第6話 困った?ときの名前はやっぱり本名で
「ヒロシ、ヒロシ……鈴木博、です」
思わず本名で答える。
「そうですか、スズキヒロシさんですか?あまりお聞きしたことの無いお名前ですね。もしかして、このブランゲン王国のお方ではありませんか?ともかく、ありがとうございました」
そう言いながら老人はあたりを見回す。
「あー、馬車も馬もダメなようですね。どうしましょうか?」
見ると馬車に繋がれ、倒れている馬が悲しげにこちらを見ている。足が折れているようで、この先の死を予感しているのか、大きな目がうるんで泣いているようにも見える。助けてあげたい。その気持ちが強くなった。
「ヒール」
思わず手のひらを向けてつぶやく。すると、淡い光が放射され馬を包んだ。やがて、淡い光が無くなると馬がすっくと立ち上がった。少し先に倒れていた馬まで次々と起き上がる。全部で4頭。
『奇跡が起きた?』
「あの……お願いがあります」
涙を拭い、居住まいを正して、女の子が声をかけてきた。
「お礼はします。だから、みんなも……助けてください」
そんなこと言われても、初めてやっていることで、上手くいくかどうかもわからない。失敗した時のことを考えて僕は頷くこともせず、無言で全員の回復のイメージをし、その方向に手のひらを向ける。
「エリアヒール」
馬車の周り、半径4、5mに淡い光が立ち込め、それが消えると、うめいていた人々がまるでゾンビのように不思議そうな顔をして立ち上がる。
『なんか、すごい。魔法の世界だ』
自分で使っている実感がない。
立ち上がった人の様子を見ていたら、けだるさが襲ってきた。なんか、体が重い気がする。
女の子を見ると、視線が合った。僕を見る目がキラキラしている。今まで気づかなかったが、涙の跡の残る彼女の顔には擦り傷があり、うっすら血が出ている箇所もある。
「あー、君はまだ治していなかったね」
僕は彼女の方に手のひらを向けると、
「ヒール」
と、つぶやく。先程とは違った弱い光が彼女を包む。
傷が塞がっていく彼女の笑顔を見ていたら急に目の前が暗くなり、意識を手放した。




