第64話 手記 五日目-八回目④
「あの獣はやはりファンネルではありませんでした」
驚いたようにラフサルさんは振り向く。
「じゃあいったい……」
「私もわかりません……」
ラフサルさんはどこかほっとしていたような顔をしていた。
「ほんならファンネルは生きておるかもしれん……。その方がうれしいがなあ」
話こんでいるうちに聖獣隊の一団が酒場にたどり着く。今までと同様、卒業するマリウスを皆がねぎらっていた。
「卒業後はどうするんだ?」
「この町に残って母の仕事を手伝います……。自分の責任でやりたい事をやるようにと教わっていますけど、今まで手伝えなかった分どうしても助けたくて」
レルベットはうなずいた。
「感心だな、お前は本当によく働いてくれた。皆も感謝しているよ」
レルベットのその言葉に何人もが賛同していた。そしてまたしばらくすると、今度は、反獣王派の人間がクラムを先頭に入ってくる。例によってマリウス達とクラム達で言い争いが始まった。
「自分達の大切な人間が今の甘い体制のせいで失われても、俺は知らんぞ」
クラムが捨て台詞を残して去っていくと、何人かが追いかける。私も一緒に店を出ることにした。その時、店の出口で、今まで見たことのない男とすれ違った。気になって一瞬そちらを見たが、男は店の入り口近くにいたレルベットさんに何やらは話しかけに行ったようだった。そちらも気になったが、一旦クラムを追うことにする。
現時点で最大の重要事項である王殺しの真相を知っておく必要があった。
店を出てから、こっそりとクラムの後をつけて、バンメウさんと話しているクラムの様子を見届けると、クラム達の後に続いて、森に入る。
クラムが以前にいた場所はもうすでに知っていたので、気づかれないことにだけ細心の注意を払った。
森は暗く、獣もあまり周囲には現れていない。
とりあえずクラムをつけながら、王のいる小屋の周辺まで来ると、クラムと王が一望できる茂みの裏に隠れた。
クラムは今までの繰り返しと同様、クラムは王を襲うかどうか迷っていた。そして少ししてからそこからこっそりと立ち去った。ここまでは完全に同じだ。
ここからが問題だったが、しばらくしても特に誰かが現れる様子はなかった。
そして王が痺れを切らして去ろうとしたその瞬間、ごそっと小屋の近くで音がした。
私と王は同時に音がした方向を見た。
そこには聖獣隊のマリウスがその場に驚いた表情で立っていた。
私は驚いたが王も一瞬驚いた表情をしていた。王を演じてるロウ自身にもかなり予想外なことだったんだろうか、その場に固まっていた。
マリウスは少し諦めたように笑った。
「ここで王にお会いするとは……。今日は寝ぐらに戻る日じゃなかったでしたっけ」
王が話す。
「気分が変わったんだ。こんなところで何をしている?」
マリウスはゆっくりと話す。
「貢物の個数をレルベットさんに確認するように言われて……。倉庫の在庫と数が合わないそうなんです……」
王はマリウスから視線をそらさない。
「そうか……では私の部下たちに数えさせよう」
マリウスは首をふる。
「いえ、私の方ですぐに対応しますので……」
そうやってマリウスが行こうとすると、王が止める。
「待て、そもそもなぜレルベットはお前を寄越した。もう昨日、仕事はリウに引き継いだとそう聞いたぞ」
マリウスは足を止める。
「緊急だったので詳しい私に割り当てたのでしょう」
「であればなぜ、リウがいない。お前の仕事を一緒に見なければ意味がないだろうが」
マリウスは固まった。そしてようやく、王の方を振り向く。その顔は悲しいような、どこか少しホッとしたような表情を浮かべていた。
「見逃してくれませんか……。母が、母が死んでしまうんです」
「何を見逃すというんだ」
「あの実がどうしても欲しいんです。あれがないと母はもう長くない……」
王は首をふった。
「決まりはそう簡単に破れるもんじゃない……お前もよく知っているだろう」
「あなたたちに実は必要ないはずだ! 森の民はスディラにかからない!」
だが、王は突き放す。
「ここは譲れない。たとえ誰であろうとな」
マリウスは覚悟を決めたように腰に巻いている鞘に手をかける。そして剣を引き抜いて、震えながら構えた。
「どうしても、必要なんだ。」
それを見て王はつぶやいた。
「充分だ」
マリウスは一瞬なんのことかわからず困惑する。
「充分だ。ラビル! 見ているのだろう! 止めろ!」
ここで私の意識は途切れた。第65話 手記 五日目-八回目④




