは」俺は空を指差し「……アレが見えるか?」
「あン?」
バカみたいに、空を見上げたウツボ、もといドクウツボ。
そのでっかい口が「ぱっかーん」。
――ほれ。
俺はすかさず、ポッケから出したそれをヤツの口の中めがけてぶん投げた。
ウツボの口である。外れるような可愛らしい大きさの口じゃあない。
ぱくっ
「あ? 今、何をしやが……どひーっ! ぎゃーっ! ぐわーっ! むひょーっ!」
口からドラゴンよろしく炎を吐き散らしながら、悶絶し始めたドクウツボ。
効くだろうさ。ハバネロだもの。
機を逃さず、俺はヤツを目掛けて駆け寄るや否や
「……あっちでやっとれ!」
ぼっこん!
素早く袖から取り出した釘抜きを力いっぱい振り抜いてやった。
「ぶでばべれべればびぼっ!!」
ドクウツボは綺麗な弧を描きながら、敷地の外へとふっ飛んでいった。
とりあえず、ボスをしばらく戦闘不能にすることに成功。海鮮、じゃなくって海戦の戦術にあるんだな。真っ先に旗艦を狙え、っていうのが。
「ど、ドツボっち様がやられた!」
「バカ! ドツボゆーな! ドクウツボ様だ! シバかれるぞ!」
「どーするどーする!? あの人間、強いぞ」
あっけなく親分を撃破された大勢の残党どもはおろおろしていたが
「えい! このままおめおめ引き下がって帰れば、リーネ様の逆鱗に触れて恐ろしい地獄鍋行きだぞ!」
「こうなりゃヤケだ! やっちまえ!」
リーネを恐れているポイズンの連中、鶴の一声で攻撃開始。
仕方がないな。力尽きるまで戦うしかねェ。
「Goー! (そのあと小さく)ンズイ」
「麩・Gooーッ!」
「Meの傘……Go!」
今ようやく気がついたが――ミノカサゴが持っていたのは傘だったのか。
どーりでヤワな鉄棒だと思ったよ。
フグの得物はなんと「麩」。味噌汁に入っているアレだ。これはどうでも良い。
ゴンズイだけがよくわからない。
押し寄せてくるなり、飛び上がって俺の背後から蹴りを入れてくる。どうやら、延髄蹴りのことらしい。もしかして、延髄とゴンズイをかけているのか? だとすれば、救えないバカだ。
長い胴体に手足が生えただけの魚人だからたかが知れているが、こうも数が多いと持て余しそうになる。いちいちかわすのが鬱陶しいのだ。
俺も黙ってはいない。
量産した赤唐辛子胡椒玉を投げまくって目潰し・クシャミの嵐を巻き起こし、釘抜きではリーチが短いので懐に隠し持っていたフライパンに持ち替えて応戦。
そう。
ポイズン=毒ということでちょっとコワい気がしていたのだが、実はそうでもない。
彼等のスペックにある毒というのは、外敵に接近された時に初めて有効となるように設計されている。だから、普段はそれ自体を用いて攻撃などはしないのだ。
フライパンを的確に打ち込み、次々とポイズンどもを沈めていく俺。
しかし――やはり数は絶対だった。
いくら自主トレで鍛えているとはいえ、不規則な動きに翻弄されると疲労すること甚だしい。
そして疲労がピークに達してきた頃、ゴンズイをぶん殴った勢い余って、迂闊にもミノカサゴのトゲに触ってしまった。
「……!」
途端に襲ってきた、強烈なめまい。
立っていることができなくなり、俺は膝から崩れ落ちた。
「チャーンス! よくわからんが、人間が倒れたぞー!」
「今だ! やっちまえ!」
これまでか……。
ってか、こいつら――自分らが毒持ちな事実に気付いてねェ。真性のアホだ。
そのアホ相手にこれ、か。俺もまだまだだったな。
軽く納得いかない気持ちになりながら、最期の時を待っていた俺。
しかし――
どかっ! ばきっ! ぐしゃっ! めこっ! ぼこっ!
いきなり包囲の一画が崩れだした。
「……てめェら、一人を相手に数頼みか。どいつもこいつもシケてんなァ、おい!」
きた。
またもや運命の女神は俺に向かって、いや――「武装」の「天女」だな。
「な、なんだお前は!? Meの傘をうけ――」
ばごぉん!
最後までセリフを言うことなく、そのミノカサゴはアスファルトにめりこんでいた。
煙を上げているそいつをげしっと踏んづけ、手にしたチェーンをだらりと垂らしながら
「てめェらまとめてぶっ潰す! アタシの大事なダチに手ェ出しやがって!」
由美さん、否「武装天女」が咆えた。
あ、いや、その……俺がうっかり、ミノカサゴのトゲにさわっちまっただけですが。
――ってか、もう始まってしまっている。
愛用のチェーンを自在に振り回し、さんざんに荒れ狂っている武装天女。
多勢に無勢だったミノカサゴにフグ、ゴンズイが次々にふっ飛ばされ、あるいは地面にめり込まされていく。
だけど、数が数だ。
このままじゃ、いずれ武装天女も疲労していくのは目に見えている。
「くっそォ……」
ふらつく頭をごつごつと殴りつけながら、俺はゆっくりと立ち上がった。
「おォい、タツぅ! 大丈夫かァ! しっかりしろォ! アタシがついてるからなァ!」
武装天女のエールが飛んできた。
すいませんね、心配かけて。
俺も倒れているワケにはいかない。
もうひと働きくらい、しとかねェとな。カッコ悪いって。
「――ずーい!」
立ち上がった俺の後頭部を目掛け、ゴンズイが飛んできた。
「……てりゃっ!」
べっちーん!
「Go! ン髄、ってかー――」
あえなくお空へと消えていったゴンズイ。
俺の手には、ぶっとい革のベルト。
以前由美さんが仕込んでいたのを見て使いやすそうだと思い、隠し持っていたのだ。
「おォ、タツ! 生きてっかァ! オイ!」
「由美さん! やつらのトゲにだけは気をつけてください! 毒がありますから!」
「わかって――」チェーンが唸った。「るって!!」
びしっばしっばこっ……
「ぎゃっ!」
「ぐべっ!」
もはや、各種族別のキメセリフを吐く余裕なんかあるはずがない。一般的な悲鳴を上げながら沈んでいくポイズンども。
武装天女の加勢によって、相当の数が脱落した。
残りはもう、三分の一もないな。
安心しかけたところへ
「――うぉい、貴様等! わ、わかってんだろォな! そいつらを潰さなかったら、リーネ様の目の前で鍋にされんだぞ!」
校門の方から声がした。