第60話 男色の戦闘狂
「終わりましたか?」
ラビルは頷く。
「ああ、なんとか納得してくれた。再起動の準備は?」
「何とかできそうです。町長も言われたとおり牧場を探したら、小屋の一室で寝ていました。記憶も間に合ったので、一緒に更新しますね」
ラビルは体の関節を伸ばしながら返事をする。
「ありがとう。さて面白いものが見れそうだ……」
「それと……」
言いながら研究員は入ってきた扉を指差す。
「お客さんです」
「ようやく到着か」
ラビルは言うと、部屋を出て、一階へと降りる。一回の客間には苛立ったレームが腰かけていた。
「呼びつけといて、遅いじゃない」
ラビルはニヤッと微笑んだ。
「まさかあなたが来てくれるとはね、帝国が珍しく私の要求を飲んでくれたようで」
レームは呆れたように言う。
「何が、珍しく……よ。好き放題やってるくせに……。知らないと思うけど私達、カルビル地区にいたんだからね? 一週間もかかったわよここまで」
ラビルはレームの対面に座る。
「すみません。ですがどうしても二番隊にきて欲しかったんですよ。あなたのいる……ね」
レームは鼻で笑った。
「そんなに大事な案件なら、一番隊呼べばいいじゃない」
ラビルは苦笑した。
「一番隊は、大きい案件が入ってると聞きました。であれば二番目に腕が経つあなた方に依頼するのは当然ですよ」
「全く可愛くないわね……。で? わざわざ呼びつけておいてなんなわけ? つまらない話なら承知しないわよ」
ラビルはニヤッと微笑む。
(この人はめんどくさがっているふりをしているが、なんだかんだで戦闘中毒だ。)
「おそらく、この三日以内でしょうか。この山にいる獣達とこの町の人間達はおそらく戦闘になるでしょう」
レームは言われて首を傾げた。
「人間と獣が戦闘? なぁにそれ」
ラビルは説明する。
「この町が特殊な町なことは知っているでしょう。獣の王と呼ばれる獣と、人間が対等な契約の元に共存している。しかし、人間が最近、獣の王を殺したと言う事件があったのです。その後からこの関係は一年ほどずっと緊張状態でした」
レームは首を傾げる。
「あら、でも何でそれが私達まででくる自体になるわけ? たかだか獣なら人間だけで殺せるでしょう」
「普通の獣なら……ね」
ラビルの表情を見てレームは微笑んだ。
「いるのね。覚醒してるのが、まあそうじゃないなら私達を呼ばないわね……。で何匹いるの?」
ラビルは微笑みながら返す。
「少なくとも十」
レームは驚いて思わず身を乗り出した。
「十? 何言ってんの? 覚醒した獣が十もいるっての? こんなチンケな町に」
ラビルは頷く。
「ほとんどは拡大ですがね。だからあなたを読んだのです」
「十いて、伝承なら一大事よ……。まさかあんた私に全部狩れってわけじゃないでしょうね」
「おや、ご不満ですか? 張り合いのある狩りはお好きでは?」
レームは首を振る。
「限度ってもんがあるわよ。私は狩は好きだけど。死ぬのがわかりきってるところに突っ込むのは趣味じゃないの。」
ラビルは頷く。
「ご安心を、この町には銀の爪がいます。一部は向こうが引き取ってくれますよ。」
レームの顔色が興奮する。
「何? 銀の爪がいるの? 誰? レンド? それとも新入りの優男?」
ラビルは苦笑する。
「いや、女の人です。確かサラさんと言ったかな」
途端にレームはやる気を無くす。
「何よ……女か。つまんない。ハズレ引いたわね」
「それでも、彼女も爪のメンバーには変わりありません。大分負担は軽くなるはずです」
レームはふんと鼻を鳴らす。
「どうだかね……爪は確かに強いけど、女も同じ能力を持ってるかは知らないわ。私は見たもの以外は信じないから」
(この人の男色にも困ったものだ……)
ラビルは内心呆れていた。同性愛差別があるこの世界で、男色のレームがなぜかまかりとおるのか……。それはひとえに彼の強さによるものだった。彼を男色の件でバカにした者は、対外その場で命を絶たれていた。そこまでの狂った強さがレームをレームらしくさせる最大の要因である。
嫌がる言葉とは裏腹にラビルはレームの昂りを感じていた。
(獣の数の話をしてから露骨に表情が豊かになった。やはりこの人は根っからだ……)
「まあ、それよりも獣達の特徴をお伝えしておきましょう。おそらく近いうちすぐに戦闘になります」
ラビルはそう言うと研究員を呼びつけてレームに資料を渡させた。
「彼らの方が獣の生態に詳しいので、彼らから説明させますね」
そう言うとラビルはまた、二階の部屋に戻っていった。二階では別の研究員が作業している。
「どう? 再起動はすぐできそう?」
研究員が返す。
「多分、そこまで時間はかからないかと。」
ラビルは頷いて隣に座った。作業しながら研究員が話す。
「レームさん、思ったより早かったですね」
「私が呼んだからね。よほど楽しそうな案件だとおもったんだろう。まあ実際他の獣退治よりははるかに張り合いがあるはずだ」
ラビルは微笑む。
「彼がくる時間稼ぎのために、ここまで大掛かりなことを?」
ラビルは研究員をチラッと見て首を振る。
「それは少し穿ちすぎだね。むしろ私の目的はこれだよ。この大掛かりな研究。彼を呼んだのはもしもの時のためさ。流石に獣に大軍で攻められたら、今の私達に命の補償はなかったからね。相変わらず、君は私が何かするとすぐ企みがあると思うんだね。マスル」
マスルと呼ばれた研究員は笑う。
「ラビルさんが何も考えなく何かするのを見たことがないだけですよ。特に今回は獣に協力しすぎな気がしたので、少し勘ぐりました。ラビルさんが他人の復讐のやり方にそこまでこだわるのが意外だったのもあります」
ラビルは笑う。
「会話を聞いていたのかい。でもあながち嘘でもないんだあれは。あの手の話は下手に作り話をする方が説得力が失せる」
マスルは呆れたような顔をした。




