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【1-14】 ふらふら疲れたもう眠ろう

「……え、えっとぉ……?」


 生徒会室に報告に入ったロミエは、その光景に困惑した。


「こ、こんにちは。お忙しい中、失礼しています」


 そう言って頬をかく黄色強めの金髪の少年の存在に、ロミエは口を半開きにして立ちすくんでいた。

 てっきり生徒会長だけに伝えるものと思っていたのに、中央の向かい合う来客用のソファに、一方には生徒会長、もう一方には一人の少年が座っており、その後方には剣を帯剣した赤い騎士服の女性が控えている。


「か、会長……こ、この人たちって……」


 ぴっ……と、限界まで肩を縮こませ、ロミエはおっかなびっくり手を挙げる。

 なんとなく理解してしまったが一応、念の為、何かの間違いかもしれないし、聞いてみることにしたのだ。


「うん。この御方は我がロンド王国第一王子リフィル・シャルル・ロンド殿下その人だよ」

「……え、えっと……王子様……が、なぜっ、ここに……?」

「リフィル殿下が御自ら、今回の事故原因の調査に乗り出したのです」


 その質問に答えたのは、キリリと鋭い瞳でロミエを一瞥する女性騎士。

 彼女の深いピンク色の瞳に睨まれ、思わず悲鳴をあげそうになるのをどうにか堪える。


「ぁ……えと……調査……調査はぁ……」

「ちょうど、さっき終わらしてくれたらしいね」


 ニコリ、と満足げに会長は笑いかけてくれる。が、対照的に手柄を取られた殿下――よりも後ろの女性騎士が目に見えて悔しがっていた。


「くっ……もっと早く行動していれば……!」

「ア、アイリシカ落ち着いて……それだけ、ここの生徒会の皆さんが優秀だったってことだから」

「殿下にそう言ってもらえるとは、有難い限りです。ですが――」


 頭を軽く下げていた会長は、そう言ってロミエの方に視線を向けた。


「今回の事件を担当したのが彼女、生徒会監査の一年生ロミエ・ハルベリィ嬢です」

「え」


 会長の視線と共に、殿下と騎士の視線がロミエに向けられる。

 だが、そんなロミエは気が気じゃなかった。


(じ、事件を担当ぅぅ⁉ わ、わたしっ、ランツ様とライラ様の後ろについて行っただけなのに……だけなのにそんな期待の眼差しでみないでぇぇぇぇ……)


 そんなロミエの嘆きを他所にして、二人は驚いた様子でロミエを見ていた。

 事件を担当し、解決に導いたのが今日入学したばかりの一年生であると説明された二人の反応は、それぞれ驚愕と尊敬の念に染まっている。


「すごい……すごいですっ……! 私と年齢は変わらないのに、お一人で解決させられるだなんて!」

「あ、ぇとっ、その……か、監査の先輩と、もう一人、協力してくれた人が、いてっ……その人たちの、おかげ……でひゅ……」

「ほう……事件を早期解決したというのに、少しのおごりも見せないとは……ゆくゆくは生徒会を担っていく人材と言っても過言ではありませんね……」

「は……はぁ……」


(かごんんんっ! 過言すぎますその評価ぁぁぁ……)


 頬を引きつらせながらぎこちなく笑みを返すロミエ。

 その様子を会長は楽しんでいるのか「フフ」と小さく笑った。


「さて、ハルベリィ嬢。調査の結果を私たちに報告してくれるかな?」

「……は、はいっ」


 そう促されて、ロミエはフラフラとする頭をどうにか回転させて、今回の魔道具暴走事故についての顛末と調査結果を報告する。


 まとめた内容的にはこうだ。

・まず今回の事故は、魔道具の不適切な保存環境によって術式が綻び、そこに自然現象である魔力の異常発生による触媒の損壊によって引き起こされた暴発であったこと。

・そして、これを裏付けるように保管室内でも同様な暴発が起きたうえ、殿下の暗殺を目論むにしても、生徒の席まで破片が飛び散っていないことから事件性も低い。

・結論として、今回の魔道具暴走事故は管理の不届きによるものが大きく、暗殺などの事件性は無いということ。


「――以上に、なりまふ……」


(よしっ、よしっ! なんとか、なんとか言えたぁ……)


 説明し終わったロミエはペコリ、と頭をさげる。しかし、安堵からか気が緩んでしまって、ふらふら~と倒れそうになってしまう。


(あ、これやばい……)


 そう思った時には視界がくるりと回転し、仰向けで倒れ込んでしまう──ことはなかった。


「おっと」


 倒れかけたロミエを生徒会長が受け止めた。

 顔を上げるロミエの瞳を、生徒会長であるリーンハルトの水面のような薄い水色の瞳が覗き込む。


「すまない、色々無理をさせてしまったね」

「ぁ、ご、ごめッ、なさッ……!」

「いいんだ。君には新入生だというのに、重大な仕事を任せたんだ。今日は寮に戻ってしっかりお休み」


 「明日がもたなくなってしまうよ」とリーンハルトは目を遠くに向ける。

 そう、色々ありすぎて忘れそうになるが、ロミエは今日の午前中に執り行われた入学式にて、このアリストリア高等魔術学園に入学したばかりである。

 それでも、頷こうとしないロミエに、リーンハルトは優しく語りかける。


「君は私の期待に応えてくれたんだ。それに、解決したことで殿下も安心しておられる」

「は、はい。ロミエ・ハルベリィ嬢……あなた(貴女)の事故の調査、とっても助かりました!」

「……ほんとは、殿下が華麗にパっと解決してたのに」

「ア、アイリシカ……この子はとっても頑張ってくれたんだから、そう言わないで……」


 三者三様ではあるけれど、それぞれロミエの頑張りを認めてくれているらしい。

 それに、リーンハルトは「期待に応えてくれた」と言った。


(わたし、期待に応えられたんだ……!)


 なんだか口がムズムズして、意味もなく指をコネコネさせる。


「……とまあ、こんな感じだ。だからもう寮に戻って休んでいなさい」

「わ、わかり、ましたっ」


 ロミエはコクリコクリと頷き、ふらつく体をどうにか踏ん張って一礼してから、生徒会室の出口へと向かう。

 そうして出ようとしたところで――


「――あ」

「……? 殿下、どうされました?」


 リフィル殿下が何かを思い出したかのように声をあげ、ロミエを見てパチリと瞬きをしたが、すぐに「ううん、なんでもない」と言ってへにゃりと笑う。


(なんでわたしを見たんだろう……?)


 どこかで会ったっけ……? と記憶を掘り起こしながら、すぐに諦める。

 なにせ、ロミエの体力は既に限界だったのだ。

 朝起きてすぐに街角の亀裂を直し、入学式典や講義では沢山の人に囲まれ、そこでも亀裂の発生を阻止し――。


(……あれ、あの亀裂って、結局なんだったっけ……)


 なんか普通の亀裂とは違ったような気がしつつも、そこまでロミエの頭は回らない。


(と、とりあえず……眠ろう……)


 足がふらふらとして何度も倒れそうになりながらも、ロミエは寮に向けて歩いていくのであった。



***



「……どうしよう」


 ロミエは寮の部屋の前で立ち尽くしていた。

 というのも、学園の寮は基本的に4人一部屋である。

 一応例外として大金を支払えば個室を使うことも出来るが、田舎の庶民出身であるロミエにそんな大金を支払えるわけがない。

 ゆえに、必然的に複数人での共同生活をせまられるわけだが……。


「む、むりらよぉぅ……」


 自分がいることで、人の邪魔にならないか。人と関わることで、その人の手を煩わせたり、不幸にさせてしまうんじゃないか……。

 そんな考えがボンヤリとした頭の中を駆け巡って、入るか入らないかの結論が出ぬまま、部屋の前で右往左往しているロミエ。


(もういっそ、外で寝ようかな……)


 正直、横になれるならどこでもいい。

 ただこの季節に外で眠るのは普通に自殺行為だ。日も傾きはじめ、空に漂う雲を茜色に染め始めている。

 何より、色々ありすぎて疲労困憊のロミエには、外へ出るのもままならないだろう。


(……いいや、とりあえず眠りたい)


 もう迷惑だとか自分なんかーだとか、考えるのも億劫になったので、意を決してドアノブを捻った。


「しつれいしま――」

「あ、ロミィ! やっと来たわね!」

「……へ」


 聞き覚えのある声と呼び名だ。

 部屋の中にいたのは、長い金髪に星の軌道を彷彿とさせる髪飾りを付けた少女。

 (ほの)かに香る香水の匂いからも、その人物の事をロミエは知っている。


「ショル……ショル、ト……」


(どんな名前だったっけ……)


 ショルト……なんちゃら、みたいな名前だったのは憶えているが、結構長かった上に帝国風の名前で覚えずらかった。それに、魔道具事故の調査も挟んだ後だし、何よりロミエは眠い。

 ゆえに思い出せるわけもなく、寝ぼけた口で「ショル……ショル……」と無意味に唱えていると、右上あたりから声が聞こえた。


「あら、この子ショルトんのお友達?」

「ええそうよ、ね、ロミィ!」

「は、はいぃ……そのぅ、どうひてここに……?」

「どうしてって、決まってるじゃない。わたしもこの部屋のルームメイトなんだから」

「そ、そうなんらぁ……!」


 ロミエは自然と頬が緩み、へにゃりと笑った。知らない人と一緒よりは、知ってる人が居た方がいい。

 「えへへ……」と立ちすくんでいると、右側の2段ベットからピョイと飛び降りてくる人物がいた。


「……よっと。ね、ね、あなた、お名前は?」


 にこやかに話しかけてきたのは、パツパツパサパサした赤髪をポニーテールにした少女だ。

 普段ならば(知らない人だ……)と狼狽えただろうが、さっさと寝床につきたいロミエには身構える元気も無い。


「はいぃ……ロミエ・ハルベリィ……でふぅ……」

「ロミエちゃんね! あたしはアナスタシア・ノルケン。よろしくね」

「はいぃ……」


 そう言って、アナスタシアと名乗った少女と握手する。


(優しそうなひとだぁ……)


 良かった、この人は寝首かいてくるような人じゃなさそうだ!

 疲労と睡魔でどこかしらのネジを喪失してしまっているロミエ。

 そのとぼけたような姿に、昼間のロミエしか知らないショルトメルニーャはギョッと目を張った。



「ちょっとちょっと、ロミィ貴女ちゃんと話せるんじゃない!」

「え、待って何? 前は話せなかったの⁉」


 わいわいガヤガヤしているが、さっさと眠りたいロミエには関係ない話だ。


(寝る……ベット…………あった……)


 手前側二つの二段ベットには、既に荷物が置かれていたため、ロミエは荷物の置かれていない窓際の二段ベットへ足を向けた。

 そういえば部屋のど真ん中で、金髪のショルトメルニーャと黒髪の誰かが取っ組み合いをしているらしく、障害物になっている。


「あ、おいジャンケンだ! ジャンケンで勝負だ!!」

「はいぃ……」


 黒髪の誰かに、何か言われた気がするけれど、まあいいや。

 早く寝たい。早く横になりたい。フカフカじゃなくていいから、とにかく布と布の隙間に潜って、サンドウィッチになりたい……。

 なおもワーワー喚く誰かを無視して、手っ取り早くいちばん近かった右側の2段ベットに上がった。


「あっ‼ ちょ、ちょおおっと待てぇぇぇい⁉」

「はいぃ……」


 また何かを叫んだ気がするが、もう意識が朦朧として夢見心地なロミエには届かない。

 そのまま誰かの静止を振り切って、ロミエはサンドウィッチの具材に化ける。

 フカフカモフモフ、という程では無かったが、程よく反発して体を支えるマットレスと、サワザワとした毛布は実に心地よく、冷えて疲れきった身体をポカポカと温めてくれる。


「ふみゅぅぅ……えへ……ともらち……」


 幸せそうによだれを垂らすロミエ。

 直ぐにスヤスヤ……と寝息をたてて、熟睡するのであった。

これにて第一章前半部分の完結となります。

次に登場人物紹介と閑話を挟んでから、後半章へと入ります。

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