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#46話:クアラ村会議中


 深鷺とクイシェがそれぞれの世界の遊びを紹介し合いながら一喜一憂しているころ、ギュランダムを初めとするこの村で一応の重役ということになっている面々が一堂に会していた。


 村の広場横にある円形の建造物、集会や宴会にも使われる広い部屋に10名ほどの村人が集まっている。

 見た目には若い者もいれば年寄りもいて、人間もいれば獣人もいる。まったく統一性は感じられない。

 重役といっても上司であったり古参メンバーだったりというわけではなく、単に面倒事を引き受けているメンバー、という感じだ。

 

 円座して語らう彼らの中心にはミラナが座っている。両手両足を縛られた状態で、彼女は淡々と喋っていた。

 

「ギュランダムはこういうプレイがお好み」

「嫌いとは言わんが、違うわ! お主は縛り付けておかんと逃げるじゃろうが!」

「縛り付けてでも離したくない。これはもうプロポーズ」


 暖簾に腕押しするかのような会話だが、ミラナはお約束としてこういったやり取りで満足させてからでないとまともに取り合ってくれないので、ギュランダムは仕方なく付き合っていた。

 回りの重役たちも慣れたもので、その光景を生暖かい目で眺めていたり、全然違う雑談で待ち時間を潰していたりする。

 

 今日の会議の議題は「ミサギについて」だ。深鷺の“なに”についてなのかは、特に限定されていない。

 

 しかし、今は会議というより、尋問の時間というべきか。

 話し合いは一時中断され、縛られたミラナが昨日の暴挙について問われていた。


「さあ、そろそろキリキリはいてもらおうかの……」


 若干疲れた声を出すギュランダム。対して、変わらぬ無表情にどことなく満足げな雰囲気を漂わせているミラナは、ようやくギュランダムの言葉に従い、洗いざらい話し始めた。


「初日、あの黒髪が起きたらすぐに尋問しようと思ってた」


 内容は、深鷺に対してしたことと、しようと思っていたことの全てだ。


「クイシェが部屋に残ると言うから次の機会に回すことにした。以後も監視を続けている。いざというときのために毛髪を確保した。似顔絵も用意してある」


 逃亡時の追跡用に、とのことだ。似顔絵は上手く描けている。


「足運びなどは素人に見えるけど、少なくともなにか運動の経験があるはず」

「その時点で違うとは思わんかったのか」

「あえて訓練をしないことで偽装する手もある。殺すだけなら限定的な訓練でも充分可能。情報を集めるだけならそれも不要。それに、走る能力だけでもあれば逃亡に有利」


 ミラナの告白は続く。


「何らかの行動に出ると、どうしてもクイシェには気が付かれると判断した」


 クイシェの超感覚から逃れる術は、さすがの元暗殺者でも持ち合わせていないらしい。


「彼女に邪魔されないためには村を離れてもらうのが一番」


 ミラナは深鷺の救出騒ぎのときに耳にした、深鷺が隠れていたという穴の話を聞いて、以前にキルエイから聞いたことがある擬態魔獣(ミミック)の話を思い出したという。

 それは魔獣【嵌り岩】は金になるという話だ。財務担当のキルエイにその話を思い出させれば、当然狩猟するという流れになると予想した。


「ミミック相手ならクイシェを推すのは当然だからな……」


 不機嫌そうに答えたのは、キルエイと呼ばれた男だ。

 彼は常に不機嫌そうな顔をした狐系の獣人である。歳は青年から中年への移行期といったところ。獣人なので、実年齢は60前後だろうか。

 

 くすんだ狐色の毛をオールバックにしている。瞳は青色。頭部に耳は生えていないが、腰からは狐のモノである尻尾が生えており、口の回りが髭のように獣毛が生えている。それとは別に狐の髭も生えていた。

 全体的に獣度合いの高い容姿である。

 

 まんまと茶番の片棒を担いだ形になってしまったキルエイは、仏頂面でミラナの視線を受け止めるが、ミラナはとんでもないことを言い放った。 


「つまり悪いのはキルエイで、わたしじゃない」

「なんでそうなる!?」


 キルエイは当然の反応を返したが、言われたミラナはなぜか肩を落とす。


「……やっぱりわたしには魅力がない」

「いや、いきなり何の話じゃ」


 ギュランダムは、昨日も似たようなことを言っておったな、と思いつつ理由を問う。ミラナはギュランダムに向き直り、


「魅力的な女ならこんな無理でも通すことができるはず」

「なんだその悪女の発想」


 キルエイの問いには、湯上がりでしっとりしているフリネラが答えた。


「あ、あたしが教えたかもー」

「お前かよ!?」

「いやー、まさか本気にするとはー」


 余計なことを、いいじゃんべつにー、静かにしろ、などとにわかに騒がしくなった集会部屋だが、議長を務めるギュランダムが本題にもどす。


「あー、さて。ミラナの暴走についてはこれくらいで良いかの……。まあとにかく、今後ミサギにスパイだの暗殺者だのとちょっかいをかけるのはやめるんじゃ。わかったなミラナ」

「キスしたらやめる」

「さて、それでミサギに関することじゃが、なにかあるかの?」


 目を閉じて口づけを待つミラナを完全に放置して話を続けるギュランダム。フリネラがなぜかブーイングするが、それも無視する。


「はーい」


 ブーイングをやめたフリネラが手をあげた。


「なにかっていうか、ギュランダムがいちゃついてるあいだに結論は出たわー。ミーちゃんは良い子よー? それに研究のお手伝いもしっかりやってくれるし、働き者でとっても助かってるわー」


 クアラ村は隠れ里のようなものだ。ワケありなはぐれ者が多く住んでいて、その中には犯罪者ではないにせよ、追われる身である者も少なからずいるため、ここが研究村であることは外部に知られてはならない。

 そのため一般的な研究施設とは違い、なかなか人員を増やすことができずにいる。人の流れが多ければ、秘密を守ることは難しくなるからだ。


 村の存在自体を隠蔽しているわけではないが、普通の山村のフリをする程度の偽装は行われている。

 人員を増やすと村の人口が不自然になり、人が多ければそれだけでも食糧などの物資にも問題が出る。


 そこで不足するのは助手的な存在だ。ほとんどの研究者が個人でそれぞれの専門分野を研究しているこの村には、各個の研究をサポートする要員がほぼ存在していない。

 今までそのポジションにはクイシェだけがいて、どうしてもそれ以上の人手が必要な場合は、他の研究者にヘルプを頼む形になっていた。

 あとは誰でもできる単純作業などであっても、全て研究者たち自身でこなさなければならず、その意味では効率が悪い環境なのだ。


 それでも様々な分野の研究者がひとつの村に集まっているため技術や知識が豊富で、研究内容にも口を出されず好きな事に打ち込めるという大きなメリットを持つこの村から出て行こうと考えるような村人はいない。

 そもそもが、好き勝手出来るからやってきました、というような集まりではないのだが――――


 なんにせよ、人手不足はどうにかしたい問題だと皆が常に思っていることだ。

 

 そこへ突然やってきた深鷺は、完全な素人とはいえ要領が悪いわけでもなく熱心に働いた。

 村に現時点で2人しかいない子供である、という点を差し引いても、村人達は深鷺のことをかなり好意的に見ている。

 深鷺は興味を持っていろいろと話を聞いてくるので、研究者としても語り甲斐のある相手なのだ。


 さらに、深鷺の持つ知識は彼らの研究に多くの影響を与えていた。数百年は先のレベルの文化を片鱗だけでも伝えられる深鷺のアドバイスは、クイシェの能力に勝るとも劣らない成果を上げるだろう。

 深鷺がこの村にやってきてそれほど時間は過ぎていない。助手として研究に関わったものも10件に満たないが、それだけでもすでに先を期待できるほどの実績を築いているのだ。

 

 “そういった意味でも”深鷺の力になりたいと思う村人は多いだろう。

 

「うむ。今後この村がミサギに力を貸してゆく、というのは皆の共通意見で良いかの……グリースターはどうじゃ」

「ふん……ワシとしちゃあ研究中の結界をことごとくくぶっ壊しやがったヤツのことなんざ放っておきたいね。だが、アンタがそう言うなら別に文句はないさ」


 不機嫌そうに答えたのは、老人とは思えない筋肉質な男だ。ギュランダムとは違い、肉厚な印象の肉体を持っている。白髭白髪頭なのはギュランダムと揃いだが、背は平均よりも小さい。木こりでもやっていそうな腕の太さだが、木こりでも狩人でもなく、れっきとした術師だ。

 獣的要素は全くなく、人間である。


「べつに悪気があったわけじゃないんだから、そんなにつんけんしなくてもいいじゃないー」

「ワシは帰ってきたばかりだ。顔も見てねえってのに判断なんざできねえよ。今後の態度次第だな。それで、そのミサギってのは故郷に帰りたいんだったか?」


 グリースターの質問に、ギュランダムが答えた。


「そうじゃ。しかもその故郷はこの世界ではない、別の世界にある国だという話じゃ」

「なんだそりゃ?」

「お風呂の国らしいのよ。わたしも一緒についていきたいわー」


 フリネラの暢気な声とは反対に、キルエイは真剣な面持ちで宣言する。


「異なる世界か――道があるかも定かでない土地を目指すだろうミサギにどれほど手助けができるかはわからんが、我らはこの国に救われ、守られた者の集まりだ。役割を果たすためなら金にも糸目は付けないと誓おう」


 ギュランダムはその言葉を受けて、今後の予定のひとつを答える。


「うまくいけば明日にはミサギがどう“特別”なのかわかるじゃろう」

「ふん。特別といわれてもな。最近じゃあそうそう驚くこともなくなってきたぜ?」

「わからんぞ? グリースター。 あるいはクイシェをも越える驚きがまっているやもしれん――――」



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