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【1-13】 責務/カッコイイお年頃

「さて……ここからは新入生の妹ちゃんには荷が重いですわ。先に寮へお戻りなさい」



 ライラックは優しく笑顔を浮かべ、ロミエを帰らそうと促してくれる。

 内心何を言われるのか……と、喉がカラカラになるほど緊張していたロミエは、その言葉にホッと胸を撫で下ろした。


(よ、よかった……とりあえず疑われてはないっぽい……かな……?)


 このまま寮に帰って休もう……と、首を縦に振ろうとした所で、思いとどまる。


(……この事故調査、わたしは何か……したっけ……。……何も、力になれてない……っ)


 ここになってロミエは、ようやく自分がお荷物でしかなかったことに気が付き、サアッと顔を青くした。


(わたしはただ二人について行っただけで、ほとんどの調査をライラ様やランツ様に任せてしまってる……)


 このまま何もせず、すべてを彼女(ライラック)に任せて帰っていいんだろうか?

 ライラック達だけで良かったと、ロミエは必要なかったと思われてしまうんではないだろうか?

 ……いや、実際その通りだしロミエは何もできていない。

 だけれど……それでも、だからこそ、これからロミエにも出来ることがあるのに、それから逃れる事は許されないし──嫌だった、怖かった。

 ロミエは「帰らないのです?」と首を傾げるライラックに向き直り、息を吸った。


「……あのっ、その……会長へ、ご報告しないと……」

「まあ、それくらいなら(わらわ)が伝えておきますわよ?」


 そう、たしかにただ報告するだけのことだ。ライラックなら魔道具を直す片手間で済ませてしまえるかもしれない。

 だけれど、報告くらいならロミエにだってできる。

 こんな簡単なことまで放棄して、すべてをライラックに頼るのは嫌だ。生徒会長から直々に任されたのに、期待されたのに、その責任から逃れるのが嫌だし――怖い。

 ロミエはギュッと小さな両手を握り、大きく息を吸い込み、お腹に力を入れてその胸の内を声にのせる。


「け、けどっ……わたしは生徒会の、監査で……少しでもっ、お役に立ちたいん……ですっ」


 「お願いしますっ!」と頭を下げる。

 ライラックはどんな顔をしているだろうか。変な気遣いで嫌な思いをさせているかも……。

 怖くて頭を下げたまま目をつむっていると、ライラックは「お顔を上げてくださいまし?」と柔らかな声音で言った。


「うふふ……わかりましたわ。調査結果の報告、お願い致しますわね」

「……は、はいっ!」


 ライラックはやさしい笑顔で送り出してくれる。

 性格はどこかおかしい所があるけれど、きっととても優しい人なんだ。

 それに、ライラックがいなければ保管室の魔道具についてまでは分からなかっただろう。


「調査協力っ……ありがとう、ございました!」


 保管室を出る時に、一度ライラックにペコリと頭を下げ、踵を返す。

 目指すは生徒会室。そこで、今回の調査結果を報告──


「安心してくださいまし、わらわ貴女(あなた)様のお味方でございます」

「…………へ?」


 保管室の扉が閉じられる直前、ライラックがそう言った。

 その真意を問いたかったけれど、既に保管室の扉は閉じてしまっている。


「味方って……」


 どういうこと……? とロミエは頭を傾ける。

 直接聞けば早いのだろうけれど、わざわざもう一度聞きに行くのも気まずい。


(……もしかして、まだ姉妹ごっこ続けるつもりなのかな……)


 恋する乙女のように愛でてくるライラックの姿を思い出しながら、抱きつかれた右腕を見る。

 心なしか、ライラックが(まと)っていた香水の香りが移ったような気がしなくもない。


 ――うん、あの人なら有り得そう。なにせ人目を気にせず右腕に抱きついてきたり、頬擦りしてくるような人だし……。


 そう結論づけたロミエは、多少の違和感は残るものの頭の隅に追いやって、生徒会室に向かったのだった。



***



 少し前、学園内の某所。


 壁や家具に至るまで豪華絢爛な装飾が施され、かつ多重に防御結界が張り巡らされた特別な一室に、二人の人物がいた。


「……アイリシカ、やっぱり僕がいると、周りに迷惑をかけちゃうん……だろうか……」


 そう、こぼれるように呟いたのは、部屋の真ん中のソファにちょこんと腰掛ける、少し黄色の強い金髪の少年。

 彼はその、薄氷のような澄んだ水色に、金と緑の木漏れ日を一滴ずつ足したような美しい瞳を陰らせ、ジッと目の前の机を睨んでいた。


「そんな事はありません。決っして、断じてそんなことは──」

「けどっ……あの事故は僕を……私を、狙ったものだ……。私がこの学園に来なければ、あんなことには……」

「リフィル殿下。私は殿下のことを、一度たりとも迷惑だと思ったことがありませんよ」


 両手を握りしめ、上唇を噛み締めていた少年に、窓際に立っていた騎士服の女性がぴしゃりと言い放った。

 少年はパチパチと瞬きし、自身の護衛である騎士を見る。

 程よく切った金髪の奥から、その深いピンク色の瞳が優しく細められる。


「それに私は、面倒なことは力づくにでも解決するのが本望なのです。なので、もっともっと面倒ごとや迷惑を引き連れてきてくれて構いませんよ」

「あ、ははは……」


 少年は「いつも通りだなぁ」なんて苦笑いを浮かべながら、「それでも……」と眉をひそめる。


「私は、誰かの犠牲の上に、用意された椅子にただ座っているだけなのは、嫌だ……」


 王族たるもの、人の上に立つ者として立たれる側にも寄り添ってあげるべきだ――と少年は思う。

 誰かに「そうであれ」と言われたわけでもないし、「それが正しい姿である」だとか教えられたわけでもない。

 それでも少年は「そうであるべきだ」と、確信していた。


「……人々に迷惑を振りまく王様なんて……そんなの、カッコよくない」


 少年にとって、カッコよさとは強さだ。

 そしてその強さこそ、王族に求められる能力であり、振る舞いだと信じている。

 いつになく決意の表情を浮かべ、グッと右手を握りしめる少年。

 その姿を見ていた騎士服の女性も、フッと目じりを下げて微笑む。


「……となれば、やる事は一つですね」

「……え? 何か、僕たちにできることがあるの……?」

「えぇもちろん。今から生徒会室に乗り込んで、あの生徒会長を脅……ではなくて説得し、殿下自ら事件を解決しに行くのです!」


 また強引なことを言い出した……。

 それに、自分が狙われている可能性もあるため、不用意に動いて気を使わせてしまうのも忍びない。


「け、けれど……会長は任せてくれと言っていたし、迷惑になるんじゃ……」

「いいえ、私はそうは思いません。ここは一度、王族としての使命を果たすべきであると、このアイリシカは考えます」

「王族としての……使命?」


 その言葉が妙に心に刺さった。同時に、「迷惑になるのでは」という負い目も薄くなっていく。

 少し目を輝かせながら、なおも熱弁を振るうアイリシカを見つめる。


「はい! ずばり「……ふっ。この程度の事件、別に恐れるようなことではないのですよ……(イケボ)」と言ってやり、殿下自らが華麗に解決せしめるのです!」


 彼女は黙って座っていれば、そのキリリとした眉や美しい金髪の奥にある美貌。そして赤色の騎士服と腰に下げた直剣によって、それはもう美しい騎士といえるだろう。

 しかし今や彼女はその深いピンク色の瞳をキラキラと、憧れを目にした少年少女のように輝かせ、右手を額に当てて何やら神妙な顔を創りながら、元々低めの声を更にイケボ風に低くして熱く語っている。


 その姿を、残念騎士の姿を見た少年は――心の底から「カッコいい」と、感じた。


「……か、かっこいい……!」

「ええ! はい! そう、かっこいいんです! リフィル殿下はカッコイイのですから、今回の事故はさらにカッコよくなるチャンスなのです!」

「なるほど……なるほど……ッ! アイリシカ、すごい! ぼくには全くそんな考えが思いつかなかった……そうか、かっこいい……カッコイイんだ!」


 先ほどまで瞳を暗く陰らせていた少年は、見違えるようにその瞳を輝かせている。そしてそれに呼応するように――というか、共感しているらしい女性騎士も「うんうんうんうんうん」と何度もその金髪を揺らした。


「往きましょう殿下ッ! 我々の手で、カッコよく真相を解き明かすのです!!」

「うん! うん! そうしよう! 僕とアイリシカならなんだって出来そうだ!」


 二人はワーイとハイタッチし、意気揚々と生徒会室へと向かった。


 ……ノリノリでこの腑抜けた会話を繰り返すのは、絶賛中二病を拗らせ中のロンド王国第一王子リフィル・シャルル・ロンド14歳、その人である。

 そして、そう吹き込んだ護衛騎士アイリシカ・レファリエントもまた、話題の小説に影響されまくりの17歳の少女であった。

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