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#45話:場違いな子供、気遣いな子供


 クイシェが異変を感じ取ったのは、実験浴場から出てすぐのことだった。

 どうも村の方が騒がしい。

 

 気になって意識を向けると、クイシェの超感覚は大量の魔術が使われているのを感じた。どうやらクジールの家の方角である。

 

(何かあったのかな……!?)


 深鷺のことが心配になり、駆け足で向かった先には人だかりがあった。そしてそれ以上に目に留まったのは、昼間だというのにその存在をハッキリと主張する大量の光球だった。

 

 クジールの家があるはずの場所はその光球に覆われていて、眩しくて直視できない状態になっている。


 人だかりはどうやら、実験でトラブルを起こしたらしいクジールの家を眺めている野次馬のようだ。

 

「クジールなにやってんだ?」

「眩しいわぁ」

「これはこれで綺麗、というか迫力があるな……ふむ……」

「お騒がせしてすみませんーっ」


 最後の台詞は深鷺のものだった。

 クイシェは声のした方に深鷺の違和感もあることを確認する。家をぐるりと回り込む形で移動すると、眩い光のちょうど反対で深鷺が謝罪しながら歩き回っているところだった。

 

 

  ◇

 

 

 光球まみれの家から少し離れた位置の屋外で、クイシェと深鷺、そしてクジールの三人が立ち話をしている。

 

「調子に乗っちゃってすみません」

「いやいや、初めて魔術を使ったときの嬉しい気持ちはよくわかってるから。ただ、今回のは無害な術だからいいけど、以後は気をつけるようにね」


 実験中は上機嫌だったろう深鷺は、今は反省してしょんぼりしていた。

 深鷺の生み出した光球は効果時間やサイズを込められた魔力量に比例して拡大する形式だったため、光球のサイズは少しずつしぼんでゆくことになる。

 

 しかし、眩しくて視認は出来ないがかなり巨大なものも生み出されているらしく、しばらくは研究所の中では眼も開けられない状態になってしまっていた。

 

 クイシェが感知した限りでは、最も大きいもので一部屋が埋まるほどのサイズがあるようだ。

 おそらく夜までには消えるので、クジールが寝床に困ることはないだろうと説明されたが、それを聞いて安心していいものなのかと悩みつつ、クジールにもう一度謝る深鷺。

 

 幸いというべきか、今日はあの光が生み出せればそれで充分とのことだったので、お手伝い自体は完遂ということになった。

 続きは明日ということで、深鷺はヒマになる。

 

「他にお手伝いあるかな?」

「あ、フリネラさんから伝言があるの。『今日は時間が余ったら自由にしてていいわー。でも夕方にお風呂に入りに来てくれると嬉しいかもー』だって」

「あ、そうなんだ。どうしよう……言葉の勉強するかなあ……」

「……あ、あの、ミサギちゃん、よかったら、わたしと遊ばない?」

「あそび……って、遊び? いいの?」


 クイシェはクイシェで色々と仕事というか、研究することがあることを知っている深鷺としては、【言語移植(フレンズチャット)】であれ言葉の勉強であれ、自分に付き合わせるのは悪いと思っているのだ。

 クイシェが付き添ってくれたり、こうして誘ってくれたりするのは嬉しいが、深鷺は申し訳ない気分になってしまう。


 こうして深鷺が遊びの誘いに躊躇してしまうのは、自分が村やクイシェに助けて貰っている身であるということのほかに、この村の雰囲気に呑まれているというのもあった。


 住人達は研究者だらけで、大なり小なり研究漬けの暮らしを送っている。コミュニケーションが全くないというわけではないが、一日のほとんどは自分の研究所で過ごしているだろう。


 そんな中で深鷺は、場違いな子供が1人でオフィスビルにでも紛れ込んでいるような気分になるのだ。

 

 手伝いをしているときはまだいいのだが、手伝いをしていないと自分だけが浮いているような気になってくる。なにせ、この村には子供がクイシェと自分しかいないのだ。

 大人ばかりに囲まれ、見た目に限ってみても5つは離れているようなお兄さんお姉さんしかいない。しかも彼らの実年齢は見た目の倍である。

 そしてクイシェも大人と変わりない働きを、あるいはその才能からそれ以上の働きを見せているように思える。


 回りには同世代ばかりという学校で過ごしていた深鷺には、そういった意味では居心地の悪さを感じる環境だ。

 

 仮にここが普通の村だったとしても、たとえば農村などであれば、やはり子供も労働力として活躍するのだろうから、その感覚はこの村に限ったことではないのかもしれないが、子供の数が多い分落ち着くものもあっただろう。

 

  実際は住人達にも飲食や遊戯などの娯楽が存在しているのだが、深鷺はあまりそれらを見る機会がなかった。

 

 深鷺はこの村と村人達に深い安心感を憶えているが、それと村の雰囲気になじめるかどうかはまた別の問題であるらしい。

 

「うん。よかったら、で、いいんだけど……」


 だが、せっかくクイシェが誘ってくれているのだ。深鷺はそれを断れるほどの理由は持ち合わせていなかった。


「うん、いいよ! 誘ってくれてありがと!」

 

 

  ↑↓

 

 

 クイシェはほっと息を吐いた。

 先ほどフリネラと話していて気が付いたのだが、深鷺はこの世界に来てからというもの、トラブルに遭うかお手伝いをするばかりで、息抜き的な事を何もしようとしていないように思えたのだ。

 お手伝いがない日も言葉の勉強をしていた。

 たまには遊んだりゆっくりしないと、気疲れしてしまうだろう。


(ミサギちゃんはきっと頑張りすぎ……だよね)


 どうも深鷺は、助けられているということを気にしすぎている気がする。

 働かざるもの食うべからず、とも言っていたが、実のところ深鷺の手伝いで研究者達が得ている利益を考えれば、少しくらいゆっくりするのは当然だとクイシェは思うのだ。

 

 深鷺が来てまだ一週間ほどしか過ぎていないが、深鷺のアドバイスや異世界の話のおかげで進んだ研究やその副産物は、この短い時間にしてはかなりの量になっているはずだった。


 クイシェ自身は自分の仕事に集中気味で詳しく聞いているわけではないが、先日聞いた話では今年の“竜臨祭”に出店する遊具のアイディアも深鷺が出したのだそうだ。

 くじ運が無く出店担当になってしまった研究者は、本来自分の研究に使う時間を削ってなにかしらアイディアをひねり出さなければならないのだが、今回はそれを深鷺があっさり解決してくれたことになるわけだ。


 そのことだけでも深鷺は活躍していると言えるし、実際はそれくらいでは済まないだろう。

 

 金銭的な事に限ったとしても、ついさっき浸かってきたお風呂の入浴剤などは今後商売になるんじゃないかと考える。

 クイシェは商売の事はよくわからないし、フリネラは恐らくお風呂の普及以外に興味がないだろうが、あれはそれなりの利益をこの村や国に与えることになるんじゃないだろうか。

 

 それに、こじつけるように言ってしまえば、昨日狩猟してきた嵌り岩だって深鷺がきっかけで捕まえることになったのだと、キルエイから聞いていた事を思い出した。

 村の財務担当者のことを思い浮かべたところで、別の記憶が引っかかる。

 

(そうだ……ミサギちゃん、結界を壊したことも気にしてたよね)


 もし深鷺の貢献がお金に換算できるなら、それを教えてあげたら少しは気が軽くなるかもしれない。

 

(あとでキルエイさんに、どれくらいお金になりそうか聞いてみよう)

 

 深鷺のためにできることを、もう少し広い視野で頑張ってみようと決心したクイシェだった。

 

 

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