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【1-10】 現場調査

 生徒会長に任された仕事――魔道具暴走事故の現場調査を行うために、ロミエは講義室に向けて歩いていた。

 「わらわが姉で、ロミエ……ちゃんは妹ですわぁ~!」と主張するライラックに絡みつかれながら……。


「ロミエ……ちゃんは、生徒会監査に選ばれていましたのね!」

「は、はい……」

「新入生なのに、素晴らしい心意気ですございますわ~! (わらわ)も全力でお力になります!!」

「は、はあ……」


 右腕をライラックに抱き巻かれながら、ロミエは目を遠くして適当に相槌を入れていた。

 あの後、生徒会長に仕事を任された旨を伝えると、ライラックとマイトが協力してくると申し出てくれたのだ。

 それはもう凄い圧で。

 何度首を横に振っても二人は折れてくれず、なんならマイトは「監査に選ばれたんなら、先輩の俺に頼っとけ! ……頼ることを覚えないと──死ぬぞ」と、ふざけた様子もなく遠い目をして言うので、ロミエは頷くしかなかった。 

 そんなこんなでロミエは二人と共に、一階の講義室へと向かっているのだが――


「ロミエ……ちゃんは、とっっっても真面目なのですわねぇ! ライラお姉ちゃんとしても、とっても誇らしいですわあ! それに比べて……ねぇ? マイト・ランツ(おサボり坊や)は……」

「俺もちゃんと働いてるしサボりじゃね~し!? っていうか、無理にちゃん付けしなくってもいいんじゃねえの!? ほら、ハルベリィさんも困ってるじゃんか!」

「まあ、ひどい! 姉妹の絆を否定するだなんて!」

「血縁関係ないじゃん!?」

「愛は全てを超越させるのですわ~」

「……ハルベリィさん。この人やっぱおかしいわ。今すぐにでも逃げた方がいい」

「なんと、姉の目の前で妹を誘拐しようだなんて! 生徒会監査の風上にも置けませんわ~」

「こいつもたいっがい意地悪令嬢じゃん!?」

「———―」


 率直に、「消えたい」と思った。

 右手に抱き着いたライラックが、その隣を歩くマイトを煽り、それにマイトが不平不満とツッコミを入れる。

 廊下のど真ん中で。


(わあ……めだってるぅ……)


 二人はそれはもう大声で掛け合いを繰り広げており、「入学式の後の一年棟の廊下」という環境ではとても、それはもう響いた。

 道行く人道行く人がこちらを注視し、不思議そうに通り過ぎてゆく。


 ロミエは「あは……はは、あはははは……」と虚ろな笑みを浮かべながら、ライラックに引っ張られていくと――やっと講義室にたどり着いた。

 

「あら、誰も居ないのですわね」


 ライラックの言う通り、講義室の中には誰も居なかった。

 ただ、卓上の魔道具などは現場そのままにされていたようで、ライラックやマイトはそれぞれ調べられそうな箇所に動き出す。

 だが、ロミエはその場に立ち尽くしてしまう。


(……えっと、ど、どうしよう……わ、わたし、何したらいいんだろう……?)


 一応、生徒会長に事故調査を任された時点で、どう調査しようかの計画は立てていた――のだけれど、ライラックとマイトが合流してしまったことで、できなくなってしまったのだ。


創世神(ニヒリア)の権限で取り出した〈世界の本〉で、この空間のログと魔道具の使用ログを見るなんて、絶ッッッ対むりぃぃぃ……)


 世界システムに直接干渉して事故調査するなんて、そんなの人間業じゃない。

 ニヒリア(神様)なのに、ただの一人の人間としての能力は最弱なのだ。

 ただのロミエに出来ることなんて何も無い。

 しかし、「どうしよう、どうしよう……」と右往左往していたロミエに、救いの手が差し伸べられた。


「ロミエ……ちゃん、ロミエちゃん。 少しお手を貸していただきたいのですが……」

「その「ちゃん」付け、なんでわざわざ続けんの……?」


 そんなマイトのツッコミには反応するつもりが無いらしく、ライラックは「ロミエちゃーん、手伝ってくださいまし〜〜」とヒラヒラ手をこまねいていた。

 ロミエはちょっぴり嬉しくなりながら、お腹に力を込める。


「はっ、はいっ……!」


 やっぱり、会長の言う通りだ。

 お腹に力を入れる──もとい、お腹から声を出すことで奇声……じゃなくて、突飛な声を出さなくなるのだ。


(これは《《わたし》》にとって、大きな一歩っ……!)


 ムズムズとする口元を両手で抑えながら、ライラックの元へ──魔道具が並べられたステージへと駆け寄った。


「ツ、ツヴァイリム様……」

「ライラお姉様とお呼びなさいな」

「え、えっと…………ら、ライラ……様。わ、わたしはっ、何をすれ、ば……?」

「ロミエ……ちゃんは事故当時、この講義室に居合わせましたのよね?」

「は、はいっ!」


 「だから無理すんなって……」というマイトのツッコミをかき消すようにロミエは声を張る。この2人、いがみ合い始めたらキリがないのだ……。

 不満そうに口を曲げるマイトを横目に、ライラックは質問を続ける。


「この魔道具に見覚えはございまして?」


 そう言ってライラックが掲げたのは赤い宝石型の魔道具――の破片だ。


「これは……あ、暴発した魔道具……」

「そのようですわね。確かこの講義は新入生に向けた魔道具の仕様説明でしたわね?」


 うんうん、と首を縦に振る。

 白髪のおじいちゃん先生が、軽く実体験を交えながら説明している姿を思い浮かべつつ、赤い魔道具の記憶を掘り起こす。


「……たしか、周囲の魔力を溜め込む魔道具……だったと、思います」

「なるほどなるほど……ふむ。……ロミエちゃんロミエちゃん。ここ、見えますかしら?」


 そう言って、ライラックは比較的大きな破片の中を指さした。

 言われるがまま、ロミエも顔を覗かせる。


「……あ、ここの魔術式……ほころんで、ます」


 魔道具に施された魔術式の一部が、ゆるんだ結び目のように柔らかく、その密度が低下していたのだ。そのせいで魔術式が不完全になっており、誤作動を起こしてしまう。


「つまり……魔道具の暴発は、術式不良……?」

「さすが学年首席ですわね。ただ、そう単純な事では無いようですの。なにゆえか……ご存知ですわよね?」


 キラリ、とライラックの瞳が輝いた。


(……試されてる)


 背中に汗が伝うのを感じ取りながら、ロミエは「ゴクリ」と生唾を飲み込んだ。


「は、い……魔道具は魔道書と違って、その、魔石には刻まれた術式の強靭さが強み……です」

「その通り、書物に《《書き込む》》魔道書と違って、魔道具には《《刻み込む》》。だから、魔道具に刻まれた魔術式が綻ぶなんて事、普通に保管していればありえないことですわ」

「──つーと? つまり、この暴発は誰かに仕組まれたって事か?」


 ステージの下や生徒の座席辺りを調べていたマイトが戻ってくる。

 ライラックは少し嫌そうに顔をしかめてから、口元を扇子で隠した。


「あくまで可能性が高いだけ……ですわよ。それか、何かそれらしき手がかりが見つかりまして?」


 そう問われるもマイトは肩を竦める。


「ま、一応散らばった破片から威力を概算してみたんだけんど……直接手で持ってない限り、誰かを殺すなんて無理だな」


 聞けば、弾け飛んだ魔道具の破片は砂粒のような小さい欠片が、いくらかステージの下に飛び散っていたようだが、生徒たちの座席までは届いていなかったらしい。


「動かされてる可能性はあるけど、飛び散った破片を見た感じ、そこまで威力はないらしい」


 その結論にライラックも同意らしく、不承不承と嫌そうな顔をしながらも肯首する。


「……ですわね。リフィル殿下の暗殺が目的なら、もっと高威力の触媒を用意するべきですわ」

「だな。オレがもし仮にこれを使って命を狙うっつーなら、他の点火剤用意しておくわな」


 ──他の点火剤。


 その言葉が妙に気になって、思わずロミエは口を開く。


「他の点火剤……です、か?」

「ん? そうそう。例えばほら、帝国でちょっと前に開発された火薬ってやつを使えば、魔力が使えない人間でも火球と同じ位の威力が出せるらしいし、俺だったら魔道具の近くに忍ばせて、こう、どっかーーんとヤるね」


 なるほど、たしかに火薬ならば一度火がつけば、大きな爆発力と破壊力を生み出せる。

 だが、件の魔道具は火属性のエネルギーを持っていない。あくまで魔力を過度に吸収しすぎたことによる、魔力暴発なのだ。

 ただ一応、暴発の際に高まった圧力で高温になることもままある。

 けれどロミエが──ニヒリアが感じ取った違和感はそこじゃない。

 ニヒリアの頭の中で、1つの恐ろしい仮説が出来上がっていたのだ。


(他の点火剤……ランツ様は火薬を例に挙げていたけれど、もし私の仮説が正しかったら……この魔道具暴走事故……いや、殿下暗殺未遂事件は単なる暗殺未遂事件じゃなくなるかもしれない……)


 ロミエがその途轍もなくマズい仮説に戦慄している横で、再びライラックとマイトの掛け合いが始まっていた。


「あら、帝国事情に詳しいのですわね?」

「そらもちろん。なんてったって魔道具研究クラブにも所属してるんでな!」

「それと帝国事情にどんな関係がございますの?」

「関係あるも何も、つい最近帝国で火薬と魔道具を組み合わせた物が開発されたって噂でさ、クラブ皆で大討論会したんでね」

「あら、生徒会監査部はそんなお暇な仕事ですのね。聞けば、貴方のデスクには今も書類の束が積み重なって──」

「よぉし!! そんじゃあこの魔道具が保管されてた倉庫の帳簿調べて怪しいヤツが入ってなかったか確認しようぜ!!」


 「もう調べられそうなものも無いっぽいしな!」と言って出口に向かうマイトだが、絶対ライラックの指摘から逃れようとしただけである。


「……まあいいでしょう。どうせ、あの監査長に問い詰められるでしょうし……」


 ライラックもこの空間に調べられそうな物は無いと判断したらしく、ロミエの手を取って出口へ向かう。


「さっ、参りましょう。ロミエ妹ちゃん!」

「…………は、はいぃ」


 「妹ちゃん」という聞きなれない単語を満面の笑みで言ってくるライラックに、ロミエは「もうどうでもいいや……」と、曖昧に笑ってついて行くのであった。

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