第7章 評価と監視、そして新たな影
町に戻ったとき——
「おい、あれ……」
「嘘だろ……?」
門の前で、ざわめきが起きた。
蒼真たちの後ろには、オーガの巨大な体の一部——討伐の証があった。
「オーガ……?」
「Fランクの新人が……?」
ざわざわと声が広がる。
門番の一人が慌てて近づいてきた。
「お前ら……これ、本当に倒したのか?」
「はい」
リーナが答える。
「二人で」
「二人で……だと?」
明らかに信じていない顔。
でも、証拠は目の前にある。
「……とりあえず、ギルドに来い」
「ですよね」
蒼真は苦笑した。
ギルドに入った瞬間——
空気が一変した。
「帰ってきたぞ……!」
「オーガ討伐だってよ!」
一気に視線が集まる。
さっきとは比べものにならないざわめき。
「ちょ、ちょっと……すごいことになってる」
リーナが小声で言う。
「完全に目立ってるな」
むしろ目立ちすぎだ。
受付へ行くと、すぐに奥へ通された。
「ギルドマスターがお会いになります」
(来たか……)
案内された部屋は、静かで重厚な空気だった。
その中央に、一人の男が座っている。
年齢は四十代くらい。
落ち着いた雰囲気だが、ただ者じゃないと分かる。
「初めまして、だな」
低く、よく通る声。
「私はこのギルドの責任者——ギルドマスターだ」
「蒼真です」
「リーナです」
軽く頭を下げる。
ギルドマスターは、机の上の証明部位に目をやった。
「……確かに、オーガだ」
そして視線を蒼真に戻す。
「まず聞こう。これは本当に、君たち二人で?」
「はい」
「どうやって倒した?」
一瞬迷う。
でも——
「正直に言うと、よく分かってません」
「ほう?」
「ただ、動きを見て、隙をついて……」
「……それだけでオーガは倒せん」
鋭い指摘。
だが、嘘ではない。
「……」
しばらく沈黙が続く。
やがてギルドマスターは、椅子に深く座り直した。
「なるほどな」
「え?」
「少なくとも——“普通ではない”のは確かだ」
やっぱりそうなる。
「ソーマ、と言ったな」
「はい」
「君は今後、このギルドにとって重要な存在になる可能性がある」
「……」
いい意味か、悪い意味か分からない。
「だからこそ」
声のトーンが少しだけ重くなる。
「監視をつける」
「……え?」
リーナが驚く。
「監視って……」
「言葉通りだ。行動を記録させてもらう」
ギルドマスターは冷静に続ける。
「君の力は未知だ。放置するには危険すぎる」
(やっぱそうなるか……)
拒否できる雰囲気ではない。
「……分かりました」
「賢明だ」
小さく頷く。
「ただし、制限ばかりではない」
一枚の紙を差し出す。
「これは?」
「特別依頼だ」
「特別……?」
リーナが紙を覗き込む。
そして、
「え……これって……」
表情が変わる。
「どうした?」
蒼真も見る。
そこに書かれていたのは——
“異常個体の調査および討伐”
そして場所は——
「……あの森の奥?」
「そうだ」
ギルドマスターが言う。
「最近、通常ではありえない魔物の出現が報告されている」
「オーガもその一つだ」
つまり——
「あれ、偶然じゃなかったのか」
「おそらくな」
静かに頷く。
「そして我々は考えている」
一瞬、間を置く。
「“何者か”が裏で動いている可能性を」
(……やっぱり)
第6章で会ったあの男。
あれが頭をよぎる。
「この依頼、本来はもっと上位に回す予定だった」
「じゃあなんで……」
リーナが言いかける。
ギルドマスターは、まっすぐ蒼真を見た。
「君がいるからだ」
「……」
「君なら対処できる可能性がある」
評価されている。
でも同時に——
試されている。
「受けるかどうかは任せる」
そう言って、腕を組む。
「ただし、断れば通常の依頼に戻るだけだ」
静かな圧。
部屋の空気が重くなる。
リーナが小さく呟く。
「ソーマ……どうする?」
選択の瞬間。
普通に考えれば危険すぎる。
でも——
蒼真は、少しだけ笑った。
「……受けるよ」
「え?」
「どうせ気になるし」
それに——
「放っておいたら、また誰かが危ない目にあうかもしれない」
リーナは一瞬驚いたあと、
「……ほんと、お人好しだね」
苦笑する。
でも、その目はどこか嬉しそうだった。
「いいよ。私も行く」
「無理しなくていいぞ?」
「一人で行かせるわけないでしょ」
きっぱりと言う。
ギルドマスターは、その様子を見て小さく頷いた。
「決まりだな」
紙を机に置く。
「では任せる。——くれぐれも、死ぬなよ」
部屋を出たあと。
「……なんか大ごとになってきたね」
リーナがぽつりと呟く。
「だな」
軽く笑う蒼真。
でも心の中では——
(確実に“あいつ”が関係してる)
あの転生者。
そして、まだ見ぬ“他の存在”。
「なあリーナ」
「ん?」
「次の依頼、たぶん普通じゃない」
「うん、知ってる」
即答だった。
そして少しだけ笑う。
「でもさ」
剣の柄に手を置く。
「だからこそ、面白いんでしょ?」
「……違いない」
蒼真も頷く。
見えない力。
見えない敵。
そして——
見えない“真実”。
物語は、さらに深い闇へと進んでいく。




