第2章 はじめての町と“測れない強さ”
「……とりあえず、生き延びたな」
倒した狼を見下ろしながら、蒼真は息を吐いた。
改めて見ると、その体はかなり大きい。牙も鋭く、普通の人間ならまず勝てない相手だったはずだ。
「こんなのを素手で倒したのか、俺……」
やっぱり自分は強いらしい。
——“どれくらい”かは分からないけど。
「……腹減ったな」
緊張が解けた途端、現実的な問題が襲ってきた。
周りは森。食べ物になりそうなものも、どれが安全か分からない。
「とにかく、人がいるところ探すか」
太陽の位置を見て、なんとなく方角を決める。しばらく歩き続けると——
「……おっ」
森の切れ目の先に、石でできた壁が見えた。
町だ。
門の前には、鎧を着た男が二人立っていた。
いかにも“門番”という感じだ。
「止まれ。どこから来た?」
低い声で問いかけられる。
「えっと……旅人、です」
(いや絶対怪しいだろこれ…)
案の定、門番はじっと蒼真を見つめた。
服装も、この世界のものとは明らかに違う。
「身分証は?」
「ないです」
「……はぁ」
ため息をつかれた。
終わったかもしれない。
「じゃあ、簡単な確認をする。あっちの水晶に触れろ」
指さされた先には、透明な球体が置かれていた。
「これで“強さ”を測る。危険なやつじゃないか確認するためだ」
(きた……ステータス測定系)
でも——
「(見えないんだった…)」
蒼真は内心で苦笑する。
結果が出ても、自分には分からない。
「……どうした?早く触れろ」
「はい」
恐る恐る手を伸ばし、水晶に触れる。
次の瞬間——
バチッ!!
「!?」
小さな音とともに、水晶が一瞬だけ強く光った。
そして——
ピシッ
「……あ?」
ひびが入った。
門番たちの空気が一気に変わる。
「おい……今の見たか?」
「……ああ」
もう一度見直すように、水晶を確認する二人。
「壊れてるのか?」
「いや……さっきまでは正常だったはずだ」
(え、なにこれ、やばいやつ?)
蒼真の背中に嫌な汗が流れる。
すると門番の一人が、ゆっくりと口を開いた。
「……お前、名前は?」
「蒼真です」
「ソーマ、か……」
もう一人の門番が、少し警戒した様子で言う。
「普通、この水晶は数値が出るだけだ。だが——」
ひびの入った水晶を見つめる。
「“測れないほどの力”が流れ込むと、こうなることがある」
「……え?」
「つまりお前は——」
一瞬の沈黙。
そして、
「かなり危険な存在か、もしくは——規格外だ」
(いやどっちも嫌なんだけど!?)
空気がピリつく。
このままじゃ、町に入るどころか拘束されかねない。
その時——
「ちょっと待って」
後ろから声がした。
振り向くと、一人の少女が立っていた。
金色の髪をポニーテールに結び、軽装の鎧を身につけている。
年齢は蒼真と同じくらいか、少し上。
「その人、悪い人には見えないよ」
門番に向かって、はっきりと言い切った。
「リーナ、口出しするな。これは規則だ」
「分かってる。でも、この人から敵意は感じない」
少女——リーナは、まっすぐ蒼真を見る。
「それに、水晶が壊れたのは“制御できてない”だけかもしれない」
「……」
門番たちは顔を見合わせる。
少しの沈黙のあと、やがてため息をついた。
「……分かった。ただし条件付きだ」
「条件?」
「町の中では問題を起こすな。あと、ギルドで登録しろ。監視もつく」
「はい、それでいいです!」
即答だった。
入れるだけで十分だ。
門番は最後に一言付け加える。
「何かあれば、すぐ追い出すからな」
「了解です……」
こうして蒼真は、異世界で初めての町へと足を踏み入れた。
石畳の道。行き交う人々。屋台の匂い。武器や防具を身につけた冒険者たち。
すべてが新鮮だった。
「……すげえ」
思わず声が漏れる。
完全に“異世界”だ。
その横で、リーナが少しだけ笑った。
「初心者丸出しだね」
「まあ、そうかも」
苦笑する蒼真。
「助けてくれてありがとう。えっと……リーナ?」
「うん。私はリーナ。見ての通り、冒険者」
軽く胸を張る。
「で、ソーマは?」
「俺も……たぶん、これからなる予定」
「たぶんって何?」
「いろいろ事情があってさ」
スキルが見えないなんて言っても信じてもらえないだろう。
リーナは少し考えてから言った。
「じゃあさ」
「?」
「一緒にギルド行こうよ。登録、手伝ってあげる」
その言葉に、蒼真は少し驚く。
「いいの?」
「その代わり」
にやっと笑う。
「あとでちょっとだけ実力、見せてよ」
(やっぱりそうなるよな…)
でも——
「分かった」
逃げる理由もない。
むしろ、自分の力を知るチャンスだ。
「よし、決まり」
リーナはくるっと振り返る。
「じゃあ行こう。“冒険者ギルド”へ」
その背中を追いながら、蒼真は思う。
——この世界で初めての“つながり”。
そして同時に、
——自分の“見えない強さ”が試される場所。
物語は、さらに大きく動き出そうとしていた。




