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その12 しょっぱい夏

 あの悲しい夜から数日が過ぎた。

 もう、不可解な海の連中達が俺の目の前に現れることはなくなっていた。

 またいつもの、つまらない毎日に戻った俺。

 天然幸子はややしばらく経ってから

「あら? ナーちゃん達、どこか行ったの? 最近、家にいないわねぇ」

 何を今さら。

 もう、何日経ってると思ってるんだよ。

 俺は何も言わなかった。

 ナーちゃん達はもう二度と戻ってこない――なんて、口に出したくもない。

 また元通りの生活になったとはいえ、俺の様子が明らかにヘンだと思ったのだろう。最初に気がついたらしい史郎が

「海藤、なんかあったのか? ここのところ、全然元気がないじゃないか。大丈夫か?」

 そう、声をかけてくれた。

 正直、こんなにも友達をありがたく思ったことなんて、一度もなかった。こっちがツラい時に「ん?」って思ってくれるヤツが傍にいることを、当たり前とか思っちゃいけないんだ。史郎の一言が、妙に心に沁みた。

 これというのも――ナーちゃんが教えてくれたのだろうか。

 ナーちゃんや葵さんは、俺達を巻き込みたくないといって離れていった。そう言われてみて初めて、周りのみんなの存在は決して当たり前にあるものなんじゃないって、わかったから。

 あのコは今、どうしているんだろう?

 


 そうして一学期も終わり、夏休みに入った。

 結局、俺はあれから春香ちゃんとはほとんど喋っていない。

 春香ちゃんも俺に話しかけにくい雰囲気を感じたらしく、近寄ってはこなかった。

 せっかく勇気を振り絞って「キライじゃない」って、そこまで言ってくれたのに、ノーリアクションなまま。ここでも俺、最低ぶりを発揮している。

 終業式の日、校門を出ようとすると

「――達郎クン!」

 後ろから、春香ちゃんが追いかけてきた。

 彼女はちょっと言いずらそうにしていたが

「ねぇ、達郎クン……夏休み、なんか予定とかあるの?」

 春香ちゃんの意図に気がついた俺は一瞬詰まったが

「あ、ああ……。しばらく、田舎に行こうと思ってるんだ。だから、次に会うのは二学期かも知れないな」

「そう……わかった。じゃ、また二学期に会おうね」

 悲しそうに去っていった春香ちゃん。

 ウソ。

 そんな予定はないよ。

 だけど、そう言うしかない。

 もし、夏休みの間に何度か会ってしまえば――俺、どうなるかわからない。

 えらく自分の気持ちが頼りなくなっていたし。

 情けないけど、春香ちゃんをシャットアウトする以外にどうしていいのかわからなかった。

 命を張って俺達を危険から遠ざけてくれた葵さん、そしてナーちゃんに届けられる、俺の唯一の誓い。

 それを破ってしまえば俺は……ただの裏切り者。

 だから、春香ちゃんとは距離をおいたんだ。



「……ただいま」

 帰宅すると、すぐ自分の部屋へ直行する習慣がある俺。

 部屋に入ってすぐ、机の上のケータイが目に入った。

「……」

 そっと、手にとってみた。

 ナーちゃんが置いていったもの。

 幸子が買ってくれたそれがすっごく嬉しかったらしく、ずっと手放さずにいたっけ。

 彼女はドタバタに巻き込まれて連れ去られ、それきりだ。

 最後に会ったのは、どのタイミングだったろう? 最後に何て会話したのか、俺には思い出せない。

 どさっとベッドに倒れこんだ俺。

 今となっては――考えてみても、仕方がない。

 自分で決断したことなのに、後悔するのはバカのやることだよな。

 それよりも。

 そんなことよりも。

 

 もっと強くて、でかい自分になりたい。

 周りのヤツとか、それだけじゃなくて、できる限りたくさんのヤツの力になれる自分に。

 好きな人を、自分の手で守れる自分に。

 いつか、なってやるさ。

 絶対に、絶対に――。


 ナーちゃんが残したケータイを握り締めたまま、俺は心の底から思った。

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