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超獣戯画Ⅱ  作者: 纏笛


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第54話 職員の女の記憶

 その日、職員のミコトはいつものように町の貯蓄の管理台帳の確認を行なっていた。最終的にはもちろん、町長であるデルアートに提出するが、その前に内容に間違いがないかを事前に確認しておくのが、ミコトの仕事の一つだった。

 職員の仕事は他の町に比べて量が格段に多いわけではなかったが、尊敬する町長の負担を少しでも和らげたいと、たくさん働こうとする人間は多く、ミコトもその一人だった。

 だが当のデルアートは職員が過度に働くことを固く禁じ、厳格に彼らの労働時間を管理した。しかし、夜中緊急事態があった際、役所で寝泊まりすることも多くすぐに対応する町長を助けられない事が何度かあり、考えた結果、職員を交代制にして、夜勤制度を導入することにした。

 ミコトは今週は夜間の当番だったので、遅い時間に役所に来て仕事をはじめていた。書類を眺めているとちょうどリンカの実の数量の部分に差し当たる。

 町長は今月はいつにも増して、リンカの実の取れ高を気にしていたが、なかなか収穫数は上がらなかった。

 ミコトはふうとため息をつく。町長が実を気にしている理由は昔の恋人だと他の皆から聞いて彼女はなんとなく知っていた。

「おっといけない」

 リンカの実の話を考えると、町長に行き着いて、仕事にならなくなってしまうので、ミコトは一旦そこを後回しにして他の部分の確認をすませた。

 この仕事は交代制だが、夜間に関しては、町長が勤務していない時もあるので、自分の仕事分を終えたら、帰ってもいいことになっていた。

 夜の当番をしたがるものは少ないため、基本ミコトがその担当になることが多い。

 彼女がこの仕事に応募した当初の目論みは慕っている町長と接する時間を増やすことだったが、彼自身がそもそも忙しいため結局一緒に過ごす時間も取れず彼女にとっては少し期待はずれだった。

 今日は比較的早く仕事が片付きそうだと感じて、ミコトがホッと一息ついた矢先、急に森の様子を監視する仕事をしているグレアムが役所に駆け込んできた。

「町長は! 町長はいるか?」

「どうしたんですか? グレアムさんこんな夜中に……もう日が変わるところですよ?」

「王が……王が……」

 ミコトはグレアムのただならぬ様子を感じてすぐさま彼を二階の町長がいる部屋に案内した。入るなりグレアムは早口でまくし立てる。

「町長! 王が、王が殺されました!」

 デルアートは驚いて持っていた資料をおいてグレアムに尋ねる。

「森の動物か? 最近王の座を狙う獣がいるという話は聞いていないが……」

「それが……。特定の動物ではないようなんです……。誰も、意思疎通のできる動物がいないようで……。ロウが俺の前に飛び込んできて、乗せられるがままにここにきました……」

 デルアートはすぐさま上着を羽織る。

「下にロウがいるのか?」

「はい!」

「グレアム.お前は他の馬を役所の厩舎から引っ張ってミコトにかしてやってくれ。私はロウに乗って案内してもらう。役所にはキリトに待機していてもらう。わかったな?」

 二人は返事をした。キリトはもう一人の夜番で、ミコトから話を受けると、了解とだけ返事をしてみんなを送り出した。

 町長はロウと会うと、ロウは意図を察して、乗れと目で合図してくる。

 ミコトは噂でしか聞いたことがなかった王の親衛隊の獣を初めて見て少し興奮していた。

 グレアムが廐舎から馬を一頭引っ張ってきて、ミコトとグレアムはそちらに乗り、デルアートだけがロウに乗って、森へと向かう。

 森に入るとロウはものすごい速さでガルムが倒れている小屋まで辿りつくとデルアートをそこで下ろした。

 少し遅れて、グレアムとミコトが到着する。

「これは……」

 血だらけのガルムの惨状にデルアートは思わず声を漏らした。

「ひどい……」

 ミコトも思わず息を呑んだ。ガルムの周りは血だらけで、胸のところに傷があった。

 デルアートは王に触ろうとするが、その前にロウに触っていいか? と目で訴える。ロウは頷いた。デルアートは汚れないように手袋を取り出すと傷口を中心に触りながら、ガルムの体を確認した。その際ミコトを近くに呼びつけて、詳細を記録させる。

 ミコトも自分がついていくということは記録が必要なのだと理解していて、記録書やペンなどの一式を準備してきていた。

 後ろからグレアムが恐る恐る話す。

「町長……。俺から言わせて貰えばこれは……」

 デルアートはうなずいた。

「ああ、間違いなく人間の仕業だ……。剣で一突き……か」

 喋りながらデルアートは一枚の紙を取り出した。そこには人や、動物など色々な絵が仕切られて描かれていた。

「これを使う時がくるとは……」

 デルアートはそれをロウが見えるように地面に置いた。いつのまにか、あたりにはカリムなどの動物達がいて囲まれていた。

「町長……それは……」

「先代が作ってた、王がいない時の連絡手段だ……親衛隊の動物は王がいなくても連絡を取れるようにこれを覚えてる」

 そう言うと、町長はその紙に書かれている人間と書かれた絵を順番に指差していく。 途中途中でロウは二回足踏みした。

『人間、殺した、王』

 デルアートが読み上げた言葉に反応してロウは頷いた。デルアートはそれに対して絵を指さして返事をする。

 『しかし、王、殺した、人間、わからない』

 ロウは興奮しながらも、絵を足で指していく。

『王、殺した、人間、探せ』

 ミコトは親衛隊は頭がいいと聞いていたが、目の前のロウの頭の良さには驚いていた。デルアートはうなずくと、一旦町に戻りたい旨を伝え、今度はロウを街に残して町に戻った。

 役所に戻ると、キリトを含め全員をデルアートは集めた。

「それでどうでした? 王は。」

「死んでいた。グレアムが言っていたように、あれは人間の仕業だ。ほぼ間違いなくな」

「人間が王を殺すって……そうなったらどうなるんです? 人間が王になるんですか?」

 デルアートは首を振った。

「どうだろうな……。そのような話は記録を見ても未だかつてなかった。今回が初めてなんだ……。でも人間も動物の一緒だから、同じようなことが起きていてもおかしくはない」

 皆はふと考えこんだ。今度はミコトが喋りはじめる。

「誰がこんなことを……あんまり王を人間が殺す利点がないんですよね」

 デルアートは頷いた。

「おそらく利益ではなく、私怨とかそう言った類のものなのかもしれない。ガルムは王になる前にたくさん人間を襲っているしな」

 グレアムは頷いた。

「反獣派の中にはガルムに家族が襲われたことがきっかけで反獣派に傾いた人たちもいます……多分そいつらの誰かでしょう……」

 デルアートは頷きながら、訝しげな表情をした。ミコトは少しその町長の表情が気になっていた。

――いつもなら、こういうのすぐに突き止めちゃうのに……なんかおかしい?

 話が終わると町長はミコトに少し話しかけた。

「ミコト、剣の中心に丸く膨らんだ線が形式のもの……それを売ってるのは……」

 ミコトは頷いた。

「クロムさんですね、でもあんなもの買う人は限られてますよ……」

 デルアートは頷いた。

「ああ、聖獣隊の聖剣、反獣派も最近買い始めたと聞く。あとは、専任の獣狩りか……」

 ミコトは思ったことを喋る。

「やっぱり反獣派の仕業なんですかね? 今上げた人の中で動機があるのはそこら辺くらいしか……」

 デルアートはふと、グレアムに尋ねる。

「王が死んだとロウ達が気付いたのはいつ頃かわかるか?」

 グレアムは考えこむ。

「多分……日が変わった後くらいかと思います。私が、遅番で入った後から二時間ほどたったあとだったんで……」

 デルアートは少し考え込む。そして立ち上がると

「少し、出てくる。留守を頼む」

 と言って、役所を後にした。


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