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#50話:無尽蔵の正体


 深鷺から魔力が引き出される。

 魔力は地面に深鷺を中心として放射状に描かれた導線を通り、円周上の要石へと流れる。

 導線を目にすると嫌でもあの暗闇を思い出してしまう深鷺だが、皆を信頼している今は特に不安や不快さを感じない。

 ここは野外だし、少し日は傾いてきているが、明るい。なにより、怪しい人達に囲まれているわけではないのだ。


 グリースターとギュランダムは導線を辿り要石を通過した深鷺の魔力を誘導し、球状に均してゆく。

 本来であればこの規模の結界は人の補助無しでも自然と球形になるのだが、万が一を考えての作業だ。

 深鷺から流れ出した魔力は順調に結界の膜となっていった。

 

 今回構築する結界は、本来であれば地脈から引き出す魔力を、深鷺から引き出している。

 通常の結界の内側で深鷺が術を使った結果、その結界が壊れてしまったからだ。

 

 原因はハッキリしていないが、これまでの実験では、結界内部で魔導書【虫】を起動し始めると、それほど時間を置かずして結界が消滅してしまっている。

 つまり、深鷺が直接触れずとも、内部で魔力を使うだけでも結界が壊れてしまうことが判明したのだ。村の【獣払い】は壊れていないので、魔力を使うことによって壊れるか否かは、その結界の規模によるのかもしれない。

 

 そこで出された打開策が、深鷺自身から魔力を引いて結界を張る、というモノだった。

 結界が壊れてしまうのは、深鷺が結界の魔力に何らかの影響を与えるためだと推測される。それならば、深鷺自身の魔力を用いて結界を張れば、それは最初から深鷺の魔力なのだから大丈夫なのでは、という発想から実行されるに至った。

 

 結界術は通常、植物の根が水分を吸収するように地脈から魔力を吸い上げて構築されるものだが、魔力の流出を受け入れる存在であれば生物からでも魔力を供給できる。

 それは本来“魔装術”と呼ばれている術に近いのだが、深鷺は自力で魔力を操ることができないので、魔装術と結界術の中間的な術を用いることになった。

 その結果足下の導線から要石へと魔力を流し、結界を構築するのは専門家たちに任せる形となっている。

 

 しかし、この方法も既に数回の失敗を経ていた。

 今度は深鷺から受けとる魔力が大きすぎて、要石が砕けてしまったのだ。

 そこで最後の手段として、この最も強力な要石を持ち出すことになった。

 

 十数秒を掛けて結界を安定させた後、【クイシェの精査室】が起動する。ようやく最後の実験が始められる。

 

「おう、始めていいぜ」


 グリースターが結界の状態からゴーサインを出すと、深鷺は目を閉じて深呼吸をひとつ。

 結界には自分の体にある魔力が使われているらしいが、相変わらずそれを感じ取ることはできない深鷺。

 しかし、感じられずとも、その流れを否定してはならない。クイシェの【言語移植(フレンズチャット)】と同じように受け入れる。

 

 そのままで、掌に気合いを入れる。

 入れすぎてはいけない。ほんのすこし、眠いのに勢いよく起き上がるほどの気合いではなく、瞼を持ち上げるだけ、薄めを明けるだけ程度の、気合いと呼べるのかも判らない程度の気合いを入れて、ゆっくりとテンションを上げていく。

 

「魔導書の起動を確認したよ! もうちょっと流しても大丈夫そう!」

 

 自身の魔力すらまだ自覚できない深鷺は、無色透明の魔導術【虫】が成功しているか否かすらわからないので、クイシェが教えるしかない。

 深鷺はクイシェの助言に従い、ほんの少しだけ気合いを増した。


「うん、いいかんじ。そのままで、お願いねっ」

 

 そう言ってクイシェは、自分の超感覚をチェックし始めた。

 超感覚が拾い上げる情報は普段とは違い狭い範囲内に収まっている。視認できるギュランダムやフリネラたちからも、魔力は感じ取れない。

 これなら存分に深鷺の魔力の流れを追うことが出来るだろう。


「始めますっ!」


 クイシェは自分の中に無数に存在する感覚を、思いつく端から開いてゆく。

 五感に似たもの、どう説明していいかわからない第六感的なもの。それらがそれぞれ10から20種ほども存在し、そして組み合わせによっては更なる情報をクイシェにもたらす。

 全ての組み合わせはとてつもない量になるが、クイシェは深鷺の魔力の正体が明らかになるまで、あらゆる組み合わせを試すつもりでいた。

 

 深鷺は魔導書の起動に集中している。

 そそがれる魔力量にブレが生じる度にクイシェが加減を調整するようにアドバイスを飛ばし、繰り返していく内にブレは減り、安定した。

 クイシェは、魔力の流れが自覚できていないのにそれを安定させる事ができるというのは、逆に才能があるのではないかと思ったが、今は調査に集中するべきだと横に置いておく。

 

 超感覚の組み合わせを試し始めてどれくらいたっただろうか。集中し過ぎて呼吸を忘れていたクイシェは、一度深く息を吐いた。


 いまのところ、わかったことはひとつだけ。

 

 それは、深鷺からいつも感じられている違和感が“邪魔”である、ということだった。

 

 どうやら深鷺から感じていた違和感は、その奥にある深鷺の魔力の流れや性質を、“隠している”らしいのだ。

 恐らく、違和感が深鷺の妙な性質なのではなく、深鷺が持つ妙な性質が、違和感によって隠されているせいで、クイシェにも実体が掴めずにいるのだろう。


(これじゃ結局なにもわかんないのと同じ……)

 

 その違和感には、この【クイシェの精査室】や【魔力隠し】のように、魔力を遮断するような効果もあるのだろう。何を隠蔽しているのかはわからないが、もしかすると遮断ではなく偽装、といった方が良いのかもしれない。魔力自体は100点を感じ取ることが出来ているのだから。

 

 深鷺は集中力が途切れてきたのか、少々流す魔力にブレが生じ始めている。深鷺が必死に気合いを維持しようとしている中で、クイシェは焦りを感じ始めた。

 大人たちが口を開くことなく見守っているが、クイシェの目には入らない。

 自覚できている無数の超感覚から有力な組み合わせを試し尽くしたころ、ふと、諦めに抗うように思い出したことが、クイシェの意識に広がった。

 

 

 もっと視野を広く――

 

 

 クイシェは個々の魔力やその詳細を感知する感覚を全て閉じると、もっと漠然とした魔力、大きな単位の魔力を感じ取る感覚を開いてみた。


 途端、クイシェは自分がとてつもなく大きな流れの中にいることを知らされる。。


 千や万では効かない、莫大な単位での魔力の動き。

 恐らくこれが地脈の流れなのだろうと、クイシェは思っていた。

 世界を充たし包む、巨大な流れだ。


 大きすぎるが故に、凄まじい勢いとも、緩やかな流れとも感じられる魔力に包まれ、身を委ねていると、クイシェは自分ががちっぽけな存在だとすら思ってしまう。

 かつてこの感覚で得られるもののあまりの大きさに畏怖と畏敬の念を抱いて以来、数えるほどしか開いたことのない感覚だ。

  

(これは……魔力が、ミサギちゃんに流れ込んでる?)


 深鷺は真剣な表情で【虫】の術を使い続けている。コツを掴んだのか偶然か、かなりぎりぎりのラインで魔力を流し続けているようだ。


 そこら中を漂う無色透明の魔力塊は噴水の如く飛び出しており、この勢いであればいくら消費の少ない魔導術とはいえ、かなりの消耗となるはずだ。

 しかもあの掌魔導書は、意図的に消費量を増しているはずである。先ほどまで開いていた感覚から測定するに、深鷺が消費する魔力は秒間30点を超えていた。

 深鷺の魔力が数値通りであれば、3秒たらずで空になるはずの勢いだ。


 しかし、深鷺の魔力は常に100点。変動することはない。

 そして、その正体の一端が、クイシェには見えていた。


 違和感に遮られ、深鷺から得られる情報はやはり掴むことが出来ない。

 そのかわり、深鷺の周囲にある地脈の流れを感じ取ることで理解する。


 地脈の魔力が、深鷺に流れ込んでいるのだと。

 

 

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