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#16話:師匠と狩人を傍観するの巻



 結界が壊れる条件の検証や形状ごとの壊れ方の違いなど、いろいろと実験に付き合い午前中を過ごした深鷺(みさぎ)

 午後は昨日と同じく村の手伝いをしようと、フリネラとの待ち合わせ場所である広場にやってきていた。クイシェはギュランダムの手伝いがあるらしかったが、すぐに合流するとのことだ。

 フリネラがやってくるまではとくにするべきこともなく、あたりを眺めながら村の脳内地図を再確認などしていると、犬耳を生やした背の高い男から声を掛けられた。


「お、元気そうだな。大事なくてなによりだ」

「えーと……?」


 見覚えのない犬耳の青年は、カウスと名乗った。灰色の髪に紫の瞳。引き締まった体に数種類の毛皮が使われた頑丈そうな上着を着て、背中に弓を背負い、腰には短刀を差している。


「あ! わたしを山から運んでくれた人!」


 見覚えはなかったが、クイシェから聞いていた名前と特徴が一致した。


「憶えてないんですけど、昨日はお世話になりました」


 深々と頭を下げる深鷺。


「あーそうそう、あんときゃ悪かったな」

「悪かった?」

「いやほら、洞穴で裸見ちゃっただろ」

「そういうのは言わなくていいことだと思います」


 あのときは外にいたのが誰かなんて判別できる状態ではなかったのに、わざわざ自分から言い出すなんて、と恨めしく思いつつも恩人なので、この人はデリカシーがないのではなく正直者なのだ、ということにした。

 大差のない評価であるようにも思いつつ。


「とにかく、ありがとうございました」

「いやいや、礼はいいよ。俺は頼まれただけなんでね。礼ならクイシェに言ってくれ」


 じゃあ改めてクイシェちゃんにもお礼を言っておきます、と深鷺は慌てふためくクイシェを思い浮かべながら笑顔で答えた。

 ついでに、思い出した事があったので聞いてみる。


「あ……そういえばあのとき、なんて叫んでたんですか?」


 深鷺は自分が穴に隠れていた時の話題から、クイシェに助けられる直前に聞こえた奇声を思い出していた。

 素っ頓狂な声だったが、いったいどんな事を叫んでいたのだろうと気になったのだ。

 どんな内容だったかを憶えていれば、【言語移植】の効果があるいま、思い出して内容を理解することもできただろうが、さすがにあのときは内容を記憶できるような状況ではなかった。

 カウスが答える。

 

「ん? ああ、それは俺の声じゃなくてあのエロジ」

「ダラッシャー!!」

「うがぁッ!?」


 突如、側面からドロップキックをぶちかましたギュランダムによってカウスは視界外へ飛んでいった。

 反射的にその姿を追った深鷺は、10メートル近く離れた位置で転がるカウスを捉えた。すぐさま跳ね起きたカウスがギュランダムに向かって怒声を上げる。


「いきなりなにしやがんだこのクソエロジジイ!」

「貴様何を言おうとした! 言って良いことと悪いことの区別もつかんのか!」


(……ん?)


 深鷺はカウスの体が一瞬光ったように感じた。


 カウスはギュランダムへと飛びかかり、体重をのせた右の拳を左頬へ向けて突き出す。

 ギュランダムはその拳を左手で受け止め、右手でカウスの右腕を掴もうとするが、逆にカウスの左手に掴まれた。


「やって良いことと悪いことの区別を付けてからいいやがれ!」

「誰にでもミスはある!」

「テメーの場合どれがミスでどれが本気なのかもわかんねーよ!」


 そのまま殴り合いを始めた2人。

 なんとなく事態を把握した深鷺は、師匠に遅れてやってきたクイシェへと向き直る。


「……ええと、おまたせ。ミサギちゃん」

「あー……あれは、仲が良い……のかな……?」

「えーと…………」


 クイシェがなにを言うべきか迷っているようだったので、深鷺は自分から話しかけることにした。とはいえ深鷺も殴り合いが気になって落ち着かない。

 なにか良い言葉が思い付くわけでもなく、とりあえず先ほどの一件を済ませることにした。お礼を伝える場面にしては微妙な空気を醸し出していたが。

 

「あ、あのね、カウスさんが、わたしを運んだお礼はクイシェちゃんにって」

「あ、ううん、ぜんぜんいいよ。そんな」


 深鷺の後ろで行われている格闘戦が気になって、いまいち反応が悪いクイシェ。クイシェは深鷺とは違い、ケンカ自体ではなく“深鷺の目の前でケンカをされていること”を気にしていたりする。

 深鷺もケンカがどうなるのか気になり、クイシェの横に並んで見物モードに入る。

 お互いの拳が頬に突き刺さった。見事なクロスカウンターだ。そこからも互いにボディーブロー、アッパー、ストレート、多彩な殴り方がお互いに乱れ飛ぶ。


「お師匠さん、年のわりにすっごいね……?」


 ギュランダムは白髪白髭でシワも豊富な、見た目完全に老人であるにもかかわらず、破れたローブから見える肉体は筋骨隆々としていた。マッチョで肉厚という印象ではなく、樹木のように絞られた強靱な筋肉だ。

 クイシェは何かを躊躇するように、質問に答える。

 

「あの……お師匠様も一応、獣人だから」

「え、そうなの? というか、そうだ。獣人さんたちについて聞きたかったんだけどすっかり忘れてた」


 昨日の夜に聞こうと思っていたのに、と思い出した深鷺はいま聞いてしまうことにした。


「そっか、獣人はミサギちゃんの国……世界にはいなかったんだ?」

「うん、わたしのところは肌の色と髪の色が何種類かあるだけ。多少体質とか能力とかにも差があるようなような気がするけど、そんなに人種での大差はなかったかなー?」


 少なくとも殴っただけで人が吹っ飛ぶ程の差はなかったはず、と考える。それにお互い少なからずクリーンヒットしているのに、派手な見た目ほどはダメージを受けているように見えない。かといって手加減しているようにも見えない。


 そして、ギュランダムの巨体を浮かせるほどの拳を振るうカウスもなかなかに異常だ。

 カウスが深鷺の感覚ではすでに平均以上の身長(耳は身長に含めていない)であるにも関わらず、ギュランダムは老人でありながらさらに頭1つ分高いのだ。2メートルを超えていて、腰も曲がっていない。


 この2人が特別に体を鍛えていて、頑丈なのだろうか。


「獣人って言うのは……うーんと、人間と魔獣が混ざった感じ」

「……ハーフってこと?」

「……ええと……合体……あ、融合だ。融合したの、2対1対1の割合で……」


(……スライム?)


 融合と聞いて、ドロドロしたものがくっついていく姿を連想した深鷺は、人がどろりとした魔獣に食べられていくようなようを思い浮かべてしまった。

 なおもクイシェの説明は続いていたが、微妙な顔をしていたのだろう、深鷺の表情を見て、クイシェは申し訳なさそうに謝り始めてしまった。


「ご、ごめんね、うまく説明できなく――――」

「【巻き風砲】っ!」

 

 クイシェの声をかき消すように響いた声。発動した魔導術が風の渦を撃ち出した。

 渦はケンカする2人をまとめて吹き飛ばし、2人は民家横に積み上げられた箱や樽の中へ突っ込み、そのまま崩れて下敷きになった。


(またなにか光った?)


 視界の外に光を感じた深鷺は、振り向く前にその声を聞いた。


「いい大人が子供の前でケンカなんかしてるんじゃないよまったくー」


 見れば、ネコ耳ネコ目ネコ尻尾のお姉さん、フリネラがそこにいた。

 

 

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