閑話 暗がりに紛れる黒と白
「あちゃ〜、結局不発になっちゃったか〜」
夜の学園を覗きながら、「あはは〜」と能天気に頭を搔く少女がいた。
外套のフードを外し、露わとなった白髪が月明りにキラキラと揺れる。
「……やめろ、目立つ」
感情が抜け落ちたような無機質な声で注意され、白髪の少女はクルッと向き返り、ぷくーっと頬を膨らませた。
「えー、だ~って被ってたら髪ごわごわするんだも~ん」
「……もう少し、待て。……計画、始まったら、自由にしろ」
たどたどしい言葉で話す彼はちゃんとフードを目深に被っているものの、その奥の無機質な深淵の瞳は空間に穴を空けたのが如く、少女を見下ろしていた。
だが、少女も臆することなく白銀の瞳で見上げる。
「それって~どれくらい待てばい~い~?」
「———―」
コトリと少女が首を傾けると、彼はその瞳を学園に向ける。その深淵の瞳がスーっと細められ、何かを探るように眺めた後、口を開いた。
「……二日」
「二日もぉ~⁉」
少女は「まーてーなーいー」と駄々をこねる。
「だいったい! 今日の計画が成功してたら良かったのにっ! あの協力者は何してたの? 裏切った?」
「それは、ない。」
無機質だった言葉に、確かな力と意思を感じ取り、少女も「ふぅん?」と笑みを深める。
「自信あるんだ」
「……当然だ。……誰も、定められた、運命から、逸脱できない」
彼の言葉に、少女も「それもそっか」と頷く。
運命とは残酷にして誠実だ。何人たりとも定められた運命に逆らうことはできない。
(もしかしたら~、自分もその運命の中にいるのかも~?)
チラリとフードの男を見るが、彼は尚も学園を見据えている。
その顔は疑念を抱くように険しい。
「ん~? どったの?」
「…………何者か、強い魔法使いが、いる」
「ふぅ~ん? 魔法使い」
「ほんとぉ~?」と少女は首をかしげる。
魔法使いはとてもとても希少な存在だ。少女たちの出身地でも、その使い手は一人二人しかいない。
「いくらこの国が豊かでも~こんな所にもいるんかな~?」
「……今日の計画は、意図的に、阻止、された」
「……ふぅ~ん。そっか~」
目を細め、少女は髪がゴワゴワするのも厭わずに、フードを目深に被る。
「じゃあ、殺さなきゃね」
殺意をたぎらせる少女とは対照的に、男は「そうだな」とそれが当たり前かのように返す。
「……行くぞ」
「は~い」
二人は踵を返し、学園に背を向ける。
目立たない外套を着た少女と男は、そのまま街の影に消えて行ったのだった。
次話から本編に戻ります。
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