第62話 手記 五日目-八回目②
初日のようにゆったりと当たりを見渡すと、前足を高く上げて振り下ろす。衝撃波が辺り一体に広がって、私がいる場所まで到達する。
だが、台の仕掛けがあるのでファンネルは気づかない。そこまでは以前と同じだった。
しかし、今日は違う。右手を地面につけて、手の刺青を地面へと移動させる。そのまま、草むらを使ってファンネルの死角から刺青を近づけた。直前でファンネルが振り向いたため、近くの草むらに入れ墨を隠しておく。
ファンネルは何かを感じとったのか、その後こちらの方向を執拗に警戒するようになっていた。このままだと入れ墨を体に移すことはできない。
だが、次の瞬間、銃声がして、弾がファンネルの足を掠める。ファンネルは痛がり、撃たれた方向へと振り向く。
瞬間私は、入れ墨を一気にファンネルの体に移動させ、一気に体を一周させた。
ファンネルの体からはやはり雌の鹿の特徴が感じられない。それを確認すると私はリクを連れて即座にその場所を離れた。
ラビルと別れる際、私は最後に一つだけ確認をした。それは拡大型の覚醒が性別の壁を超えるか? と言うことだった。ラビルはそれを聞くと、
「ありえませんね……。少なくとも私がいる限りは知らない……。攻撃手段獲得のための変化が結果として雄の特徴と似通ることはありますが、それでも性別そのものの壁は越えられないはずです……。伝承型なのであれば話は別ですがね……」
とそう言っていた。
今日はどうしてもそれが確認したかったのだ。正直、一日目にファンネルを殺した時の亡骸はほとんど完全に雄のものだろうという確信があったが、どうしてももう一度最後に触って確かめたかった。
これでようやくはっきりした……。この鹿はファンネルではない。だがそうなると、当然疑問は出て来る。この鹿は何者か? 一つ考えていたのは、ファンネルの子供……という説だった。しかしそれだとすると、年齢が合わない……。この鹿の体格からすると、おそらくファンネルと近いか少なくともそれ以上だろう。だとすれば子供はあり得ない……。
リクを連れて何とかその場を離れながら、私はもう一度ラビルに会いに行くことに決めた。




