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【1-16】 助けてほしい!

 ロミエは二段ベットの上から飛び出してしまい、その体が宙に放り出された。


「ロミィ‼」


 視界の端で、ショルトメルニーャが悲鳴のような声をあげる。

 二段ベットは人一人分くらいの高低差があるようで死ぬことは無いが、当たり所が悪ければ骨折しかねない。


(ど、どうしようっ……ま、魔法で風を……けどこんな密閉空間だったら不自然だし、下にクッションみたいな物とか人とか居ないしぃぃ……)


 手詰まりか――と諦めかけたところで、一つの解決法がよぎった。


(そうだ、魔力で自分の身体をカッチカチに固めれば骨折しないんじゃ……!)


 よし、そうとなればさっそく魔法を行使――という瞬間、「バダンっ!」と鈍い音が響き、叩きつけられるような衝撃に襲われる。


「……へ? ……痛っ」


 遅れてやってくる鈍い痛み。胸元や顎に響くような痛みが走った。

 魔法を使うよりも落ちる方が早く、何の対策も取れぬまま落下してしまったのだ。


(痛い……けど、これくらいなら……)


「うぐ……っ」


 プラプラと自力で起き上がろうと手を付く。

 だけれど上手く力が入らなくて、ぱたんっと突っ伏してしまった。


「ちょ、ちょっとロミィっ、大丈夫⁉ しっかりしなさいっ!」


 慌ててショルトメルニーャもベットから降りて、尚も倒れ込むロミエの肩を支えてくれる。

 するとその騒動に目を覚ましたのか、ショルトメルニーャが寝ていた二段ベットの対角側で、赤髪の人物が体を起こした。


「ん~……おはよぉ……騒がしいけど、どうかしたのー……?」

「シア! 起きたのね!」


(シア……だれ……?)


 ゆっくりと目を向けると、ボッサボサに爆発したような赤髪の少女が、その金色の瞳を眠そうに擦っている。

 そういば、昨晩こんな人もいたような……居ないような……。

 無意識に体を強張らせていると、痛みに耐えているのだと解釈したショルトメルニーャが優しく頭を撫でてくれた。


「大丈夫、落ち着いて。今から医務室につれて行ってあげるから」

「……え」


(ベットから落ちたのは自分のせいなのに、それもこんな朝早くから医務室のお世話になるのは申し訳なさすぎる……)


 ロミエはサアっと顔を青くし、首を横に振るった。


「そ、そんな……わ、わたしはっ大丈夫……げんき、ですっ」


 この程度の怪我ならば魔法を使えば簡単に直せるし、骨折もしてなさそうだから我慢できる程度の痛みだ。

 しかし、そんな事知ったことではないショルトメルニーャは、「嘘つかないの!」と一喝する。


「この高さから落下したのよ⁉ それにほら、顎が赤くなっているわ」

「で、でもぉ……」

「シア! この子見ておいてくれない? (わたくし)は医務室の先生を連れてくるから」

「ん、わかったわ」


 そう言ってシアと呼ばれた赤髪の少女にロミエの身柄を預け、ショルトメルニーャは外出するために髪や服を整え始めた。


(ま、まずい……このままじゃ、わたしのせいで色んな人に迷惑をかけちゃう……!)


 どうすれば……と頭を抱えるロミエ。しかしそこで妙案を思いついた。


(これしかない……!)


 そう決意した瞬間、痛む身体を強引に起き上がらせ、転がっていた靴と共に出口へと駆ける。


「ちょ、ちょっとロミィ⁉」

「ま、待って、そのまんま向かうつもりなの⁉」

「ごめんなさいっ……」


 ロミエは慌てて制止しょうとする二人を置き去って、部屋の外に駆けだした。


(服着替えてなくて良かった……!)


 そもそも化粧や髪形も気にしたことがないので、たとえ寝間着姿でも走り回れはする。

 だが、さすがに授業には制服で出ないといけないため、着用している今は好都合だった。


「に、逃げよう……とにかく、どっか一人になれるところへ……」


 そうしてロミエは逃げた。


 人が来なさそうな建物の影に潜伏したり、授業もまだ大きな講義室で行われるようなものばかりだったため、タイミングをずらして隅っこで受けるなどして、あの二人から極力距離をとった。


 ――しかし、それも長くは続かなかったのだ。


 世界の亀裂の予兆を確認したので、見つかる危険を承知で一年棟に入り直したのだけれど……それが仇となり、よりにもよってショルトメルニーャに見つかってしまったのだ。


「ごめんなさいっ……ごめんなさい……」

「まったく、心配したんだから……!」


 うずくまって許しを請うロミエに、ショルトメルニーャが安堵したような怒ったような声をかける。


「痛くはないの? (あご)とか赤くなってたけれど……」

「……だ、大丈夫……です……」


 寮を逃げ出したあと、魔法を使って痛めたところは綺麗に治療した。なので赤く腫れてもいないし、痛みもない。

 しかし、それでもショルトメルニーャは心配らしい。


「一応、お医者さんに診てもらいましょうよ」

「い、いえっ! ぜんぜんっ、ぜんぜん痛くないし、だいじょうぶ……」

「ロミィが大丈夫でも、(わたくし)が心配なの!」

「……へ?」


(な、なんで……? 怪我をしたのはわたしなのに、なんでこの人が心配する必要があるんだろう……?)


 意味が分からず、ロミエはポカンと口を開ける。


「ど、どうして……」

「「どうして」じゃないわよ「どうして」じゃ。誰だって、友達が目の前で落ちたら心配くらいするわよ!」


 ああ、そうか……心配させてしまったんだ。自分の不注意のせいで、自分の行動のせいで……。

 ロミエは唇を噛み締め、首を下げて項垂れる。


「……ごめんなさい」

「だーかーらー、ロミィが謝ることじゃないの!」

「……で、でもぉ……」

「そうだぞ、ロミエは悪くない!」


 いきなり、横から割り込んでくる人物がいた。

 黒髪のショートヘアで、黒曜石のような黒い瞳の少女だ。


(……あ、この人は……ベットにいた……?)


 そう、この人はロミエと同じベットで寝ていた少女である。

 そんな彼女が何の前触れもなく、いきなり二人の間に割り込んできたので、ロミエもショルトメルニーャもポカーンと口を開ける。


「キリィ……? 貴女いきなりどっから――」

「全て(ワレ)が駄々を()ねたせいだ! だからロミエは全然、これっぽっちも悪くないのだぞ!」


 ショルトメルニーャの質問にも答えず、ただ「ロミエは悪くない!」と言い張る彼女。

 そして、尚も唖然とする二人に向け彼女は、何かを宣言するかの如く胸を張り、自信満々に言い放つ。


「だから助けて欲しい‼」


 自信満々に、無い胸を張って助けを請いたのだ。


「……は?」

「……へ?」


 二人ともまったくわけが分からず、目を点にした。

 そんなの構うもんかと言わんばかりに、彼女は腕を組んで事情を説明する。


「実はだな、(ワレ)をストーカーしてくる奴が居てだな、絶賛逃避行中なのだよ」

「は、はぁ……」

「……キリィ、貴女他でもやらかしたの?」

「や、やらかしてなんかないぞ! た、ただ――」

「誰がストーカーだ」

「ひぅえあうぇぇっ⁉⁉」


 背後から低い声がかけられ、キリィと呼ばれた少女はロミエを盾にするように逃げ隠れる。


「え、え、え……?」


 何が何やら……とおろおろしていると、ふとロミエの鼻孔を甘い香りがくすぐる。


(なんか、良い香り……)


 金木犀だろうか。とってもとってもいい香りで、スンスンと嗅ぎたくなってしまう。

 こんなに包み込んでくるような香りの香水を使うとしたら、どこのお嬢様なんだろう……と見回して――目の前に立っている男性に目が行った。


「……へ?」


 うん、この人だ。この人から甘い香水の匂いがする!

 だがこの人、イメージしていた貴族のお嬢様とはまるで違った。

 背が高く、紫がかった銀髪が左目を隠すように肩の辺りまで垂れていて、露わになっている深い紫色の右目はキリリと研ぎ澄まされている。

 その瞳をロミエの後ろ、キリィと呼ばれた黒髪の少女へと向けた。


「探したぞ。キルトエ・クルハンス」

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