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#17話:獣人と髪の色

 

 

「あ、フリネラさん。こんにちは」

「こんにちは」

 

 クイシェと深鷺(みさぎ)が挨拶すると、呆れ顔が一変、笑顔で軽く手を振るフリネラ。


「こんにちは2人ともー、なんの話してたのー? あのバカどもがうるさくて聞こえなかったんだー。ていうか、クーちゃんも遠慮無く吹っ飛ばせばいいのにー」

「え、一応お師匠様とカウスおじさんさんですし……あの、ミサギちゃんが獣人について教えて欲しいって……でもわたし説明下手で」


 しょんぼりとしているクイシェの頭に、ポンと手を置くフリネラ。

 獣人に、直にそういうことを聞いても良いのかを悩んでいた深鷺だったが、そのことも含めてフリネラに訪ねてみた。


「あー、確かにそういうことを気にするのも、いるにはいるけど、この村にはいないねー。この国、差別とかないしー」


 それにしてもほんとーになんにも知らないんだねー、と深鷺を不思議そうに見るフリネラ。


「まあ、根っこから説明しようとすると“魔族”とかの話からしないといけないし、とりあえず簡単な特徴とか、見分け方を教えてあげれば良いんじゃないかなー」 

「うん、簡単にで良いから、説明してくれたら嬉しいな」

「ありがとう、ミサギちゃん」


 改めてクイシェは説明を始めた。

 獣人は獣の要素を持つ人間である。

 基本的に人のシルエットに耳や尻尾、体毛や爪が生えたものが大半で、4つ足で歩くような獣人はほとんどおらず、指が獣のように不自由であることもない。獣と人を、人間寄りに掛け合わせたような存在だ。

 種類差、個体差はあれど、その多くは人よりも強靱な肉体を持ち、また寿命は人の約2倍ほどであることが多い。

 例外的にかなり長命な種も存在しているようだが、逆に人よりも短命であることはないという。

 

「はーい、ここであたしに注目ー。さて、あたしは何歳に見えるー?」


 深鷺はフリネラをじっくりと観察してみた。

 そして、この世界の年齢の計算方法を知らないことに思い当たる。


「えーと……ちなみにだけど、クイシェちゃんはいくつなの?」


 自分よりも小柄でかわいらしいクイシェを見ながら、11、12くらいかなーと予想する深鷺。


「わ、わたし? あの、15だけど……」

「え……」


 思わず意外さを声に出してしまった。


「……ああ、そうだ。この世界の1年って何日?」

「360日だよ?」


 1年は12の月、1月は30の日、1日は24時間で分けられているという。深鷺の知る(こよみ)とほとんど変わりない。


(…………年上だ!?)

 

 平均身長ほどである自分より目線が低く、雰囲気からもてっきり年下だと思っていたクイシェは、1つ上だった。


(いや、まあ同学年という可能性もあるか)


「ミサギちゃんはいくつなの?」

「えーと、14だよ」

「あ、そうなんだ」


 途端、両手を合わせて嬉しそうな表情になるクイシェ。


「同い年くらいかなって思ってたんだけど、当たってた」


 深鷺はクイシェから見れば同い年だったのかと、正解を喜ぶクイシェを見て思う。

 しかしクイシェは、年齢が当たっていたことではなくほぼ同い年だということを喜んでいるのだった。友達は同世代で作るものだという、今まで読んだ物語から得たイメージに基づくものだ。

 深鷺は内心驚いてはいたものの、1つ2つの年の差なんて気にするような性格でもない。今更それで接し方を変えるというのもない話だった。


 深鷺は頭を切り換えてフリネラの年齢を考える。


「えーと、ということは……」


 クイシェの年齢見積もりに誤差があったとはいえ、現代の人類と見た目的にはそう変わらないと判断し、人種や世界は違えど、雰囲気なども考慮した結果、深鷺はフリネラの年齢を20代前半と予想した。


(にじゅう)……()、くらいに見えます」

「正解ー!」


 ぱちぱちーと手を軽く叩くフリネラ。このジェスチャー、この世界でも通用するんだ、と深鷺は思った。親指同士を付けたまま指先だけで叩いているという違いがあるが、それが単にフリネラの個性なのか共通の習慣なのかはわからない。

 そういえばクイシェから借りてる言語知識にも拍手という単語があるな、と言葉を確認した。


「といっても、22才ってわけじゃないわよー? 本当は44才ね。獣人の見た目と年齢の差はちょうど倍掛けなことが多いから。だから、正解ー」


 深鷺にはとても信じられなかったが、本人がそうだというのだからそうなのだろう。

 この若さで44才。完全に親の世代である。

 肌年齢とかを気にし始めていた母が聞いたらどんな顔をするだろうか。


「まあそんな感じねー。あと、見た目あんまり人間と変わらない獣人の見分け方だけどー」

「見た目が変わらないって……どういうことですか?」


 説明するのはクイシェの仕事、と目配せするフリネラに従い、深鷺はクイシェの方を向く。


「あ、あのね、耳とか目とか、目立つところにあんまり特徴がないと見分けが付きにくいことがあるの」

「ああ……尻尾とか、服で隠れちゃうって事か」

「うん、そういう場合は色を見ればわかりやすいの」

「色って……髪の毛の色?」

「人間なら金か銀か銅の3種類しかないから、それ以外の色は基本的に獣人か“魔従士”なの」

「そうなんだー……魔従士?」


 また新しい言葉が出てきて興味が向き始める深鷺。しかし一気に聞いても憶えられるか自信はない。


「うーん、常識って、改めて説明するの難しいもんだねー。まあ、魔従士のことはまた今度ー」


(難しいというか、面倒くさいよね、きっと……)


 説明されている立場として申し訳ない深鷺だったが、知らないモノは仕方がないのだと2人のことをありがたく思いながら、クイシェの説明にしっかりと耳を傾ける。


「獣人の色は灰色か茶系がほとんど。あとは柄があったりもする……かな。わたしもこの村でしか獣人を見たことがないから……」

「ま、村の外でもだいたいそんな感じねー。そして、説明させておいてなんだけど、この見分け方はあんまりあてにならない場合も多いかな」


 あえて見分けられないようにしている獣人は、そもそも髪の色まで染めるなりして変えている可能性が高い。逆に、人間が髪を染めている場合もある。あと、老いてしまえば皆白髪である。


「ち、近くでしっかり見たら、ばれちゃうかもしれないけど……」


 そもそも、この国では獣人や人間がその種族を隠さなければならないような要因がないため、このあたりで暮らす分には知らなくとも困らない知識ではあるという。


「なるほど……説明ありがと、クイシェちゃん」

「う、うん。どういたしまして」


 今度はもっとうまく説明できるようになろうと決心するクイシェだった。


「ところで、クイシェちゃんの場合はどうなるの? 髪の毛、まるで水晶みたいで凄く綺麗だけど……テンシ?」

「テンシじゃないよぅ」

「……テンシってなあにー?」


 クイシェには天使がどういった存在であるかは説明済みである。深鷺の独断と偏見に基づいた天使像からは『天の使いである』という根幹部分がすっぽり抜け落ちていたが。


「なるほど、確かにクーちゃんならテンシがぴったりねー」

「フリネラさんー……」


 照れながら下を向くクイシェをつつくフリネラ。


「ええとね、わたしの髪はさっき言った魔従士の関係で、キーちゃんのおかげなの」

「あ、キーちゃん、やっぱり関係あるんだ」


 名前を呼ばれたからか、クイシェの服の中から水晶色の毛玉、ネズミのキーちゃんが現れた。


「キーちゃんと契約して、この髪にしてもらったの」

「契約かあ。えーと……使い魔? でいいのかな」


 魔従士という響きから連想した深鷺のファンタジー的知識と【言語移植】によって与えられた言語知識がすぐに結びついた。


「あ、うん。合ってるよ。でも、キーちゃんは友達だよ」

「わかってるよー」


 なぜか自分には懐いてくれない水晶色のネズミ。クイシェの掌でキラキラと光を反射している。


(似合ってるなー……どうしてわたしからは逃げちゃうのー?)


 指を近づけるとクイシェの腕を駆け上り、髪の毛の中に隠れてしまった。同じ色なのでとても見づらい。もしかして定番の隠れ場所なのだろうか。

 

 深鷺はもう少し詳しい話を聞いてみたかったのだが、キーに気を取られている間にフリネラが会話を締めてしまった。


「ま、説明事はこれくらいにして、ちょっとお姉さんに付き合ってくれるかなー?」

「あ、お手伝いですよね」


 そういえばお仕事を貰いに来たのだったと、本来の目的を思い出して気持ちを切り替える深鷺。

 その通りー、と嬉しそうに深鷺の両肩を掴むフリネラは、期待に満ちた笑顔で確認する。


「なんでもミサギちゃん……、お風呂の国からやってきたらしいじゃない?」



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