第77話 王の落胆
ミケルはとりあえずここまでをガルムに伝えた。ガルムは言葉が出なかった。薄々感じていたファンネルの違和感とエサルへの不信感が全て繋がってしまった。
「奴は人間だけでなく他の森の民にもなることができるみたいです」
「そんな能力が……信じられんが、それならいいろいろと説明もつく」
ミケルは尋ねる。
「どうするのですか? ヒクルさんを」
ガルムは考えた。
「おそらくヒクルを殺さない状態では森の民はもう満足できないだろう。厄介だが、エサルにうまく流れを作られてしまった」
諦めるような言い方にミケルは食い下がる。
「ですが!」
「奴が他の民を襲った以上、これは避けられない。たとえエサルに脅されていたとしてもだ」
「それも私は疑問なのです。ヒクルさんはたしかにバレないように縄張りに近づく獣を追い払うことはしたそうですが、怪我をさせたとは言っていませんでした」
ガルムはミケルの意図に気づく。
「奴が代わりにしていると?」
「そうです。であれば殺されるべきはエサルです」
「エサルに嘘をつかれればおしまいだ」
ミケルは食い下がりたかったが、王もヒクルもどちらの同意もない状態ではどうしようもなかった。
「ヒクルの言う通り、ここで終わらせたという証さえ残せれば、一旦ファンネルの追求はやむはずだ。あとはエサルに見つからないように暮らしてもらうしかない」
ミケルはファンネルはいずれエサルか王に復讐しかねないなと思った。
「エサルをこのまま野放しにするのですか?」
これに王は首を振った。
「私の名を語った責任やヒクル達を陥れた事の落とし前はつけるつもりだ」
その日の会話は一旦それで終えると、王はデルアートに相談することにした。相談といっても、デルアートとガルムはそこまで密に連携が取れてきていたわけではなかった。
ガルムは人間を嫌うと言うせめてもの気持ちを保つためになるべくデルアートには頼らないようにしてきたのだ。
しかし、今回は少し勝手が違った。
「森の民を一人殺してほしい」
デルアートは察していたように頷いた。
「ファンネルのことかな」
ガルムはうなずく。
「奴は俺たちでは手に負えん。これ以上争いが出る前に肩をつけなくては行けない」
デルアートは少し驚いた顔をした。
「意外だな。ファンネルであればなんとしてもあなたが始末をつけると思っていたが……」
それはファンネルとガルムとの因縁を知っているからだった。ガルムが黙ると、デルアートが続ける。
「わかった。私としても、ファンネルをこのままにはしておけない。倒すために余所者を森に入れるが構わないか?」
ガルムは頷いた。
「背に腹は変えられない。そしてもう一つ」
「なんだ?」
「どうやら、エサルという狐が人間に変わることができるらしい。そちらの町に出入りしているという話だ」
デルアートはこれにはかなり驚いた表情をしたが、少し納得した表情に変わった。
「それは驚いた……人間に変わるということはもう覚醒しているのか?」
ガルムは頷いた。
「おそらくそうだろう。あいつは狐にしては長生きしすぎている。六代ほど前の王から奴はいるはずだからな」
この発言にデルアートは一瞬反応しかかったがやめて、代わりにゆっくりとこう言った。
「わかった。そいつをどうすればいい?」
「どの人間に変わっているか、それを見つけてほしい。奴は狡猾だ。ただ殺そうとすれば、人間に紛れて逃げ出すだろう。だからそうなった時の準備が必要だ」
デルアートは頷いてその日の会談はそれで終了となった。そして四日後、ついにファンネルを殺す当日になった。
その日、ガルムは憂鬱だった。結局のところ自分は勘違いでイルクを殺し、その妻のファンネルさえも殺すところだった。
ヒクルのおかげでファンネルは救えるが、それは自分の力ではない。エサルにうまく使われていたことがわかっても何もできていないことが虚しかった。
だが結局、レンド達が、ヒクルを殺し終わって、その報告を役場の人間にされるまで、ガルムは特に何もできなかった。
ヒクルが死んだ知らせを聞いてようやく一息ついたその日の夜、ミケルが必死の形相で王のもとに現れた。。
「王! 早く逃げてください!」
「どうした。何があった」
「エサルのやつ……全部気づいてたんです……。あれがヒクルだってことも……とにかくこのままじゃあなたが!」
ミケルの話は焦っていてよくわからなかったので王は一度ミケルを落ち着かせた。
「何があったか順を追って話せ」
ミケルは経緯を喋り始めた。




