その28 学校祭ですけど(二日目・午後)
「おォ! うめェじゃん! うめェ! コレ、マジでタツが焼いたんか?」
「俺ですよ? 俺以外に誰も焼く人間いなかったんですから」
いや、他にも焼く人はいました。
ただしそいつは必要以上に焼いてしまうので食い物にならなかったんですけどね。黒いフリスビーみたいなのが大量生産されちゃってるってカンジで。
――午後、校舎の裏側にて。
由美さんはコンクリートのステップに腰掛けて、俺の焼いたお好み焼きを「もふもふ」と頬張っている。飲み下すたびに「うめェ」の一言。
そりゃどーも。光栄でござんす。
結局働きっぱなしで美味いモンなんか探しているヒマなかったから、隠しておいた俺の作品を提供したのだ。喜んでくれているからいいんだけどさ。
ってか彼女、昨日から五枚以上食ってるような気が……。よくまあそんなにお好み焼きばっかり食えるなぁ。
「ところで……」
よほど腹が減っていたのか、えらいスピードで食い終わってペットボトルのコーラを一気に飲み干した由美さん。一息つくなり、ぐいっと首を俺に向け
「……タツ、お前、近水の魚住ってヤツ、知ってるか?」
「いえ、知らない人ですねェ」
かぶりを振ると
「アタシ、近水のヤツを一人とっ捕まえてシメてきた。そしたら、そいつの名前が出てきた」
ぎゃーっ!!
やっぱりやりましたか!!
一人とはいえ、一人とはいえ……シメちゃいましたか……。死山血河を築かなかっただけでも上出来なのかー?
仰天している俺とは対照的に、つらっと事も無げな由美さん。「べごっ!」とペットボトルを一撃で握りつぶして
「そいつ、今の近水をシメているヤツらしいんだ。つっても大分前に、マサのヤツにいっぺんボコられてるらしいから大したヤローでもなさそうだけどな」
いや……その評価はどうでしょう?
マサが強すぎるだけだから、その魚住には何の罪もないかと。
「その魚住ってヤツのところに、妙なサカナの連中が出入りしているらしい。ドジョーみたいなツラして、黒っぽい背中に黄色いセンが入ってるんだと。なんだそりゃ? って訊いたらそいつ『いや、なんていうサカナかわかんないっスよ! 俺、ベンキョーしてないんで』だってさ。サカナいっぴきの名前も知らねェんじゃ、水産の名が廃るってな」
へへへ、と可笑しそうに笑った。
ドジョー、ね。いや、ドジョーみたいなツラ。
背中が黒いんなら、ドジョウそのものじゃないのか?
っていっても、黄色いセンはないよなぁ。昔、田舎のじいちゃんの家の近くでドジョウ獲りやったことがあるから、どういう見てくれとスペックを備えたサカナかは俺でもわかる。それに海でドジョウは獲れない。
あれ? 待てよ?
ドルファちゃんは確か、ポイズンとか言っていたよな。
ポイズン=毒。
毒があって、ドジョーみたいなツラして黄色いセンをもったサカナ。
ずっと前に、夏休みの自由研究やるのに図鑑で見た記憶がある。
「……ああ。わかりました。そいつら『ゴンズイ』ってヤツですね」
「ゴンズイぃ? なんだァそりゃ? どっかのジジィみてェな名前だなァ」
そんな感じもしますね。
漢字に直せば権爺、ってところでしょうか。まったく意味はありませんが。
ご縁のなかった由美さんのために、説明を加えた俺。
「子供向けな魚の図鑑には大体登場するんです。海で泳ぐ時には気をつけろ、って。どうしてって、そいつ、身体のどっかに毒をもっていて、刺されると大変なんですよ。――ドルファちゃんが襲われたのはポイズンっていうサカナのグループですから、その話と一致します」
由美さんのカオがへぇっ、と驚いている。
「タツ! オマエ、アタマいいなァ! そったらサカナのことまでわかるのか! だったら近水なんか要らねェじゃん! タツ一人いりゃァよォ」
いやいや、そーいうモンじゃないでしょーが。
「そこまでわかりゃ、ハナシははえェな。犯人がわかってンだ。魚住って野郎とその、なんだ、権爺とやらをボコれば終わりじゃねェ?」
気ぜわしく立ち上がりかけた由美さん。ボコり合いになると血が騒ぐんだもんなー。
しかし、ちょ、ちょおーっと待った!
そうはイカゲソ天。
「由美さんですね、ザコを何匹ボコッたところで、ハナシは解決しないんですよ。またドルファちゃんとかナーちゃんが狙われて、イタチごっこですって」
「あン? なんで?」
「ちゅーのはですよ――」
テトリスと複雑なハナシが苦手な由美さんのために、俺はそこで十分を費やした。
要は、黒幕を特定しない限り、ザコをいくら叩きのめしても次から次と新手がやってくるだけだということ。それに、近水の連中がからんでいるように、海の世界のゴタゴタには人間も関係しているからそっちも抑えないことには、ドルファちゃん達をまた危険な目に遭わせてしまう。ウツボみたいな下等な連中はそうでもないみたいだが、バランサー達のような高等な種族は人間に手出しができないっていうし。
底引き網漁よろしく根こそぎやってしまわないと、バカは何度でもやってくる。
と、いうようなことを懇々と解いた俺。
すると
「……タツよ」
由美さんはどっかと腰を下ろし、身体ごと俺の方を向いた。
「おめェの言うコトはわからいでもねェ。……だけど、その前に」
きゅっと目を細め「――あのコを寄ってたかってボコりやがった。そーいう卑怯なマネをした連中を、アタシは許せねェ! だから、カタキは討つ! 一匹残らずボコボコにしてやる!」
やれやれ。
オトシマエはオトシマエ、か。
いつだってストレートど真ん中で勝負ですかい。
ま、それが由美さんとかマサのいいところだと思うけどね。峰山の野郎みたいに壁の向こう側からモノ言ってくるようになったら、ツッ張る意味なんてどこにもない。
「……わかりましたよ」
俺は頷いて見せ
「だったら、今度はこっちからおびき出してやろうじゃないですか。――俺に、考えがあります」
そう言ってやると、由美さんはニッと笑って
「そーこなくっちゃ! さっすがタツ! ハナシがわかるって!」
その大声で、向こう側にいたカップルがこっちを見た。
――こっからは反撃だ。




