第10章 見えない力の正体
「……終わった、のか」
森に静けさが戻る。
さっきまでの異様な気配が、嘘みたいに消えていた。
「ソーマ……」
リーナが少し不安そうに近づく。
「大丈夫?」
「ああ」
答えながらも、蒼真は自分の拳を見つめていた。
(あの感覚……)
さっきの一撃。
明らかに、今までとは違った。
“ただの力”じゃない。
何か——もっと根本的なものを叩いたような感覚。
「ねえ」
リーナが真剣な顔で言う。
「さっきの……何?」
「……分からない」
正直に答える。
「でも」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「“壊した”って感じだった」
「壊した……?」
「ただ殴ったんじゃない」
核そのものの“存在”を壊したような——
そんな感覚。
「……やっぱり普通じゃないね」
リーナは苦笑する。
でもその目は、どこか納得していた。
町へ戻ると、すぐにギルドへ呼ばれた。
「報告は聞いた」
ギルドマスターは腕を組み、静かに言う。
「異常個体の核を破壊……か」
「はい」
「そして、“あの男”も現れたと」
「……知ってるんですか?」
蒼真が聞く。
すると、ギルドマスターは一瞬だけ目を細めた。
「噂程度にはな」
「転生者の一人だ」
やっぱりか。
「名は分かっていない。ただ——」
少しだけ声を落とす。
「“実験者”と呼ばれている」
「そのまんまだな……」
蒼真が呟く。
「奴は各地で同じようなことをしている可能性がある」
「つまり……」
「今回の件も、その一つだろう」
リーナが拳を握る。
「許せない……」
ギルドマスターは続ける。
「だが問題はそこだけじゃない」
そして——
まっすぐ蒼真を見る。
「ソーマ」
「はい」
「君の力だ」
やっぱり来た。
「……やはり、普通のスキルではないのか」
「多分」
「スキルもステータスも見えないって言いましたよね」
「ああ」
ギルドマスターは深く息を吐く。
「その話を聞いて、一つ心当たりがある」
「え?」
「古い記録だ」
引き出しから、一冊の古びた本を取り出す。
「この世界には、ごく稀に“例外”が現れる」
「例外……」
「スキルに依存しない存在」
ページをめくる。
そこに書かれていたのは——
“理を越える者イレギュラー”
「……なんだそれ」
蒼真が眉をひそめる。
「通常、この世界の人間は“スキル”という枠の中で成長する」
「だが例外は違う」
「枠そのものに縛られない」
リーナが小さく呟く。
「……ソーマみたいな?」
「その可能性がある」
ギルドマスターは頷く。
「そして——」
ページを指で叩く。
「この存在は、過去に一度だけ記録されている」
「一度だけ?」
「そうだ」
重い沈黙。
「その者は——」
一瞬、言葉を止める。
「“世界の均衡を崩しかけた”」
「……っ」
空気が張り詰める。
「強すぎたのか?」
蒼真が聞く。
「それもある」
「だが本質は違う」
ギルドマスターの目が鋭くなる。
「“壊せてしまった”のだ」
「……何を」
「スキルそのものを」
「……は?」
意味が分からない。
「スキルを壊すって……」
リーナも困惑している。
「スキルは、この世界の根幹だ」
「それを破壊するということは——」
「ルールを壊すのと同じだ」
蒼真は、さっきの感覚を思い出す。
(核を壊した時……)
ただの物体じゃなかった。
“仕組み”を壊したような感覚。
「……まさか」
小さく呟く。
「俺のあれって……」
「可能性は高い」
ギルドマスターが静かに言う。
「君は“存在そのものに干渉している”のかもしれない」
「……」
言葉が出ない。
スケールが大きすぎる。
「でもさ」
リーナが口を開く。
「それって、悪いことなの?」
ギルドマスターは少し考えた。
「一概には言えん」
「だが——」
視線を蒼真に向ける。
「扱いを誤れば、危険だ」
「……」
分かってる。
そんな気はしていた。
「ソーマ」
リーナが真っ直ぐ見る。
「あなたはどうしたいの?」
「どうしたい、って?」
「その力で」
少しだけ間を置く。
「何をするのか」
その問いは、シンプルだけど重かった。
戦うための力なのか。
守るための力なのか。
それとも——
「……まだ分からない」
正直に答える。
「でも」
拳を握る。
「少なくとも」
ゆっくりと言う。
「誰かが好き勝手に壊すのは、止めたい」
——あの男みたいに。
リーナは少しだけ笑った。
「うん、それなら安心」
「私も手伝うよ」
その言葉に、蒼真は少し驚く。
「いいのか?」
「当たり前でしょ」
軽く肩をすくめる。
「もう仲間なんだから」
「……」
ちょっとだけ、嬉しかった。
その夜。
ギルドの屋上。
一人、空を見上げる蒼真。
(理を壊す力……か)
まだ実感はない。
でも——
確実に、自分は普通じゃない。
その時。
「悩んでる?」
後ろから声。
振り向くと、リーナがいた。
「まあな」
「そりゃそうだよね」
隣に座る。
少しの沈黙。
「でもさ」
リーナが言う。
「ソーマはソーマでいいと思うよ」
「……それ雑じゃない?」
「雑だけど本音」
笑う。
「力がどうとかよりさ」
「どう使うかでしょ」
「……」
シンプルだけど、まっすぐな言葉。
「ありがと」
「どういたしまして」
夜風が吹く。
静かな時間。
でもその裏で——
確実に、何かが動いている。
そして物語は、ついに終盤へと向かう。




