前世は宇宙人なの
「ミラの前世は宇宙人なの」
プラネタリウムによく来る不思議ちゃん。
星や宇宙の話しかしないのに加えて、返事が独特なのも相まって、従業員からは『宇宙人ちゃん』というあだ名で親しまれている。
「あ、宇宙人ちゃんまた来たの?今日の上映も楽しかった?」
「星がキラキラしていたの。本物は光ってないの」
「あら、詳しいね〜。太陽の光を反射して光ってるように見えるんだよ」
「この星の人間と呼ばれる生物にはそう見えるの」
「そうなのよ〜」
こんな要領で、宇宙人ちゃんの中では芯の通った理屈があるらしい。
従業員用の休憩室。
軋んだパイプ椅子に腰を下ろす。
「前世は宇宙人……かぁ」
「あ〜宇宙人ちゃんのこと?あの子よく見るけど、親御さんは見たことないよねー」
「まぁでも、子どもだけで来る子はいるよね」
プラネタリウムの周りに保育園があるからか、子どもだけで来場することもある。
……とは言っても、子ども一人で来る子は宇宙人ちゃんぐらいだ。
「知ってる?小さい子って前世の記憶を持ってることがあるらしいよ」
「宇宙人ちゃんも口癖のように言ってるよね。『前世は宇宙人なの』って」
「本当に宇宙人だったのかもしれないね」
「いや〜でも、子どもが言う嘘でしょ。前世の記憶なんてありえない」
従業員達が思い思いの考えを述べる。
私は、前世の記憶は信じたいと思う派だ。
根拠とか理由とか小難しいのは分からないけど、存在してる方がロマンチックだと思う。
その日の夕方。
「──今日覚えた星を探してみてくださいね。以上で上映を終了します」
人間の世界から隔絶された、静寂と星の無機質さの中に宿る不思議な温かみはプラネタリウムならではの雰囲気。
電灯は灯され、宇宙と接続していたプラネタリウムは地球へと帰還する。
非日常から日常に戻った時のような仄かな寂しさ。
──宇宙に戻りたい。
偽物の宇宙じゃなくて、本物の宇宙に。
「お姉ちゃん。寂しいの?」
不意に声をかけられ、肩が跳ね上がる。
下を見ると小さな子どもの姿。
宇宙人ちゃんだ。
不思議と本音を取り繕う気は起きなかった。
「……うん。寂しいよ」
「お客さんがいっぱいなのになの?」
「お姉さんはね、宇宙が大好きで、憧れなんだ」
「──じゃあ、ミラが見せてあげるの」
どこかに漂っている。
真っ暗だけど、眩しく感じる。
大きな、大きな星だろうか。
「これは、太陽なの」
脳内に宇宙人ちゃんの声が響く。
あり得ない状況下だが、恐怖や不安がないどころか、心の揺らぎすら全くなく落ち着いている。
「赤とかオレンジ色に見えないけど、これが太陽?」
「地球にいる人間にはそう見えるだけなの」
太陽に触れてみる。
「あれ、触れない」
触れているとは思うが、雲を掴むような感覚だ。
熱さも全く感じない。
「次はここなの」
沢山の岩らしき物体がくるくると動き回っている。
先ほどよりも眩しく感じるが、見える景色にはあまり変化はない。
「これはミラなの」
「ミラ……ちゃん?どこにいるの?」
「違うの。この星がミラなの」
「……ミラってくじら座のミラのこと?」
「人間はそう呼んでるの」
見た目は太陽と同じ……とは言っても分かりやすく星の球体が見える訳ではない。
霧や雲の全体像が掴みにくいのに近い。
「ミラは最期まで一人だったの」
「最期って……もしかして星の最期って意味……かな?」
宇宙人ちゃんの、頷くイメージが伝わってきた。
宇宙人ちゃんの姿と見慣れたグレーの床。
それに、中心を向く方向で並べられた座席。
本物の宇宙じゃない。
プラネタリウムだ。
「お姉ちゃん。まだ寂しいの?」
「──ううん。寂しくないよ」
だって宇宙はいつもそばにいるから。




