第51話 手記 五日目-六回目⑬
ロウは元々馬で、王の護衛をしていたとラビルが教えてくれたので、もしかするとあの馬がロウなのではないかと私は思った。
王は二頭とは小屋を挟んで対角側にいる。そして、王の方にはクラムがいたはず……。とすると、仮にクラムが犯人ではないとすれば、クラムが去った後に来る人間が怪しいということになる。
二頭以外が小屋の周りにいないことを確認すると私は再度王たちの様子を見に行くことにした。クラムは物陰に隠れて、王の様子を窺っていたが、やはり昨日と同じように彼は王に何もすることなく帰って行く。そこからしばらく王はその場にいたが、結局誰もその場に来ることはなかった。
そして更に一時間程が経過すると突然王が横たわり、その場で息絶えたように動かなくなった。
そこに、異変に気づいた馬と熊の二頭が駆け込んでくる。二頭は王がもう死んでいる事がわかると、大声で雄叫びを上げた。
その瞬間それに呼応するように森でも、次々に他の場所から咆哮が聞こえてきた。
二頭は一通り叫び終わると、一気に町の方向に向かって駆け出していった。
私はあたりに獣がいないことを確認すると、一度王の様子を見にいった。王は完全にこと切れていた。体を見てみると、胸部に刺されたような傷跡があった。触ってみると普通の刺し傷には思えない独特の形の傷になっていることがわかる。
「これは普通の剣じゃない……」
すると死んでるはずの王から声がした。
――邪魔をするなと言ったはずだが?
驚いたが、王役のロウだろうと察しはついた。
――あなたはロウね?
――そうだ、現実ではないとはいえ、軽々しく王の体に触れるな。
――少し、手がかりが知りたいのです。これは王が死んだ時の体を再現しているのでしょう?
ロウは考えているようで一瞬返事が遅れた。
――ああ、私とカリムが触れた時の記憶がそのまま残っている。王が死にいく時の感覚……私は止められなかった。忘れようがない……。
――この傷は普通の剣ではありません……前にこれと同じ物をどこかで……。
瞬間、私の脳裏に剣を売っていたクロムさんの顔が浮かぶ。
――そうだ……バハム地区固有の意匠だ。と言うことはあそこで買った人間に絞られる……。
私の独り言をロウはただ聞いていた。
――いまだに信じられん……王が人間に殺される等……。
私は一応他にも傷がないか探る。
――刺し傷はこの一箇所だけ……一突きで心臓を正確に貫いている……。とんでもない技術ですね。
ロウは続ける。
――相当な腕前でなければ王は殺せん……。王であれば我らのように覚醒した獣でも、引けを取らない……。それほどまでに王は強かった……。
やはり獣狩り、その中でも相当な手練れが王を殺したように見えた。クロムさんにも確認は必要だが、バハム地区の剣を売った人間を特定すれば、相手は絞れるだろう。
可能性として考えられるのはこの町の獣狩りか……。あの日レンドさんがファンネルを買ったとすれば獣狩り達は特に仕事をせず、帰ったことになる。しかし、もし仮に町長が王を殺す指示を別で出していたとすれば……。そこの点は調べる価値がある気がした。
――あなたが町長を疑う意味がなんとなくわかる気がしました。私の方でいくつか、調べてみます。
ロウはそれには特に返事をしなかった。
――あのさっき離れて行った馬……あれがあなたですか?
――そうだ……。私が王をやる代わりに、この世界の私は一年前の記憶を、使ってもらった……。
当時の彼の心中は計りかねるが、それをきっかけに覚醒しているところを見ると相当応えたのだろう。
――しかし町長が仮に殺したとすると、理由がわかりません……。彼はかなり優秀に見えますし、王を殺すなんていう暴挙にでるとはとても思えない……。
ロウは一呼吸置いて応えた。
――たしかにあの男は優秀だが、その前に人間だ。人には感情と知能の両方がある。しかし、このバランスが時折壊れると人間は知能で判断すれば決してやらないことをしてしまうものだ。
――彼がバランスを崩したと?
――誰しもそうなることがある。という話だ。町長であるから、優秀だからそうならないわけではない。
この獣は、人間より深く人間を理解している。と私はその時感じた。
――探ってみます。彼の現実の居場所も含めて……とりあえずそれが一番の近道であるということがよく分かりました。
私はその後森を立ち去った。
町に帰るともう、かなり夜も老けた状態だった。この繰り返しがどの時点を基準にしているかわからなかったが、おそらくそろそろ日が変わろうとしているタイミングなことはわかった。




