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超獣戯画Ⅱ  作者: 纏笛


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第6話 手記3日目① 牝鹿との邂逅 

3日目

私の今日の最大の目的は、噂の牝鹿…ファンネルに会うことだった。

朝早く起きて外に出ると昨日にもまして濃い霧が当たりを包んでいる。

ヒメルの街は朝は霧がかかるのに夜にはその霧がはけて無くなってしまうのも少し不思議に感じた。

外気もかなり冷たく、あたりは冬の到来を感じさせる。

外の様子を確認すると、一度宿に戻り、武器の手入れを始める。

私の武器の一つであるダガーと鉄製のワイヤーはさびやすいため手入れが欠かせない。

手入れを済ませると、一通り調査のための準備を済ませてまた宿を出ようとすると今度は入り口で待っていたリクにつかまる。リクは無邪気な顔で

「僕もついていくよ」

と言って私の隣から離れようとしない。

リク自身はあまり荷物は持っていなかったがさすがに今日は寒そうでローブを着込んで暖かそうないでたちだった。

今日は町長にヒメルの街からクバレノ山までの地図をもらっていたので、それに従って山と街の中間にある森に向かうことに決めていた。

地図には一応森の中でのファンネルの縄張りも書いてあり、比較的森の中でも街側の方であることがわかる。

歩いて街を離れるにつれ、今度は徐々に雪が降り始めた。

昨日もこの辺りでは雪が降っていたのかファンネルの縄張りに近づくにつれ地面も雪景色になっていっていく。

雪が降っているため、獣の足跡を追うのはかなり厳しそうだと判断し、

さらに辺りには獣の姿が見つからなかったので私は少し広域で刺青の力を使うことにした。

リクが後ろで見ている中、私は地面に右手をつけてまず右腕の内側についている小さい赤い丸の刺青を5つ手から地面に移動させる。

そして地図でもらったファンネルの縄張りをその5つの丸で囲むように刺青達を5方向に移動させていく。

刺青の移動距離は大体の感覚と今までの経験から判断できた。

刺青を細い線になるように集中すると、今度は各刺青達をその線でつなげていく。

これが私の技の一つ、『広円』だった。

円と言っても五角形だが、その刺青で囲われた範囲に接している全ての情報が流れ込んでくる。

かなり脳を消耗するので、右手を地面につけたまま私はその場に座り込んだ。

しばらくそうしていると、その五角形の縁に、足が一本入る感覚があった。

足は3本指のようで、肉球が感じられる。

しかし、足はなぜかそこで止まって、それ以上5角形の中に踏み入れようとしてこない。

私はまさか気付かれているのかと不安になった。

刺青の線はかなり細いため確認することは難しいはずだが、もし何か危険を感じているのだとすると相手はかなり強敵の予感がした。

3分くらいそうしていたが、結局その獣はゆっくりと前進し、体全てが『広円』の範囲に入ったことがわかる。

重さはおそらく350レルム(300㎏)前後、体長は5イング(4m)ないくらいと言っところか、足の蹄の感じは鹿だが、重さと大きさは普通の鹿を遥かに上回る。

ほぼ間違いなく拡大型の鹿…噂に聞くファンネルだろうと予測できた。

私はそこで、肉眼で確認できるか、草藪からそっと顔を出して双眼鏡をつかって獣のいる方向を覗いてみた。

一匹の白い大きな鹿。

かなり立派なツノを持っており、口からは白い瘴気が漏れ出ている。

そして目は鹿にしては珍しくきれいな青色をしていた。

まだ距離があるためこちらを認識できてはいないらしく、辺りをキョロキョロと見渡していた。

だが牝鹿は次の瞬間、前足を高く挙げ、地面にそのまま打ちつけた。

すると衝撃波が辺り一帯に広がる。

私は衝撃を受ける瞬間に刺青からくる感覚の調整をしていたので衝撃波を直接感じる事はなかった。

しかし、次の瞬間鹿を見ると、鹿ははっきりと草藪から少ししか見えないはずの私とリクを自身を認識していた。

私とリクのいる方角から目を離さず、しっかりとこちらを見ていたのだ。

わたしは一瞬何が起きたのか、わからなかったがこれは鹿の能力だったのだと判断した。

おそらく、あの衝撃波で縄張りにいる敵を探知できるのだろう。

しかし、私から鹿の位置はかなり離れていたので衝撃波の範囲の広さに少し恐れを持った。

しかし、あの能力…広域の敵の探知のみがファンネルの能力であるなら、そこまで恐れる事はないかもしれないとも思った。

しかし今回は気づかれた時点で私は撤退の判断をする。

今日は獣の生態を探る事が主の目的で、戦うのはまだこのタイミングではないと感じていたからだ。

瞬時に双眼鏡をしまってリクを連れて、その場を離れようとした。

しかし、その瞬間私は異変に気づいた。

先ほどまでは一切感じれなかったはずの獣の体重が『広円』の端から感じ取れる。

それも一体や二体ではない、複数の獣たちがファンネルの縄張りに続々と集まってきているのだ。

私は取り合えずファンネルが来た方向とは逆方向の街側に向かって走り出した。

すると縄張りの端に差し掛かるところで獣たちが私たちの前に立ちはだかる。

様子を見ると、各獣達から瘴気はでておらず、普通の大きさで色も変わっていない、いわゆる普通の獣だったが、目が白く光り涎を垂らしていた。

雄鹿、熊、狐、猿、猪、どの獣も皆常軌を逸したように私たちを威嚇している。

私はここで、この獣達を殺してしまうのは直感的にまずいような気がした。

町長にあまり森の獣を刺激しないように言われていたのもあるが、それ以上にこれはおそらく、ファンネルの能力である可能性が高かったからだ。

能力がわからない状態での戦闘は害獣との戦いでは致命傷になる。

だが、全く戦わずににここを抜けるのは厳しそうに見えた。

囲まれている上、リクもいる。

わたしはポケットに装備されている鉄製のワイヤーを引っ張りだした。

ワイヤーの先にはダガーがついている。

右手でワイヤーをグルグルと回すと、左手には銃を構えた。

私の銃は中型のショットガンに銃口が二つついた特殊な形状をしている。

片手で打つには重いが、状況は切迫していたので、まず威嚇で一発上に放つ。

獣達は音に一瞬怯んだように見えたが、私達への敵意は失われなかった。

すぐさま、ダガーを少し遠くの獣たちの後方の木に向かって投げる。

ダガーが刺さるタイミングで、ワイヤーを一瞬ひくと、ダガーから鉤爪が出る仕様になっっていた

木にしっかりと鉤爪が食いついたのを見ると銃を背中にしまい、リクを抱えた。

リクはそこまで重くはなかったが、抱えたまま逃げ切れるかというと五分五分だった。

動物達は銃でひるんだのも一瞬で、今度は私たちに一斉に襲いかかってくる。

その瞬間にわたしは木に引っかかったワイヤーをピンと引っ張り雪の地面を利用して右にすべりながら攻撃を避けた。

ワイヤーは特注製で途中で引っかかる木をいとも簡単に全て切り倒せる。

そのおかげでいくつかの木が、動物達の目の前に倒れた。

私はリクと一緒にそのままワイヤーをつけた木の周りを滑りながら遠心力で半周して、獣達の前に何本もの木を倒して、行く手を阻む。

獣たちが困惑している中、リクを連れてなんとかその場を逃げ切った。

1レルグ(800mほど)ほど離れると、もう獣たちが追ってくる素振りは見えなかった。

何とか街に戻ると、今日の報告のためにいったん役場に向かう。

本来はこういうことは行わないが、獣たちと街の関係は複雑そうだったので、どれくらいのことが許容されるのかを確かめる狙いもあった。

一応、町長に事情を説明し、森の木をたくさん切り倒してしまったことを詫びた。

しかし彼は動物に手を出さずにいてくれた事を感謝してくれ、森の木については特に気にしなくていいと私に伝えた。


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